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魔王は転生して令嬢となり、雇われた勇者護衛  作者: 星野翔


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第41章:時空魔術師と末日預言

窓の外、ロンドンの濃霧は相変わらず冷たく湿っぽく、まるでねっとりとした死寂の如く窓枠に貼りついている。


サン・ジェルマン伯爵はベッドの縁に静かに腰掛け、すらりと伸びた白く美しい指先を抑えきれずにわずかに震わせていた。彼女はゆっくりと手を持ち上げ、自らの胸元と喉元をなでる——わずか数秒前の「ひとつ前の世界線」において、天を割り地を裂く魔素の津波と虚空の風暴によって肉体は完全に引き裂かれていた。魂が果てなき燃焼と崩壊のなかで真っ白な虚無へと帰し、その肉体と概念を寸分ずつすり潰していく絶痛が、いまだに魂の髄質に深く刻み込まれている。


しかし、時間の歯車が再び不気味なカチリという音を立てて逆転し再起動すると、彼女の一見十六歳にしか見えない小柄な肉体は、今や何ひとつ欠けることなく、この古典的な彫刻の施された大きなベッドへと再び横たわっていた。


「第……千一回目か……」


少女伯爵は炭鉱の煤煙の匂いと薬草の香りが入り混じった冷気を吐き出し、魂の深部に残る激しい灼熱感を無理やり押し沈めた。百年の興亡を見届けてきたその湛藍色の双眸には、微かに隠しきれない疲労と孤立感がかすめていく。


彼女は裸足で冷たい床に降り立ち、指先を虚空へと軽く走らせた。


『轟——!』


純白の聖なる光を放ち、古の流金ルーン文字を全身にまとった巨大な錬金魔導書が、虚空の中で轟音とともに開き渡る。ページが目まぐるしく回転し、また一つ滅亡へと向かった世界の歴史を記録していく。


「世界の中央、神の島。

この万魔が巣食い、最強の冒険者ですら一歩も踏み込むことのできない活人の禁地は、今や温かくも浩瀚にして比類なき古の魔威に包まれていた。


『嗒、嗒、嗒。』


清らかで優雅な革製ハイヒールの足音が、神の島の古き石道の死寂を打ち破った。


少女は古典的で華麗な貴族の礼服をまとい、ほのかに薬草の香りと純白の微光を漂わせながら、聖者の石を嵌め込んだ白銀の魔杖を手にしていた。——【時空の魔術師】サン・ジェルマン伯爵は、音なき気高い歩みで、人間から禁区と見なされたこの神聖にして荒涼たる地へと単身足を踏み入れた。


道中、物陰に潜んでいた低階の魔物たちは、彼女の身に纏う百余年の時空輪転を潜り抜け生死を超越した沈着な気配にまず圧倒され、続いて島の一番頂点に君臨し魔界を再び統一した至高の威圧感に震え上がり、低く唸り声をあげる勇気すらなかった。


伯爵は遠古の氷川のように澄み切った湛藍色の美しい双眸を上げ、はるか雲を突く万魔殿を遥かに見据え、その口元に玩味を含んだ、しかしどこか慰められたような微笑みを浮かべた。


「千年の割拠と動乱……この血に染まった大地にも、ようやく真の主君が迎えられたか。」


『嗡——』


重厚な神殿の扉が浩瀚な魔力によって押し開かれ、吹き荒れる殿内の風に華麗な裾が軽やかに翻る。


「魔王大小姐、真竜少主、深海の主宰、そして遠古の魔神」という、荒唐無稽でありながら無敵の組み合わせが集う眼前を眺めながら、伯爵は優雅に魔杖を胸元にあてがい、王座の上のディアブラへとわずかに身をかがめて礼を執り、清らかにして荘厳な声で告げた。


「我が輩は聖殿十字軍総司令——サン・ジェルマン伯爵。本日、新任の魔王陛下に拝謁し、分断されていた魔界の再統一をここに寿ぎに参った次第」


王座の上の大小姐はぎょっとして飛び上がり、慌てて口元に残ったケーキのカスを拭い取った。彼女は再び気高い小さな頭を持ち上げ、平静を装って喉を鳴らし、ふんぞりかえって下方を見下ろした。


「ふん! そこの小娘、なかなか見る目があるではないか! 本王は今や七十二柱の魔神を従え、兵も強ければ馬も壮健、端たれの叛軍など最早るに足らぬわ!」


伯爵は微笑みつつも言葉はなく、その視線は大小姐の傍らに護衛として立ち、優しくも確固たる瞳をたたえた少年——メシアへと向けられた。


その瞬間、少女伯爵の湛藍色の双眸には、無限の深情と懐古、そして長い夜が明けたかのような感慨があふれ出た。彼女は声を和らげ、静かに語りかけた。


「久しぶりだな……メシア。あのロンドンの土砂降りの夜、我が輩が君に名を授けた時から、君がいつの日か宿命を断ち切り、世界に平和をもたらす勇者となることは分かっていた。……どうやら君は、我が輩の期待にも、君の両親(コルヴォスと千本櫻)の願いにも背かずにいてくれたようだな」


「聖伯爵大人、お久しぶりです」メシアの瞳に温かな光が宿り、微笑みながらわずかにうなずいた。「皆の支えがあったからこそ、僕と大小姐はここまで来ることができたんです」


温かな空気がまだ消え去らぬうちに、神殿内の温度が突如として氷点下へと急降下した!


