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序章
「友香先輩」
私の名を呼ぶ、聞きなれた声。
……まさか、この声は……
思わず振り返った。そして、目を疑った。
「嘘」
夕闇に紛れて、そこにいたのは。
そこにいたのは、そこにいるはずのない人だった。
「勇哉」
私はその名を呼んだ。
彼は微笑んだ。いつものように。
「最後に、お別れを言おうと思ったんです」
勇哉は、後ろを向いて歩き出した。
……行ってしまう!
「勇哉」
普段は出ない、滅多に出ない、大きな声だった。
勇哉はこちらを振り返った。
「……ねえ、勇哉。あなたは……」
勇哉は首を傾げ、いつもの様に微笑んでいる。
その姿が、今にも夕闇に溶けて消えてしまいそうな気がして、怖い。
だからだろうか。
どんどん声が、萎んでいくのが分かる。
「あなたは、本当に……勇哉なの?」
まるで夢みたいで。
信じることが出来なくて。
思わず問いかけていた。
なのに勇哉は、いつもの様に微笑むだけだ。
「それとも、これは私の夢なの?」
私の頰を、何か冷たいものが伝っていった。
「ねえ、行かないで……」
(ごめんね、勇哉)
全部、私のせいだ。




