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さよならの夜 作者:中川あき
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4/12

私は、あの路地を彷徨っていた。
月を見上げる。満月だった。
「勇哉、ごめんね……」
日が暮れてからそこまで時間が経っていない時間帯。月の姿が、頼りない。
「私のせいで勇哉は……死んでしまった」
しんとした静けさの中に、私はいた。
「ごめんね……」
私は涙を流し、呟いた。

「友香先輩」
……まさか、この声は……
思わず振り返った。そして、目を疑った。
「嘘」
そこにいたのは、そこにいるはずのない人だったから。
「勇哉」
私はその名を呼んだ。
彼は微笑んだ。いつものように。
「最後に、お別れを言おうと思ったんです」
つきり、と心が痛んだ。
「僕、先輩といることが出来て、幸せでした。もう、一緒に過ごせないことが悲しいですが……先輩との思い出は宝物です。今まで、ありがとうございました」
勇哉は、後ろを向いて歩き出した。
……行ってしまう!
本当に、逝ってしまう……!
「勇哉」
勇哉はこちらを振り返った。
「……ねえ、勇哉。あなたは……」
勇哉は首を傾げ、いつもの様に微笑んでいる。
「あなたは、本当に……勇哉なの?」
勇哉は、いつもの様に微笑むだけだ。
「それとも、これは私の夢なの?」
私の頰を、何か冷たいものが伝っていった。
「ねえ、行かないで……」
(ごめんね、勇哉)
全部、私のせいだ。

「……先輩の願い事、今夜だけ叶えます」
勇哉は不意に、泣きそうな声でそう言った。
「私の、願い事?」
そう訊く私に勇哉はうなづき、恥ずかしそうに、明るく言った。

「友香、花火を見に行こう!」

そうだ……
私の願い事。それは、勇哉に呼び捨てで呼ばれ、タメ語でお互いに話すことだった。
そして、私達2人は、いつか一緒に花火大会に行こうと約束していた。丁度いいことに、今日は、私の住む街で花火大会がある日だ。

勇哉は私に手を差し伸べた。いつもの笑顔で。私はその手を握る。意外にも温かく、しっかりとした手だった。

(二度とこの手を放したくない)
いつか放さなければならないとしても。
その時が、もうすぐ来てしまうとしても。
(今だけは、この手を放さない)
大切な人の、この手だけは。
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