その戦士、大河を纏いて闘争に酔う
フクィーカツの森の中、名もなき湖の湖畔にて。優美で美しいその光景は絵に心得がある者なら思わず筆をとるほどの素晴らしいものだった。だがそこに在る意味ふさわしくない巨影が二つ対峙していた。周囲にはこれまたこの場にふさわしくない大量の低級魔物の死骸が大量に転がっており、透明度の高い湖の水が一部赤黒く濁ってしまっている。
対峙する一つの影は元ジェネラルトロールだったキングトロール。スタンピードが発生し大量の魔物が出現、それらを倒し続けることで進化を果たしたはぐれもの。最近進化したとはいえ積み上げた戦いの数は他の魔物とは一線を画す。その皮膚はあらゆる攻撃を受ける度に元来彼が持つ驚異的な自然治癒によって耐性を得て硬化し、敵対者に向けられて振るわれた拳は鋼すら握り砕くだろう。
もう一つの影はこれまた異質な恐竜型から人型に変形した戦士。骨をモチーフにした鎧を纏い、背には異様な巨剣を背負い、その恐竜の頭部の骨を模したヘルムの窓からは赤い魔力の光が漏れ出ている。『魔歯車人形・戦水獣竜戦士ロック』。太古より蘇った戦闘狂である。
背中に会った特徴的な背びれは形を変えて肩部に移動し豪奢な肩鎧のようになっている。長い尻尾は臀部から切り離され背中に背負っているチェーンソーのような剣に。頭部は左右に広がった胸部の中へと収納され、収納されていた人型の頭部が姿を現していた。下半身は百八十度回転し逆関節が人と同じ関節に、つま先も恐竜の三本爪から足鎧のようなつま先へと変形していた。
両雄は睨み合う。美しかった湖の湖畔は以前のような静謐な空気に気に包まれる。風の凪、揺れる木々の枝の擦れる音。その枝についた魔物の血がぴちょんと音を立てて地面に落ちる。刹那、キングトロールとロックは地面を掘り返すほどの勢いをつけて相手に接近、思い切り握りしめた巨拳を相手の頬目掛けて叩き込んだ。
「ゴォォォァァァ!!!!!」
『グラァァァァァァァ!!!!』
ガゴォォン!!
そのあまりの衝撃に湖畔の木々は大きくざわりと揺れ、隠れていた低級魔物はこぞって逃げ出し、その音はキヤたちの居る場所にまで聞こえたという。
ぐらりと体勢を崩す両雄、しかしほぼ同時に踏ん張り直し再び相手へ拳を振るう。何度も何度も何度でも。数メートルに及ぶ巨人同士の壮絶な殴り合いはまるで神話の一節のようで、辺りに響く相手を殴った時の爆音も相まって一種の神々しさすら帯びていた。そして両雄の心は共通する感情が支配していた。全力で戦ってもカンタンには壊れない理想の相手を見つけた歓喜。思う存分自分の力を奮える歓喜。そんな我々には理解しがたい、強者であり狂者の二人の思考。この瞬間、二人はこの上なく満たされていたのだ。
無粋な乱入者が現れなければ
『ゴォォォガァァァーーーーーーーーオォーーーン!!!!!』
ついにここまで来てしまった。このモンスターの大移動、スタンピードの原因であり元凶、絶対者、生態系の頂点であり全ての生物の天敵。フクィーカツ奥地の封印の山より復活したドラゴンである。
ドラゴンは不快だった。絶対強者である自分の前に障害物があることが許せなかった。己の歩みを止めるモノ。矮小な生き物の分際で腹立たしい。そんな傲慢極まりない怪物が障害物に向かってどんなリアクションをするかなど火を見るよりも明らかだ。
頭二つ分ほど小さな巨人たちに向かってドラゴンは容赦なく前足を振るい弾き飛ばした。まるで目障りなホコリでも払うかのように。そしてそのまま悠然と歩を進める。ゴミ箱に捨てたホコリの末路などどうでもいいと言わんばかりに。だがそんなドラゴンの態度に納得しないモノ達が居た。キングトロールとロックである。戦いという楽しみを一番いい所でジャマされ挙句自分たちなど眼中にない、そんな傲慢なドラゴンに彼らは激情を覚えたのだ。
弾き飛ばされた彼らはすぐに立ち上がり、ドラゴンに八つ当たりを始めた。ロックは跳躍しドラゴンの背中に張り付き、翼の残骸を掴んで翼の根元を思い切り何度も踏みつける。キングトロールは辺りに転がっていた岩を持ち上げ、ドラゴンの顔面に向けて思い切り投げつける。どちらも関節や顔面など生物の絶対的な弱点を狙った攻撃、ドラゴンは先ほどの不快感が数倍になって戻ってきたことに憤り、ここで初めてちゃんと彼らを認識した。
ドラゴンの尾が急激に長くしなやかに伸び、鞭のように振るわれ背中に張り付いていたロックを思い切り叩く。その強烈な衝撃にロックは思わず掴まっていた翼を離して地面に落ちた。ドラゴンは続けてその尾で先ほど投げつけられた岩に尾をを巻き付けるように持ち上げ、キングトロールへ向けてブン投げた。尾だけとはいえ相当な筋力によって射出された巨岩、さしものキングトロールも決して小さくないダメージを負う。
余談だがドラゴンの尻尾の変化は一種の身体能力強化魔法の亜種であり、身体変化の魔法と言われている。顔に使えば軽い変装のようなこともでき、使い方次第ではかなり汎用性は高い。が、この魔法を起動する為の魔力量の関係で人間で使いこなせるものはごく僅かであり、魔族もそれほど普及している魔法ではない。だがドラゴンなら恵まれた身体能力と豊富な魔力量によりこの魔法を使いこなせるのだ。
『ガラァァァァァン?!』
「グゴォォォォ?!」
余談だが、魔歯車人形達は痛みは感じないが己を構成している部品が傷つけばダメージを負ったと心臓部の魔石が感知する。これは魔歯車人形達全員がギアボックスに望んだ機能だ。ダメージ管理の為らしい。
ドラゴンにまたしても弾き飛ばされた彼らは完全にブチ切れ、ロックは背負っていた剣を抜剣し、周囲に巨大な水塊を出現させる。キングトロールは進化によって増えた魔力を拳や急所に纏わせて鎧のように強化した。ここからが本番である。
次回からはMRCのガチ戦闘です。ちゃんと表現できるか少々不安ではありますが、近づいたこの章の最後までお付き合いいただければと思います。いつかMRCの変形おもちゃとかでないかな(叶わぬ夢想)
あ、ついでに評価を★五にしてくれるとMRCのツヤがよくなります。




