第43章:陽光の届かない陰影
第一幕:陽光の広場と、最後の日々
窓の外、金色の陽光が万魔殿のそびえ立つステンドグラスを通り抜け、彫刻の施された長いテーブルの上に斑らな光を落としていた。
「親愛なるディアちゃん~♥ 僕、お任せされた『ソロモンの鍵』を無事に回収してまいりましたよ」
金貨の如き眩い流光と算盤を弾く上品な音と共に、『強欲』のマモンが優美な赤絨毯を歩み寄ってきた。彼は汚れなき黄金の燕尾服を纏い、片目の金縁眼鏡に知性と抜け目のない輝きを反射させている。ふふっと微かに微笑むと、非の打ち所のない貴族の礼儀で片膝をつき、この上なく紳士的なお辞儀を捧げた。
「シャン、シャン、シャン……!」
彼が両手で差し出す漆黒のベルベットのトレイの中央には、黒と赤のルーン文字の魔力を放ち、古風でありながら威厳を帯びた巨大な古の鍵——『ソロモンの鍵』が、静かに横たわっていた。
その頃、ディアブラ大小姐は優雅にメシア手作りのストロベリーミルフィーユを小さな口で味わっていた。
彼女はその古の鍵を流し目で一瞥すると、満足げに小さな頬を膨らませながら羽毛ペンを取り上げ、マモンが差し出した最終の決済契約書の上に滑らかで華麗なサインを走らせた。
「ふん、よくやったぞ、マモン」
ディアブラは唇の端についた生クリームを拭い取り、高飛車に小さな顎を上げた。
「さすがは我がの最も『忠実』な部下というわけだ」
「いやぁ、お安い御用でございます~♥」
サインの済んだ契約書を受け取り、そこに刻まれた黄金色に輝く魔法の印を満足げになぞりながら、マモンは胸元に手を当てて微笑んだ。
「報酬さえしっかりといただけるのであれば、たかが『ソロモンの鍵』ごとき、たとえ天上の星であっても僕が最高の値をつけて調達して差し上げますよ。今後また何か『商業上のご入り用』がございましたら、いつでもお申し付けくださいませ!」
第二幕:光の日常と、胸を穿つ激痛
すべての契約書にサインを終えると、ディアブラは一人で万魔殿の大扉の外へとゆっくり歩み出した。
正午の強烈な陽光が白い石造りの広大な広場に降り注ぎ、眩しくも温かな光の輪を織りなしている。
少し離れた場所から、木剣が交わる小気味よい音が絶え間なく響いてきた——メシアとオフィーリアが真剣な表情で手合わせに没頭している。狼人の少女が木剣を鋭く素早く振り下ろすのに対し、少年の真龍の金瞳には厳格さと真剣さが宿り、その身は揺るぎない岩の如く正確にすべての攻撃を受け流し、額にはきらめく汗の雫が伝っていた。
「メシア様、カッコいいです! 左! もう少し左からあの臭い狼女をぶっ飛ばして!」
場外の石段に腰掛けたリヴァイアサンは、白く美しい脚をブラブラと揺らしながらアールグレイの紅茶を手に大はしゃぎで拍手を送り、時折コートの上のオフィーリアに向かって舌をペロリと出して見せた。
「このクソクラゲ! 勝手に邪魔しないでよ!」
オフィーリアは歯を食いしばりながら言い返し、直後にメシアの温かくも手堅い剣路にさらに三歩押し返された。
なんと賑やかで、なんと温かく美しい日常の光景だろうか。
ディアブラは回廊の冷たい陰の中にたたずみ、その小柄でか弱い影は、陽光に満ちた賑わいとはどこか不釣り合いだった。
彼女の視線は少年の横顔へと注がれ、長い間そこから離れなかった。
彼が剣を振るうたびに緊張する肩を、真剣なときにキュッと結ばれる唇を、そして彼女のわがままや不機嫌のすべてをいつだって優しく包み込んでくれたあの黄金色の瞳を、じっと見つめていた……。
「痛っ……!」
胸の奥から突然、言いようのない息苦しさと締め付けられるような激痛が走った。ディアブラは無意識のうちに小さな手を伸ばし、胸元の衣をぎゅっと掴みしめた。あまりの強さに指の関節が真っ白に変わるほどだった。
五日後の決戦まで……あと四日しか残されていない。
四日後、彼女は自分の手で『地獄の門』を開き、自身の魂をその不滅の肉体ごと地獄の業火の中に葬り去るのだ。この賑やかな日常も、ストロベリーケーキの香りも、そして目の前にいる少年の笑顔も……彼女の目に二度と映ることはなくなるというのに。
「愚かな人間め……バカ者め……」
ディアブラは心の中で小さく呟いた。
あふれ出そうになる涙を堪えきれず、結局のところ、きらめく目尻に一粒の涙が浮かび、そして零れ落ちた。彼女の繊細な頬を伝い落ちるその涙は、陽光の下で痛切なまでの切なさを帯びてきらめいていた。
第三幕:冷たい回廊と、芽生えた揺らぎ
ドレスの裾を摘み、一気に万魔殿の奥深くへと駆け戻ると、ディアブラは冷たい石の柱にもたれかかるようにして、荒い息を整えた。ひんやりとした壁の感触も、胸の激しい動悸を抑えることはできない。
「我がは一体……どうしてしまったというのだ?」
千年前、孤高の頂に君臨し、いかなる死別や裏切りにも心を痛めなかった至高の魔王ディアブロとして——彼の壮烈なる魂は、いま目の前にある些細な日常の温もりに触れたことで、今までにない揺らぎと痛みを覚えていた。
彼女は小さく震える自らの小さな両手を見つめ、深紅の双瞳には戸惑いと焦燥の色が満ちあふれていた。
数千年の長きにわたる歳月の中、無数の流血や裏切り、生と死の別れを目の当たりにし、万魔の頂点に君臨して世の万物を冷ややかに見つめるその孤高と冷酷さに慣れきっていたはずなのに。
それなのに今、自分のためにケーキを焼き、笑って涙を拭ってくれたあの農家の少年を前にすると、胸の奥でこれほどまでに激しく、見慣れぬ痛みが疼き出す……。
これは一体……どういう感情なのだろうか?