伯爵は白石の聖台へとゆっくりと歩み寄り、その身にまとった華麗な礼服が風もないのに揺らめいた。百年の興亡を見届けてきたその湛藍の双眸に、かつてないほどの重厚さと畏怖すべき戦慄の色が瞬時に爆発した!


『嗡——!』


伯爵の指先が虚空をなぞると、古の錬金魔導書が空中で轟音とともに開き、聖なる光彩が底知れぬ抑圧を湛えた灰色の迷霧へと飲み込まれていった。彼女は深く息を吸い込み、神殿全体に響き渡る、震えを帯びた厳粛な囁き声で告げた。


「我が輩は……夢を見た。いや、それは千一回の滅亡を越え、必ずや降臨する終局の予言である!」


殿内は静まり返り、騒がしかった魔神たちですら、魂の深部から湧き上がるある種の戦慄を覚えた。


伯爵は虚空に映し出された幾多の血と灰色の光景を見据え、重々しく宣告した。


「虚無魔神・ニビ鲁、永遠の虚無と死寂の中から誕生す。それは初め、何の意識も持たぬ混沌の生命体にすぎず、世界の影の深奥に埋もれ、盲目的にうごめく悪夢の卵の如きものであった。


数千年の歳月の中、この古の邪物は飢えた獣の如く潜伏していた。かつて天地を揺るがす大戦を経験し、最終的に世の日月山川と化した遠古の勇者や魔王たちが、天地の間に残した膨大な溢れ出るエネルギーが、すべてその血肉となり養われたのだ。年月を経て、果てなき貪欲は天地を揺るがす異変を引き起こした——」


伯爵が魔杖を掲げると、虚空に天を覆い隠すほどの恐ろしい投影が浮かび上がった。


「奴はかつて『魔王』ディヤブロが生前に誇った恐るべき姿を完璧に再塑したのだ——六つの眼は世の因果を看破し、六つの角は蒼穹の法理を引き裂き、六つの翼は永遠の夜の星空を覆い隠す!」


神殿内の気圧が押しつぶされるほど低くなり、伯爵の声は凍てつくように冷たかった。


「だが、この新生の魔神は、虚妄の空殻に満足することはない。奴は眩い陽光の中で、勇者ミカエルが千年前へ残した真竜の右腕を盗み取ったのだ! 今、奴はここへ向かって来ている……神の島に突き刺さる『主宰者の剣』を強引に引き抜こうと企てているのだ!」


「もし奴の思い通りになれば、奴はディヤブロの残した完全な本源を徹底的に吸収し、さらには天上の太陽を丸呑みにするだろう! 秩序と光がすべて腹に収まった時、奴は過去のすべての残影を超越し、万物の超越たる究極の完全体へと変異する……!」


伯爵は魔杖を強く握り締め、湛藍の瞳に不屈の決意を燃え上がらせた。


「その時、世界の霊力の均衡は完全に崩壊し、万物は再び不可逆的な終結を迎えることとなる……ゆえに、この神の島と万魔殿は、決して諸君の領地にとどまらない——こここそが、我らがこの世界を守る最後の防線となるのだ!」


万魔殿の大廳内は、針の落ちる音すら聞こえないほどの深い静寂に包まれた。


聖日耳マン伯爵は湛藍の双眸をわずかに伏せ、骨磁のカップに並々と注がれ湯気をあげるアールグレイの紅茶を優雅に一口含んだ。香ばしい蒸気がその端正な顔立ちを撫でていくが、百回以上の時空輪転を越えてきたその眼差しの重厚さと深刻さを隠すことはできない。


「我が輩が時空の狭間で見届けた予言の夢見によると……」伯爵は静かにティーカップを置いた。骨磁とソーサーが触れ合い、冷たく澄んだチリンという音が響く。「虚無魔神・ニビ鲁は、五日後に神の島へと正式に降臨し、強引に『主宰者の剣』を引き抜くであろう」


大廳の空気は一瞬にして凍りつき、まるで空気そのものが鋭い刃へと変わったかのようだった。


「問題は——どのようにして、あの『魔王ディヤブロ』の姿を再塑した虚無魔神を打ち倒すか、である」伯爵は白銀の魔杖を手に、湛藍の眼光を冷たく一同へと巡らせた。「神力と主宰者の剣を失った今のメシアでは、通常の武器のみでかつての魔王の天地の霊力を宿した刀槍不入の肉体を貫くなど、ほぼ不可能の奇跡に等しい」


人々は顔を見合わせ、重苦しい無力感がまるで巨山のように大殿全体へと重くのしかかった。


「ふん! 無知な人間どもめ……」


その時、ディアブラ大小姐は優雅にレースの裾を整え、自信満々に一歩前へと進み出た。彼女は両手を当然の如く胸の前で組み、その深紅の血の瞳には疑う余地のない帝王の威厳と高傲さがきらめいていた。


「本王の生前の肉体は不死不滅の至高の存在であり、世の凡鉄ごときが傷つけられるわけがないのだ! 絶品の地獄業火による焼却を経てこそ、ようやく完全に消滅させることができる!」


大小姐は気高く精巧な小頭を持ち上げ、紅い唇をわずかにひらき、千年の時を越えた終極の勅令を下した。


「——失われた『ソロモンの鍵』を見つけ出し、『地獄の門』を開け放ち、ニビ鲁を無限の地獄の深淵へと徹底的に封じ込めなければ、奴を真に滅ぼすことなどできぬのじゃ!」

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