従兄弟であり親友
スチュアートが俺の部屋を出て、それほど経たぬうちに騒がしい足音が聞こえてきた。
バンッ!!と、ドアが壊れるんじゃないかと思わず思ってしまうほど、大きな音が鳴る。
「クロッカスっ!!」
ドアの方を見ると、息を乱した、青色の流れる髪を刈り上げない程度に短い髪型をした青年が立っていた。俺を見る琥珀色の目には、嫉妬も、嫌悪も、侮蔑も、宿っていない。ただ、昔と同じようにキラキラと輝く綺麗で純粋な瞳があった。
デルフィニウム=ラックリィ。
ラックリィ侯爵家の次男であり、俺の父方の一つ上の従兄弟にあたる人物。
「………フィニ?」
そして、俺の――――親友だった(・・・)男。
デルフィニウムと俺は年が近いこともあって、幼い頃から一緒に遊んでいた。従兄弟であり、幼馴染であり、気心知れた仲は友から親友へ。
確かに俺たちは親友だったんだ。リリーに出会うまでは――――
――――クロッカス………俺は絶対、リリーを俺のものにする。だから、お前とはもう………
そう言われた時、俺はただ曖昧に笑みを作っただけだった。
あの時、俺が何かを言えば、俺たちは親友のままでいられただろうか。また、馬鹿やって笑い合えていただろうか。
紫色のクロッカスの花言葉は「愛の後悔」。それは友愛も含まれていたのだろうか………。
きっと、花のことになると途端に笑顔になる、アリシアなら答えを知っているのだろう。
アリシア、君はこの夢に――――
「ッ……!ッゥ………!」
痛い。
ものすごい、痛い。
あ、ちょっと涙が………
「無視してんじゃねーよ、バカクロ」
あいつ………何が詰まっているのか問いかけたくなる程の石頭で頭突きしやがった………。頭は悪くないはずなのに、頭を使うという、根本的な使い方が間違ってやがる………すげぇ、痛ぇ。
「テメェ、いい年した奴が頭突きとかやめろって言ってんだろうがよ………」
「ああ?無視するお前が、悪ぃんだよ」
何度も頭突きを食らわされる度に言っていた科白を、久しぶりに言う。
だが、この痛みで夢じゃないと実感させられた。こんな痛みは、夢なんかじゃ味わえるものではないからな。
このドヤ顔を晒している俺様男に感謝するべきか、否か………
「寝ぼけているお前を、この俺が、起こしてやったんだ。感謝しろ」
絶っ対ぇ、感謝なんかしてやんねぇ。
だが、ああ、懐かしい………。
昔――――リリーに出会うまでは、こんなふうにバカやって、騒いで、笑ってた。
あいつは………フィニは、傲慢で、尊大な口で、気分屋で、いっつも振り回された。
それでも楽しくて、互いに憎まれ口叩いても、そこに本気の色なんてなかった。
昔のやり取りを思い出して、思わず口が緩んだ。
「クロッカス?………お前、本当に大丈夫か?寝台で頭でも打ったんじゃ………」
だけど、リリーの隣にいる、あいつを見ると、心の奥底から、どす黒い、感情が、湧き出て――――
――――自己中心の身勝手野郎が。リリーだってお前なんかと一緒じゃ息が詰まるだろうな
俺が、言った言葉、フィニに向けて。
リリーは、オロオロと困ったフリを、していた。今なら、分かる。
あの女は、いつだって、裏から、醜く、争う、俺たちを、見下して、嘲笑って、いた。
もっと、もっと、早くに、気づけていた、ら――――
「ガッ………!?」
何の準備もなしにくらった衝撃は、当たり所が悪かったのか、俺の意識を持っていった。
痛みを感じながら、霞んでいく視界には、憎たらしく笑うあいつが。
「俺を無視するなんて、10年、いや100年早ぇんだよ、バーカクロ」
起きたらぜってぇ殴ってやる………!アホフィニが!!
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