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魔王は転生して令嬢となり、雇われた勇者護衛  作者: 星野翔


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第42章:漆黒の羽翼と、独り背負う死局

深夜、万魔殿の内部はしんと静まり返っていた。


月光が細い銀の糸のようにそびえ立つステンドグラスを通り抜け、魔王の寝宮にある広大で冷え切った大ベッドへと降り注いでいる。ディアブラは一人で羽毛布団に小さく丸まり、その幼い身躯はだだっ広い部屋の中でひときわ頼りなく感じられた。


彼女は見上げるような彫刻の天井をじっと見つめ、小さく独り言をつぶやいた。


「ソロモンの鍵……マモンの奴が持つ財閥の底知れぬ能力と情報網を動かせば、全力を尽くしてすぐにでも見つかるだろう……」


だが、ディアブラの心には誰よりも分かっていた。鍵と地獄の業火だけでは、到底足りないということを。


それは彼女の前世における至高にして無上の魔王の肉体であり、常識の範疇を遥かに超越した代物なのだ。もし正統なる魔王の魂を導火線や起爆剤として用いなければ、地獄の業火などせいぜいあの肉体を重傷に追い込むのが関の山であり、完全に灰燼に帰せしめることなど不可能であった。


「残されたのは……最後の一手だ」


ディアブラはゆっくりと上体を起こし、銀灰色の長髪を滝のように肩へと垂らした。冷気を含んだ夜の空気を深く吸い込み、細い指先で自身の指先をグッと噛み破ると、一筋の黒赤き帝王の血を燦然と輝く「ソロモンの指環」へと強く擦り付けた!


『嗡——!』


古く幽暗なる漆黒の魔法陣が虚空の中に静かに展開され、陣の縁から漆黒の如き羽毛と唸りを上げる狂風が這い出した。ディアブラは冷徹かつ威厳に満ちた眼差しを向け、古の気高き魔界の真言を低く詠唱した。


「夜の帳が下りる時、我は血と誓約を以て汝を召喚する。歪んだ次元に住まう狂風の者、感覚を奪う偉大なるシャックスよ! 深淵の契約に従い、虚無より現れよ!」


『轟——!』


陣の中央の虚空が激しくねじれ、全身の羽毛が漆黒の夜の闇の如く、双眸が紫紅の幽光を放つ一羽の烏が風嵐の中から勢いよく飛び出した! 牠は優雅に両翼を畳み、寝台のふちに舞い降りると、榻上の少女へと深く頭を垂れ、まるで陰影の深奥から響くような震える声で告げた。


『我の名はシャックス……ディヤブロ大人の命にのみ従う。』


ディアブラは双眸を伏せ、深紅の血の瞳に恐怖も迷いも一切浮かべず、ただ死出の覚悟と帝王としての気概のみを宿していた。かつての忠臣を見据え、彼女は生涯で最も残酷にして最後の秘密の勅令を下した。


「シャックス、よく聞け……これが本王のお前に与える最後の命令だ」


ディアブラは声を低く落とし、一言一言がまるで重い鉄槌の如く虚空を打ち鳴らした。


「五日後、地獄の門が開くその瞬間……お前の権能を利用し、本王の魂を、ニビルが纏うあの肉体へと強制的に封じ込めよ!」


シャックスの巨大な烏の身躯が激しく震え、紫紅の瞳孔がスッと細い一筋に縮み上がった!


「本王の魂と肉体が、同時に地獄の業火の中で焼き尽くされることでのみ……」ディアブラの口元に自嘲的でありながらもこの上なく高傲な笑みが浮かんだ、「あの不死不滅の肉体を、完璧に、そして徹底的に消滅させることができるのだ。」


静まり返った大殿の中で、シャックスは長く返事をしなかった。古の魔神は深く首を垂れ、比類なき痛切さと至高の敬意を湛えた震える声で応じた。


『……謹んで……ディヤブロ大人の命に従います。』


言葉が終わると、烏は一筋の漆黒の光と化し、夜空を引き裂きながら翼を激しく羽ばたかせて窓の外へと飛び去り、無限の夜の闇の中へと消えていった。


寝宮の中は再び静寂に包まれた。


ディアブラは裸足で床に降り立った。冷たい床が足の裏をツンと刺す。赤き双眸で窓の外に星々が瞬く神の島の夜空を凝視した。


脳裏に、いつも優しくケーキを焼いてくれ、笑いながら温かい紅茶を差し出してくれた農家の少年メシアの姿が浮かび上がる。身を挺して彼女を護ろうとした狼人の少女オフィーリアの姿があり、正妻の座を争うと息巻きながらも心優しきリヴァイアサンの顔があった……


「愚かな人間どもめ……そして、お前たちバカ者どもめ……」


ディアブラは胸元の衣を強く握り締め、紅い唇を微かに震わせた。


一滴の澄んだ涙が月光の下で音もなく繊細な頬を伝い落ち、ポタリと、あの眩しく輝くソロモンの指環の上に落ち、微かで悲しい光をそこに映し出した。


「本王は……もう二度と、誰かが本王のために命を落とす姿など見たくないのだ……」

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