第44章:致命の魔法呪詛と、愛の初体験
「よぉ~、くそチビ! こんな薄暗い隅っこで一人で何してるわけ?」
のんびりとした軽やかな足音と共に、リヴァイアサンが湯気の立つアールグレイの紅茶を優雅に片手に持って歩いてきた。彼女は紅茶を一口含み、眉をひさげてからかったように笑ってみせた。「メシア様が『側室』の君を心配してあちこち探してるわよ、早く行ってバイバイしなくていいわけ~」
——普段なら、ディアブラは激怒して「本王こそが正室だ! お前みたいな臭いクラゲこそ側室だ!」と大声を張り上げ、小さな爪を立てて面白おかしく取っ組み合いの喧嘩を始めているところだった。
だが今回は——
「なっ……なんでもないわよ!」
ディアブラの頬が一瞬にして魅惑的な緋色に染まり、まるで恋心を抱いたばかりの少女のように慌てて不器用に顔をそむけ、喋る声すら抑えきれない震えを帯びていた。
『プッ——ゲホッ! ゲホゲホゲホゲホッ——!』
リヴァイアサンの口にあった紅茶がまだ飲み込まれないうちに、ディアブラのあまりにも常軌を逸したその嬌羞の反応に驚かされたあまり、その場で盛大に噴き出してしまった! 彼女は激しく咳き込み、目頭にはむせ込んだ拍子に大きな涙の粒が浮かび、慌てふためきながら危うく手元の美しい茶杯を取り落としそうになった。
「ケホッ……ケホッ! くそチビ、お、一体どうしたって言うのよ……?!」
リヴァイアサンは狼狽しながら目元の涙を拭い、熟したリンゴのように真っ赤に染まったディアブラの顔を疑わしげに見つめると、その眼差しには珍しいほどの心配の色が浮かび、探るように尋ねた。「ケホッ……ひょっとして何か悩み事でも……メシア様に言いたいことでもあるわけ?」
ディアブラはもじもじとドレスの裾を強く握り締め、潤んだ赤い瞳を定まらぬ様子で揺らめかせながら、ついに堪え切れず、羞恥と切なさと焦燥を混ぜ合わせたような微かな声で問い詰めた。
「お……お前みたいな臭いクラゲめ! あいつに何か邪悪な呪いでもかけたわけ?!」
「はぁ? 呪い?」リヴァイアサンはぽかんと口を開け、咳をするのも忘れていた。
「じゃなきゃ……じゃなきゃどうして最近、本王があいつを見るだけで……」ディアブラの小さな顔は湯気でも立ち上りそうなほど熱くなり、言葉を続けるにつれて蚊の鳴くような細い声になっていく。「本王は……なんだか顔が赤くなって、心臓が飛び出しそうなくらい激しく脈打って、胸のあたりまで締め付けられて苦しくなるのよ……こ、これって何かの致命的な魔法の呪いじゃないわけ?!」
『プッ——————!!』
リヴァイアサンが気を鎮めようと吸い込んだばかりの大口の紅茶が、一瞬にして噴水のようにディアブラの顔面へと浴びせられた!
「あははは——! バカね! あんた、本当に大バカね、あはははは!」
リヴァイアサンは腹を抱えてひっくり返りそうなほど笑い転げ、ついにはお腹を押さえて地面にしゃがみ込み、笑い涙まで流していた。「呪いだって!? バカなディア、あんた彼を好きになっちゃったのよ!」
リヴァイアサンは存分に笑ったあと、目元の涙を拭い去った。紅茶を顔に浴びて、うろたえながら顔を拭う小柄な少女を見つめる彼女の眼差しの奥から、先ほどまでのからかいが徐々に消え失せ、代わりに優しさとどこか重みのある感慨が浮かび上がってきた。
「まあ、無理もないけどね……千年前は殺戮と征戦しか知らなかった魔王様が、『人を愛する』ってどういうことかなんて、わかるわけないもんね」
顔中紅茶まみれになりながらも、今回のディアブラはいつものように怒って飛び上がったりはしなかった。
彼女は静かにその場に立ち尽くし、高いステンドグラスを通り抜けた陽光が彼女の長い睫毛に降り注ぎ、微かで孤独な光を反射させていた。
別れの時まで残された、最後の一日を数えるカウントダウンのなかで……彼女はようやく自分の心に気づいたのだった。
ディアブラはゆっくりとその場にしゃがみ込み、細く微かに冷えた小さな手で、リヴァイアサンの手のひらをそっと握りしめた。その深紅の血の瞳には、かつての魔王の傲慢さや圧倒的な威圧感は消えうせ、あまりにも真摯で、卑小で、切実な救いを求める光だけが残されていた。
「リヴァイアサン……教えて……教えてくれるか?」
大小姐は下唇をきつく噛み締め、わずかに震える声を押し殺すようにして尋ねた。
「教えてくれ……人を愛するって、本王は……どうすればいいの……?」




