第35章:天魔断罪と裁決
第一幕:怠惰の蹴撃と、深淵の救出
オフィーリアが弱々しい子猫のようにルシファーに顔をつままれ、宙吊りにされている光景を目にしたオフィーリアは目が裂けんばかりとなり、心臓を丸ごと引き裂かれたかのような絶望の狂吼を上げた! 銀髪の狼人少女は全身の千々に千切れた重傷と劇毒の侵蝕を意にも介さず、最後の生命潜能を無理やり絞り出し、残るすべての狂暴な魔力を『七彩に輝く虹光の剣』へと狂ったように注ぎ込んだ。彼女は夜空を引き裂く狂暴な虹の彗星と化し、相打ちをも辞さぬ決意を秘めてルシファーへと爆進した!
『叮——!!』
だが、彼女が数歩も突き進まぬうちに、紫黒色の巨大な魔爪が刺すような腥風と劇毒を纏って瞬時に伸び、空中にてオフィーリアの剣鋒を正確無比に受け止めた!
魔人化した『暴食のベルゼブブ』は緑色の涎と牙に満ちた口器をぎらつかせ、残忍かつ陰険な狂笑を浮かべた。
「ガハハハ! 脇見をしてんじゃねえぞ、小狼……本座はまだ遊び足りねえんだ! お前の相手はこの私だ——!」
「どきなさぁぁぁぃ——!!」
オフィーリアは狂ったように剣を振り回したが、ベルゼブブに空中で死に物狂いに絡みつかれ、助けに向かう余力など微塵も残されていなかった!
◇
時を同じくして、地表において。
ルシファーはまるで取るに足らない荷物でも提げるかのようにディアブラの頬をつまんだまま、血の海に倒れて息も絶え絶えのリヴァイアサンの傍らへと悠々と歩み寄った。そして右手を返すと、神聖なる威圧を放つ天啓裁決聖剣を抜き放ち、その氷のように冷たい剣先をリヴァイアサンの血肉が押し潰された胸元へと垂直に突きつけた。
ルシファーは黄金の瞳に欠片の感情の波をも浮かべず、気息奄奄たる大小姐を見下ろした。
「ディヤブロ大人……『ソロモンの指環』と、お前のその至高なる魔王の魂を本座に差し出すのだ。さもなくば……今日がこの命知らずの深海魔神の命日となる」
地に伏せるリヴァイアサンは、徐々に光を失いゆく幽藍色の瞳をかろうじて開き、噴水のように溢れる温かな鮮血で体の大部分を染め上げていた。ディアブラの絶望した姿を目にした深海美少女は、命の最後の力を振り絞り、血の泡に塗れた唇を震わせ、途切れ途切れに切々と哀求した。
「だ……ダメ……奴の言うことを聞いちゃ……ディアブラ……絶対に……渡しては……」
『啪!』
「命知らずの浅ましい雑魚が……死ね」
ルシファーは瞳を凍らせ、その金色の瞳に残虐な嫌悪を走らせると、重厚な戦靴を持ち上げ、ごく冷酷無情にリヴァイアサンの華奢で蒼白な顔面を力任せに踏みつけた!
『砰!』という重い音と共に、砕石と血水が四散した。リヴァイアサンは苦悶の声を漏らし、口元から再び濃稠な血の塊を吐き出すと、意識は完全に闇の底へと脱落した!
「やめて……やめてぇぇぇ——!」
自分を護らんとして蹂躙され、命の灯火を消されかけようとしているリヴァイアサンを前に、大小姐の高傲なる血紅の双眸からはついに耐えきれず、屈辱と心砕く絶望に満ちた熱い涙が大粒となってこぼれ落ちた。
彼女は下唇を強く噛みちぎり、鮮血が精巧で雪のように白い顎を伝って力なく滴り落つ。
仲間のため……みんなのため……
大小姐は激しく震える右手を伸ばし、涙に濡れた眼差しで無念と運命への絶望を抱きながら、左手に嵌められた古の微光を放す『ソロモンの指環』へとゆっくりと手を触れようとした……
「本王が……お前に渡せばいいのだろう……」
——だが! ディアブラの指先が指環に触れんとするまさにその一刻を争う千鈞一髪の瞬間!
『轟隆隆隆——!!』
天地をも引き裂くかの如き狂暴なる怒号と恐るべき轟音が、何の前触れもなくルシファーの頭上の蒼穹にて轟然と爆発した!
天を覆っていた金色の神聖なる雲海が、一瞬にして深淵の降臨にも似た無限の重力の津波によって粉々に押し潰された! 数多の流星のごとき巨大な重力の気圧が、世界の終わりを告げる隕石の雨となって狂暴に降り注ぐ!
「この重力は……?!」
さすがの傲慢不遜なルシファーもこの瞬間ばかりは顔色を劇変させ、裁決聖剣を横たえて防ごうとした——
『砰————!!』
一見すると華奢でありながら、星々をも蹴り砕き虚空をも粉砕する万鈞の覇道を秘めた重力の小さなお足が、滅びの威を纏ってルシファーのあまりに傲慢な顔面へと容赦なく叩き込まれた!
