第四章:千年の荒涼と少年の背中
川を離れた二人は、引きちぎられた手綱を再び繋ぎ直し、馬車を駆って港へと続く街道を前進し続けた。
しかし、辺境へ深入りすればするほど、車窓の外の光景は凄惨を極めていった。
千年の時が流れた新世界の中央はおそらく平和で繁栄しているのだろうが、帝国の辺境と各大領主の割拠する境界線においては、今なお戦乱の煙、猛威を振るう疫病、そして終わりのない飢饉が充満していた。
車輪が凹凸の激しいぬかるんだ街道を踏み荒らし、悲鳴のようなきしみを上げる。半開きの車帳越しには、骨と皮ばかりに痩せ細り、空洞のような瞳をした流民たちが路傍に倒れているのがどこからでも見えた。ドブからは腐臭を放つ死骸が漂い、少し離れた場所に連なる難民キャンプからは、胸を締め付けるような泣き声と悲鳴が絶え間なく聞こえてくる。
前世で魔王ディアブロだった頃、血の海が広がり、都市が滅びるなど彼にとっては見慣れた日常の風景に過ぎなかった。人間を生きながら喰らう残虐な光景にすら、一度として眉をひそめたことなどなかったのだ。
しかし現実は、最も残酷な形でディアブラに思い知らせた——彼女の魂は冷酷無情かもしれないが、この肉体は苦労など一つとして知らずに育てられた、箱入り娘の貴族令嬢なのだということを。
吹き荒れた狂風が車帳を跳ね上げ、空気中に満ちていた濃密な血の匂い、死体の腐敗臭、そして疫病特有の酸っぱい腐敗臭を、狭い車内へと容赦なく一気に吹き込ませた。
ディアブラはまだ強がってすまし顔を決め込み、クッションの上に腰掛けて顎を少し上げ、生死を達観したかのような冷淡さを装おうとしていた。しかし、彼女の華奢で過敏な胃袋は魂の指揮に全く従わず、突如として激しくのたうち回るような痙攣を起こした!
「ぐっ……おえっ——!」
何の前触れもなく、ディアブラの小さなお顔から一瞬で血の気が引いた。彼女は慌てて馬車の前扉へと飛びつき、身体を痛苦に折り曲げると、先ほどお腹に納めたばかりのスイーツと胃液を、御者席で専念して馬車を駆していたメシアの上に勢いよくぶちまけたのだった!
「……」
酸鼻を極める悪臭の嘔吐物が、洗い立てだった少年の麻布の服の背中と肩一面に瞬く間にこびりつき、肘や袖口に至るまで何一つ免れることはできなかった。
空気はまるでこの瞬間に完全に凍りついたかのようだった。
手綱を握ったままのメシアは、御者席でカチコチに固まった。彼は自分の見るも無残な有様となった上着をゆっくりと見下ろし、額の青筋を怒れる龍のごとくピクピクと激しく跳ねさせた。
ぎゅっと拳を握りしめ、歯をガチガチと鳴らしながら深呼吸をし、この我儘で手のかかるお姫様を大声で一雷落とそうと振り返った——
だが、振り向いた彼が目にしたのは、車廂の入り口で力尽きてぐったりと倒れ込んでいるディアブラの姿だった。
日頃の高飛車で得意気な小さなお顔は今や紙のように真っ白で、激しい嘔吐のせいで目元には生理的な涙が痛々しく浮かんでいた。華奢な小柄な体が気持ち悪さと虚脱感で止めようもなくガクガクと震えており、日頃は最も口が堅く、人を口汚く罵ることに長けた小さなお口すら、今は衰弱しきって一言も発することができないでいた。
目の前にいる、哀れで滑稽、そしてあまりにも惨めな元魔王様を見つめていると、メシアの胸中に湧き上がっていた怒火は、まるで冷水を浴びせられたかのように跡形もなく消え去っていった。
「……前世でどんだけアンタに借りがあったんだか」
少年は無念そうに深くため息をついた。
手綱を引いて馬車を路傍の木陰に停めると、根気強くかがみ込み、きれいな右手を伸ばしてディアブラの華奢な背中をやさしく擦って息を整えさせてやった。それから腰の水筒を外し、清らかな清水を注いで彼女の口元へと差し出した。口調は呆れつつも、自分でも気づかないほどの優しさを帯びていた。
「口をすすぎなよ、無理すんな。車帳を下ろして、見られないなら見なきゃいい」
ディアブラは震える手で水筒を受け取った。弱り切っていて栓すら満足に開けられないくせに、涙を浮かべた潤んだ大きな瞳で少年を睨みつけ、フガフガと口の中で曖昧に呟いた。
「……本王は怯えてなどおらん……ただ、さっきのスイーツが傷んでいただけだ……」
ディアブラが少し落ち着きを取り戻し、虚ろな目をして車内のクッションに寄りかかって息を整えているのを確認すると、メシアは立ち上がり、見る影もなくなった麻布の上着を脱ぎ捨てて軽く払い、苦笑交じりに首を振った。
上半身裸になった少年は、一人静かに少し離れた小川のほうへと歩いていき、再び運命を受け入れるようにしゃがみ込むと、自分——そしてこの高慢なお姫様のために、服を洗い始めたのだった。
ジャブジャブと涼やかな水音が響き渡る。
車帳の隙間を少しだけ持ち上げたディアブラは、川辺で懸命に服をもみ洗いする少年の背中を呆然と見つめていた。
木漏れ日が彼の広々とした肩に降り注ぐ。その瞬間、彼女の瞳を満たしていた高慢と不屑の色彩の中に、どこかひっそりと、極めて複雑な色が走り抜けた。
千年前、神兵を手に自分と生死をかけた死闘を繰り広げた宿敵が……今世では、自分のこんな惨めな後始末を、文句も言わずに黙々と引き受けている。




