第38章:魂を燃やす終焉の召喚
廃墟の中で破片や巨石が崩れ落ち、メシアは生死不明のままその深部に倒れていた。
『滴答……滴答……』
血痕が痛々しく残る廃墟の上に立ち、ルシファーはゆっくりと背筋を伸ばした。彼は瞳を伏せ、その細くしなやかな指先で、自身の胸元に刻まれた「天魔断罪の剣」による血の跡にそっと触れた。指先に伝わる温かい感触——それは彼が頂点へと登りつめて以来、千百年の時を経て初めて真に実感した、傷を負う苦痛であった。
この瞬間、世界を統制する新世界の創世神を自称するこの傲慢な男の金色の瞳に、ついに天を突くほどの凄まじい殺意と歪んだ怒りが燃え上がった。
「命知らずの虫ケラが……」
ルシファーは歯を激しく喰い縛り、万年氷の如く冷徹な声を漏らした。
「貴様を細切れの肉片にしてくれる……勇者よ!!」
彼は再び手にした裁決聖剣を掲げ、周身を包むかつて薄れかけた神聖なる金光を狂暴に爆発させると、息が詰まるほどの殺伐たる気を纏い、血の海の中で生死を彷徨うメシアへ向けて一歩一歩と歩み寄っていった。
彼が一歩踏み出すごとに大地は深く亀裂を深め、死の暗雲が煉獄の城全体を重く覆い尽くしていく。
「嗡————!!」
その時、空間そのものを酷く歪ませるほどの圧倒的な遠古魔力の波動が、何の前触れもなく廃墟の中央で盛大に爆ぜた!
大小姐の精巧で愛らしい小顔は涙の跡と血泥に塗れていたが、その両手はメシアが握りしめる「天魔断罪の剣」の柄の上に強く重ね合わせられ、所羅門の指環と凄まじい魔力回路を形成していた。彼女の血赤色の帝王の双眸には退路を断った狂気の決意が燃え盛り、櫻色の唇を微かに開くと、全身の残された最後の生命力を振り絞り、あの古く禁忌とされる呪文を紡ぎ出した。
「我が宣告を聞け。汝は七の第三を統べる者、狂暴と烈焔より生まれし終焉の王!」
「吾は燃ゆる魂を贄とし、汝の名を呼ぶ——阿斯莫德!」
「深淵の帳を引き裂き、地獄の王座より降臨せよ! 吾が前に立ち塞がる者を、悉く灰燼に帰せよ!!」
『轟隆————!!』
詠唱の終了と共に、荒れ狂う地獄の烈焔が作り出す魔力の嵐が全場を吹き荒れ、恐るべき威圧と世界を破滅させる気概を纏った一尊の終焉の王が天より降臨した!
「吾は色慾と狂暴の阿斯莫德……覚悟せよ、ルシファー!!」
狂妄かつ冷酷な宣告と共に、降臨した阿斯莫德はルシファーに一切の反応の時間すら与えなかった。その巨大な身躯に滔々たる烈焔の魔力を巻き付け、限界を超えた超速度の恐るべき重拳を、激しい空裂音と共にルシファーの側頭部へと容赦なく叩き込んだ!
『砰————!!』
不意を突かれたルシファーは、この突如として見舞われた万鈞の重拳によって横殴りに盛大に吹き飛ばされ、緋色の流星となって数座の聳え立つ魔殿の廃墟を幾つも貫き打ち砕いた!