「轟」という巨響が轟き、強大なるルシファーとて、超音速で放たれた金色の砲弾のごとく、この恐るべき重力の蹴撃によって数千メートルも遠くの空へと爆飛せしめられ、聳え立つ城壁と宏大なる廃墟を幾つも打ち砕き貫いていった!
『唰!』
天空において、パジャマを纏った小さき影が軽やかに翻り、半空から落下する大小姐を寸分たがわず腕の中にしっかりと抱き止めると、この上なく軽やかに地上へと舞い戻った。
天然パーマの柔らかい髪を揺らし、ぶかぶかのパジャマを着た15歳の少年は、ゆっくりと手を伸ばして眠たげに目をこすり、腕の中で涙を散らす大小姐を見つめた。その整った顔立ちには、古い友に対する無念さと軽口を交えた優しげな笑みが浮かんでいた。
「やれやれ……ディアブロ、君の泣き顔は、千年前本座にぶん殴られて泣いてた時と変わらず不細工だねぇ~」
大小姐は涙に霞む目をわずかに開き、目の前の眠気眼のパジャマ少年を見つめると、瞳孔を激しく収縮させた。驚愕と狂喜、自由かつ絶望の縁で掴んだ希望に声を失い、悲鳴のように叫んだ。
「小……小ベリ——ベルフェゴール——?!」
◇
第二幕:一閃の両断と、真龍の帰還
『唰啦——!』
『煉獄の城』の関所の廃墟の反対側において、連日の血戦と重傷により、オフィーリアの動きは極限状態の中でついにわずかな遅れを見せた。
彼女の視界が暗転し、手にしていた『七彩に輝く虹光の剣』がわずかに沈む。
「隙を見つけたぞ、小狼……死ねぇ!!」
暗影と毒気の死角に潜んでいた『暴食のベルゼブブ』が、異形たる四本の魔爪から甲高い尖笛を響かせ、致命的な紫黒の毒芒を纏ってオフィーリアの無防備な脇腹へと鋭く襲いかかった!
オフィーリアの瞳孔が急激に収縮する。迫りくる利爪を絶望の中見つめながらも、彼女の身体にはもはや回避する力など残されていなかった。
——まさにその一刻を争う生死一線の瞬間!
『轟————!!』
天幕全体が隕石に貫かれたかのように轟然と爆ぜた! 天地を貫く金色と黒色が絡み合う狂暴な剣気が、あらゆる空間を粉砕する無上の威圧を携えて天より降臨する!
「奥義——『天魔断罪・気刃斬』!!」
その声は真龍の震怒の如く、『煉獄の城』全体に響き渡った!
『啪嚓————!!』
骨甲の砕ける甲高くも恐ろしい音と共に、ベルゼブブは悲鳴を上げることすら叶わず、その龐大かつ歪んだ魔人化の巨体を金黒の剣気によって真正面から……真っ二つに両断された!
紫黒色の腐血と残肢が暴雨となって大地へと降り注ぎ、二つに割れた身躯が廃墟へと叩きつけられ、数回痙攣したのち完全に途絶えた。
◇
第三幕:逆転の覚悟と、最終決戦の幕開け
硝煙と塵土が静かに晴れてゆく。
黒衣を纏い、背筋を真っ直ぐに伸ばした一人の少年が、魔王の黒炎と真龍の金芒を滾らせる古剣を手に、オフィーリアの前へと静かに降り立った。彼の瞳には燦然と輝く真龍の金瞳が燃え盛り、周身からは万魔を平伏せしめる恐るべき威圧が放たれている。
「少主……!」
オフィーリアは自身の前に立ちはだかる見慣れた後ろ姿を呆然と見つめ、極限まで張り詰めていた心がようやく解き放たれると、涙が溢れ出し、力なく後方へと倒れ込みそうになった。メシアは素早く身を翻すと狼人少女をしっかりと受け止め、温かな声で言った。
「オフィーリア、よく頑張ったね。ここからは僕に任せて」
メシアは傷ついたオフィーリアを傍らの瓦礫へと優しく座らせると、ゆっくりと背筋を伸ばした。彼は視線を巡らせ、少し離れた場所で重傷を負い息も絶え絶えのリヴィアタンとサマエル、そしてベルフェゴールの背後に守られ、涙の痕を残す大小姐を見つめた。
少年が視線を戻した時、その真龍の金瞳にはかつてない確固たる決意と殺伐たる気が満ちていた。彼は低い声でオフィーリアに言い渡した。
「オフィーリア、すぐに大小姐とリヴィアタン、そして傷ついた仲間たちを後方の安全結界へ移動させて。大小姐をしっかり護るんだ……ここのルシファーは、僕とベルフェゴール様で片付ける!」




