第46章:虚無魔神の降臨
神の島の深部、薄暗く湿り気を帯びた深海隧道の入り口前。
空気には濃厚な潮の香りと古の魔法霊圧が漂い、遠くからは絶え間なく波の音が、まるで夜の闇の中で唸る低き巨獣の如く轟いていた。
リヴァイアサンは隧道の入り口に立ち、湛藍色の長裾を海風になびかせながら、足元の底知れぬ深淵から幽藍の微光を放つ巨大な通路を指差して、沈んだ声で言った。
「主宰者の剣は……この下の最奥にあるわ。」
傍らに立つサン・ジェルマン伯爵は、手にした白銀の魔杖をゆっくりと持ち上げた。その繊細な指先が虚空を優雅に一なですると、幾重もの複雑かつ古の湛藍の光跡が星環の如く交錯して広がり、白石の地面の上に巨大で精密な大型の錬金法陣がせり上がり、魂を震わせる界域の波動を放ち始めた。
「これで……地獄の門の前置召喚陣の作業は、完全に完了したと言えよう。」
伯爵は魔杖を収め、両手を優雅に胸の前で組んだ。彼女は振り返り、千回以上の世界線輪転を見届けてきたその湛藍の双眸をわずかに細めると、目の前にいる、自分と歳がさほど変わらぬかのような小柄で美しい少女をじっと見据えた。
伯爵の声には普段の軽快さが消え失せ、歳月を越えてきたかのような重厚さと深遠さが帯びていた。
「君は本当に……そのつもりなのだね、魔王大人?」
秘密を看破されたディアブラはぎょっとした。彼女は小首をわずかに仰がせ、あらゆる因果と運命を見通すかのような伯爵の瞳を見つめながら、どこか意外そうに唇を尖らせた。
「なんだよ……お前、最初から全部気づいてたのかよ。」
ディアブラは自嘲気味にふっと笑い、両手を当然の如く胸の前で組んだ。彼女は顔を背け、深海隧道の行く手に広がる漆黒の世界を見据えた。その深紅の血の瞳には、微塵も揺るぎない決意と帝王の高傲が宿っていた。
少女の声はまだあどけなさを残しながらも、千年の時を越えた帝王の威厳と余裕を湛えていた。
「決まってらあ。あの醜い化け物に本王の前世の肉体で世界を滅ぼされるくらいなら……いっそ本王が自ら出向き、あの肉体ごと相打ちになってやるさ!」
淡々としつつも震撼させるその言葉を聞きながら、サン・ジェルマン伯爵は彼女を静かに見つめ、その口元に含みのある敬意を帯びた弧線を浮かべた。
「ふふ……まったく感服させられるね。」
伯爵は手にした魔杖を優しく撫でながら感嘆した。
「千年前の世界を滅ぼした暴虐の魔王が、今や……世界を救うために自らの犠牲を選ぶとはね。時間というのは本当に恐ろしいものだ……無情な怪物をも完全に変えてしまうのだから。」
ディアブラは顔を背け、真っ赤に火照った小さな顔に気恥ずかしさと不自然さを浮かべながら、低い声で悪態をついた。
「ふん、勝手に勘違いするな! 本王は別に世界のためなんかじゃない……ただ……誰かがまた本王のために血を流すのを見るのが嫌なだけだ!」
傍らに立つリヴァイアサンは、強がりを言う大小姐を見つめ、その眼差しに言いようのない複雑な感情を宿しながら、長袍の中で両手を固く握りしめた……!
天地が変色し、風雲が急を告げる!
一同は神の島の古き聖台の上に仁王立ちし、険しい面持ちで万全の構えをとった。
その時、突如として天空が目に見えぬ巨大な手によって生々しく引き裂かれた! 心をえぐるような、息の詰まるほど強大な虚無のエネルギーが、滔々たる海嘯の如く九天から狂い湧き出た!
晴れ渡っていたはずの空が瞬く間に天を覆い尽くす漆黒に呑み込まれ、六枚の巨大で獰猛な漆黒の魔翼が狂風の中でバサリと展開されると、耳を聾し魂を引き裂くような咆哮が天界を揺るがした!
『グオオオオオオアアアアアッ——!!』
荒れ狂う混沌の気流のなか、幽紫色の死光を放つ巨大な巨爪が空間を引き裂いて躍り出た。一撃必殺の残忍な威圧感を纏い、最前線に立つディアブラめがけて一直線に急襲してきた!
その爪の速さは電光石火の如く、巻き起こされた猛烈な疾風はディアブラの銀灰色の長髪を激しく狂い踊らせ、周囲の空気を圧縮し耳障りな爆鳴を上げさせた。
『吭——————!!』
まさに一巻の終わりというその瞬間、一筋の眩い黒金の光が夜空を走る雷光の如く、突如として虚空を引き裂いた!
天魔断罪の剣が万丈の煞気を爆発させ、天地を引き裂くに足る致命的な巨爪を寸分の狂いもなく正確に受け止めた! 激しい金属の衝突音が唸りを上げる衝撃波へと変わり、地面の硬い白石を一瞬にして粉々に粉砕した!
硝煙と黒煙の中、メシアは剣を横たえてディアブラの前に立ち塞がり、その細身の背中はまるで乗り越えることのできない高山のようだった。
少年のこめかみに青筋が浮き上がり、剣の柄を握る手の指節は力を込めすぎて真っ白になっていた。彼はゆっくりと顔を上げ、その黄金色の真龍の金瞳から普段の温かさが一切消え失せ、果てしない冷徹さと底知れぬ殺意だけが宿っていた。
メシアは眼前の、百丈の巨体を誇りかつての魔王の「六眼・六角・六翼」の姿を模した醜い化け物をじっと睨みつけ、嘲笑と怒りに満ちた冷たい笑みを浮かべた。
「その顔……本当にご無沙汰だな……」
メシアの声は低く冷たく、一言一言が重い鉄槌の如く天界に響き渡った。
「だが残念だな……お前のその身体に入っている中身は、どれもこれも腐りきったまがい物のガラクタばかりだ! 魂すらない傀儡の風情に、どこから湧いた安物の詰め物人形のつもりだ?!」
『轟——!』
声が響き終わるより早く、メシアの体内で真龍の勇者の狂暴な力が盛大に爆発した! 黒と金が交錯する荒れ狂う剣気が、ニビルの巨大な巨爪を直接力任せに弾き飛ばした!
「メシア……」後ろに庇われたディアブラは見開いた深紅の血の瞳で、目前に堂々と立つ少年を見つめ、その胸を激しく震わせた。
完全に激昂した虚無魔神ニビルは天地を揺るがす尖った咆哮を上げ、その巨大な六翼を狂乱のごとく羽ばたかせた。
『ガアアアアア——! 卑しい虫ケラめが……我こそは……唯一神なり——!』
「大小姐に触れさせはしない! まずは本座の熔岩戦斧に聞いてみろ!」サマエルが狂ったように咆哮し、全身から漆黒の烈焰を爆発させると、一番乗りで地面を踏みしめて天へと駆け上がった!
「このクソ化け物が! その汚いツラでディヤブロの真似をするんじゃないわよ!」リヴァイアサンが無数の巨大な湛藍色の触鬚を召喚し、天を覆い尽くす勢いでニビルへと絞め殺しにかかった!
終局の生死を賭けた決戦が、まさにこの瞬間、盛大にその幕を開けたのだった——!