『轟隆——!』
遠方の魔殿の廃墟から、ルシファーは無残な姿で舞い散る砕石の山を強引に突き破って飛び出してきた。今の彼の金色の瞳には、かつて見せた高高に立ち見下すような余裕など欠片もなく、不意打ちを受けた暴怒と骨の髄まで冷え切った殺意だけが満ち満ちていた。
そして戦場の中央では、まさに禁忌の召喚を完遂したばかりのディアブラの嬌小な身躯が、ガクリと激しく揺らめいた。魂を燃やす代償としてもたらされた強烈な反動が潮の如く脳裏へ狂ったように押し寄せ、大小姐の視界は真っ暗に染まり、両膝の力が抜けてそのまま冷たい血雪の降る大地へと倒れ込みそうになった。
「大小姐——!」
千鈞一髪の瞬間、全身血まみれで傷だらけのオフィーリアが最後の気力を振り絞って疾走し、その細い腕でディアブラの身を力強く抱き締め、今にも崩れ落ちそうな嬌小な身体を死に物狂いで支えた。銀髪の狼人少女は紙のように白い大小姐の顔と、口元から絶えず溢れ出る鮮血を目にし、目元を真っ赤に濡らして声を途切れさせた。
「大小姐、ご無事ですか……?! 私が……私が無能なばかりに……あなた様をお護りできず……」
「本王は……大丈夫だ……咳咳……」
ディアブラは歯を食いしばり、胸中で渦巻く血の気と魂の奥底からの劇痛を強引に押し殺した。彼女の血赤色の帝王の双眸は自身の傷口に一瞥すら送らず、震える指先をすぐ近くで横たわる生死不明の二人へと差し向け、掠れた声ながらも尚変わらぬ威厳を込めて激しく叫んだ。
「オフィーリア……早く本王を向こうへ連れて行きなさい! ……それとマルバス! 早く本王の言った通り、貝爾芬格とメシアを救いに行きなさい——!!」
「御意にございます、我が陛下!」
大統領マルバスは一秒の遅れも許されぬとばかりに歯を食いしばり、限界を迎えた自身の疲労など顧みず、一筋のエメラルド色の煌めく流星と化して瞬時に戦場の両端へと駆け抜けた。
彼はまず天啓聖光の余波に貫かれ気息奄奄たる貝爾芬格の傍らに跪き、両手に狂ったように巨大な生命治癒法陣を凝縮させると、貝爾芬格の傷ついた胸元を強く押し当てて叫んだ。
「大統領結界、展開! この方の命の灯火を死に物狂いで繋ぎ止めるのだ——!」
続いてマルバスは地を這うようにして、ルシファーの重撃を受け倒壊した壁の奥深くに沈むメシアの傍らへと突進した。彼の両手からかつてないほど眩いエメラルドの微光が溢れ出し、純粋かつ狂暴な生命治癒の力を、メシアの砕けかけた胸と枯渇した魔力の源泉へと絶え間なく注ぎ込んでいった!
『咳……ハアッ……!』
連続して高階神魔召喚を強行したディアブラは、仲間に対する深い憂慮とルシファーに対する天を突く怒りを双眸に燃え上がらせていた。体内に残されていた魔力は、この瞬間完全に使い果たされた。凄まじい脱力感と魂の反動が巨大な津波のごとく正面から襲いかかり、大小姐は両膝から崩れ落ち、嬌小な身躯が前に大きく傾いて血の海へと倒れ込みそうになった!
同時に、上空でルシファーと激戦を繰り広げていた色慾の王・阿斯莫德の巨大な影が、急速に薄れていった。召喚主の魔力枯渇に伴い、この烈焔の魔神の巨体は無数の漂う緋色の光の粒子へと変わり、高らかな狂笑を残して舞い散る風砂と硝煙の中へと完全に霧散していった!
「ガハハハ……ハア……ハア……」
全身に痛々しい血の傷跡を刻み、荒い息を吐くルシファーが、泥に塗れて半空に浮かんでいた。彼はこの光景を目にすると、その本来高慢で冷徹だった顔面を、極限の残忍さと嗤笑の笑みへと歪ませた。彼は残存する金光を放つ天啓裁決聖剣を強く握り直し、比類なき粛殺の気を纏って、下方で崩れ落ちるディアブラへと一歩一歩迫っていった。
「可哀想に……ディヤブロ大人! その卑しく脆い人間の肉体では、基本的な魔神の降臨すら維持できぬとは……実に醜い悪あがきだな!」
ルシファーは顔を凄惨に歪ませて聖剣を高々と掲げ、金色の瞳に狂気の殺意を閃かせると、声を限りに咆哮した。
「大人しく失せろ——あああああ——!!」
大気を引き裂く耳障りな悲鳴と共に、神聖なる裁決を象徴する聖剣が、すべてを無に帰す金色の光の弧を描き、容赦ない光輝を纏って無防備なディアブラの頭上へと振り下ろされた!
大小姐は完全に力を使い果たして冷たい凍土の上に膝をつき、眼前に迫る死の気配を孕んだ金色の剣芒が拡大していくのをただ見つめることしかできず、指一本動かすことすら叶わなかった。




