第九章:破魔の剣を継ぐ者
第一幕:フェンリルの事情と代打
天使教会の回廊で、フェンリル・ブレイクは豪快な笑みを収めると、少し申し訳なさそうに後頭部のボサボサ髪を掻いた。
「少主、本来ならあんた自らの頼みだ、オレ様が命を賭してでも一番槍を撒いて飛び出すところなんだがな。だが本当に間が悪い……シリウス隊長から緊急駐防の命令が下ったばかりでな。不夜城の境界防衛の重任をまるまる任されちまったんだ。ここ数日はどうしても手が離せねぇ」
メシアは少し残念そうに眉を下げた。
「そうですか……境界の防衛の方がずっと大切ですからね、フェンリル叔父さん、お疲れ様です」
だが、フェンリルはすぐさまメシアの肩を豪快にバシッと叩き、ニヤリと歯を見せて笑った。
「だが少主、心配すんな! オレの手が空いてねぇなら、代わりにオレの娘——『オフィーリア』をお供につけさせてやる!」
「オフィーリア……?」
ディアブラは傍らで好奇心から小さなお首をコテンと傾げた。
フェンリルの瞳にこの上ない誇らしげな光が走り、彼は眉を跳ね上げて笑った。
「あいつの母親はな……かつて『破魔の剣』と謳われたロンドン最強の女剣士・キャサリンだ! オフィーリアは母親の剣術の才能を完璧に受け継いでいてな、若くしてすでに飛び切りの剣術の天才なんだよ——あいつがついていけば、あんたのその深窓の『彼女さん』の面倒も、バッチリ見てくれるはずだぜ!」
◇
第二幕:『彼女?!』と限界突破のツンデレ
『ドカァァァン————!』
「か……か……か……か……『彼女』ぉぉぉ!?」
『彼女』という三文字が、まるで何千発もの超大型爆弾のごとく、一瞬間でお嬢様の耳元で大爆発を起こした!
ディアブラの華奢な身体が跳ね上がるように激しく震えた。恥ずかしさからほんのり赤くなっていた小さなお顔が、たった一秒で耳の根元まで真っ赤に染まり上がり、果ては長くしなやかな白いうなじや耳たぶからまで、愛くるしいピンク色の蒸気が立ち上らんばかりとなった!
千年前、孤高にして絶対たる存在だった魔王ディアブロとして——彼の精神は、このあまりにも不敬で破廉恥な誤解に激痛のごとき悶絶を味わっていた!彼女はまるで尻尾を踏みつけられた毛を逆立てる子猫のごとく跳ね起きると、ドレスの裾をギュッと握りしめ、石畳の床をジタバタと地踏みしながら、ヒステリックに絶叫した。
「違っ……ちゃっ……ちゃ……違うわよぉぉぉぉ——!!!」
ディアブラはブルブルと震える指で傍らにいる無辜なメシアを指さし、目元に恥ずかしさと憤怒の入り混じった涙を浮かべ、逆上してフェンリルに向かって叫び散らした。
「本王はこんなガサツで野蛮で焼き肉しか能がない農夫のガキの『彼女』などではないわ! わたくしたちは……ただの単純な雇用関係なのだ! 本王が金を払い、こいつが本王のために働く! ただそれだけの関係なのだぞ!」
メシアは頭から湯気を立てて理性を失っている目の前のお嬢様を見つめ、どこか可笑しそうに両手を広げると、フェンリルに向かって無実を主張するようにパチクリと目をまばたかせた。
「フェンリル叔父さん、見ての通りですよ。彼女、超絶性格が悪いですからね。僕だってこんな彼女なんて怖くて要りませんよ、毎日殴り殺されちゃいます」
「この金持ちのフリをした詐欺師のガキが何を言っているのだ!?」
ディアブラは怒りのあまり息を詰まらせそうになりながら、小さな拳を振り回して殴りかかろうとした。
◇
第三幕:天才剣術少女・オフィーリア登場
『タッ、タッ、タッ』
ディアブラが怒髪天を突いて暴走しかけたその時、教会の扉の外から極めて規則正しく、凛とした軽やかな金属ブーツの音が響いた。
「父上、少主とお客人の前で軽々しく冗談を仰るのはお控えください」
冷たく澄み切った、銀の鈴が氷を割るような声が続いて響き渡った。
一同が振り返ると、そこには仕立ての良い西洋剣士の服を身に纏い、腰に神聖で清廉な寒光を放つ銀白のレイピアを差した一人の少女が、しとやかに歩み寄ってくるところだった。
少女は流麗な銀ブルーのショートヘアをなびかせ、その眼光はタカのように鋭かった。眉宇の間には母親キャサリンと瓜二つの気高さと厳格さ、そして父親フェンリルから受け継いだ野性味あふれる暗光を覗かせていた。
彼女は一同の前に進み出ると、優雅かつ無駄のない動作で剣を抜いて胸前にかかげ、メシアに向かって深く頭を下げた。
「オフィーリア・ブレイク、少主にお目にかかります。母上と父上の教えは片時も忘れたことはございません。今回の『神の島』への護衛の任務、この私にお任せください」
◇
第四幕:三人の異様な空気と遠征の旅立ち
オフィーリアは滑らかに剣を鞘へと収めると、その冷酷で清らかな青い瞳で、傍らでまだ顔を真っ赤にして肩で息をしているお嬢様をじろじろと見定めた。
一流の剣客としての鋭い直感が、オフィーリアにディアブラのあまりにも華奢で無力な凡人の肉体を一目で見抜かせていた。彼女は微かに眉をひそめると、冷淡ながらも極めて頼もしい口調で告げた。
「そちらのお嬢様……あなたを纏う魔力はまるでただの平民のように微弱ですが、少主のお言付けである以上、私の『破魔の剣術』をもって指一本触れさせぬようお守りいたします。ですが道中におかれましては、くれぐれも少主と私の指示に従ってください」
ディアブラは目の前のスラリと背が高く、格好良くてクールな剣術少女を見つめ、さらに相手から溢れ出る圧倒的な強者のオーラを感じ取ると、胸の中で嫉妬と後ろめたさを混ざり合わせながらフンと鼻を鳴らした。
「フン……わかったわよ! 誰も彼も凄まじい力持ちばかりで……大層なことだな……」
フェンリルはこの活気に満ちあふれたチームを見つめ、ガハハと大笑いした。
「よし! ならば『神の島遠征小隊』の正式結成だ! 少主、オフィーリア、そしてお嬢様……健闘を祈ってるぜ、一日も早く『ソロモンの指輪』を持ち帰ってきな!」




