第32章:赤血銀狼と深海神威
『嗡——!』
エメラルド色のバチンの空間の渦が、煉獄の城の中心、まるで世界の終わりのような惨状の廃墟の中で轟音を立てて引き裂かれた!
ディアブラ、リヴァイアサン、そしてオフィーリアは、重傷を負って死に瀕したマモンを護送しながら、すでにボロボロになり業火の燃え盛る大地へと、よろめきながらも足を踏み入れた。周囲の空気には胸が悪くなるほど濃密な血の匂いと焦げ臭さが立ち込め、崩れ落ちた黒き城壁の上では今もなお消えない魔炎が燻っている。
ディアブラは、血の海の中に倒れ込み、胸を残酷にえぐられて巨大で恐ろしい大穴が開き、気息えんえんと化した煉獄の大将軍——サマエルを真っ先に目撃した。
「サマエル……!」
大小姐は美しい歯で唇をグッと噛み締め、さきほど連続して跨界転送を行ったことで消費した莫大な体力と精神力のことなど顧みる余裕すらなかった。彼女は脳裏を駆け巡る激しいめまいを気力で押し潰し、「ソロモンの指環」を嵌めた華奢な腕を高く掲げると、体内に残された最後の一滴の魔力を絞り出すかのように、身を削る叫び声を張り上げた。
「マルバス……本王のために……この大男を完全に治しやがれぇぇぇ——!!」
『嗡————!』
眩く濃密なエメラルド色の治癒の光華が再び轟音と共に爆発し、まるで温かな命の露のように、瀕死のサマエルの巨体を瞬く間にすっぽりと包み込んだ。
だが、これほどまでの高強度の神級召喚と魔力の酷使は、ついに大小姐のこの小柄な肉体が耐えられる限界を完全に超越していた。エメラルドの光が霧散したその瞬間、ディアブラの視界が真っ暗に染まり、気高く美しいお顔が紙のように真っ白になり、もはや自分の足を支えきれず、「ガクッ」と意識を失ったまま、前へと前垂れに倒れ込んでしまった!
「大小姐——!」
オフィーリアは驚異的な反射神経で一歩踏み出し、素早く駆け寄ると、両手でしっかりと昏睡した大小姐を抱き止め、そのまま自分の背後へと大切に庇い入れた。
だが、彼女たちが一息つく間すら——
『嘎嘎嘎嘎——!!』
耳をつんざくほど不快で、背筋が凍るような虫の羽音が、滾々と立ち込める黒煙と血塗られた天空を轟音と共に引き裂いた!
見渡せば、煉獄の城の崩れかけた関所の廃墟の上空が、瞬く間に紫黒色の魔気の雲にすっぽりと覆い隠されていた。半人半虫の姿をし、背には透明な複翅を生やし、巨大な毒を滴らせる顎と暴虐なる巨爪を持った無数の暴食魔軍が、まるで蝗の群れのごとく大地を埋め尽くしながら猛烈な勢いで押し寄せてきたのだ!
そして、その気色の悪い暴食魔軍の最前線では、半人半虫の甲殻をまとい、背に紫黒色の翼を生やした恐るべき異形の影が宙空に浮かんでいた。
【暴食のベルゼブブ】!
ベルゼブブの気色の悪い半人半虫の顔面には残虐な笑みが歪み、その腹部に備わった一対の漆黒の巨毒の鎌爪が激しく擦れ合い、緑色の涎を垂れ流す牙の口器をカチカチと鳴らしながら、狂気と強欲に満ちた耳障りな笑い声を轟かせた。
「ガハハハハ! ディヤブロ様……本当に自分からご馳走になりにやって来るとはな! その微弱で消えそうな魔力だが……さぞや美味な味がすることだろう! 今日という今日は……その至高の美味なる魂を、この私が味わい尽くしてやろう——!!」
『轟——!』
ベルゼブブの号令と共に、無数の暴食魔軍がまるで決壊した黒い毒の奔流のごとく、圧倒的な物量で関所めがけて雪崩れ込んできた!
この黒山をなす、いかなる者をも絶望に叩き落とす恐ろしい虫の群れを前にして、関所の前にはわずかに二つの、しかし並々ならぬ決意を宿した凛々しい影だけが立ちはだかっていた。
銀髪の狼人少女オフィーリアは「シャキッ」と腰の「七色虹光の西洋剣」を引き抜き、銀青色の狼の瞳に冷酷で血に飢えた光を宿し、全身で暴虐な狼人の血統魔力を嵐のように吹き荒れさせている。
そして、その傍らに立つ深海魔神リヴァイアサンは、幽藍色の双眸を氷のように冷たく輝かせ、その小さな顔を引き締めながらも、嬌小な身の周囲には虚空を引き裂いて湧き出た無数の荒れ狂う滔々たる大津波と、湛えられた青き巨大な深海の触手がうねり、息が詰まるほどの遠古の神威を放っていた。
「大小姐に指一本でも触れたければ……私たちの死体を乗り越えていきなさい!」オフィーリアは冷徹に低く唸った。
リヴァイアサンは両腕を組み、精巧なお顔をぷうっと膨らませながら、幽藍色の美しい瞳にわずかな緊張を覚えつつも一歩も退かない傲慢な気高さを燃え上がらせ、こう一喝した。
「たかが数匹の気色の悪い虫ケラどもが……いい気になるな! 正妻として……この私があの虫どもをまとめてズタズタの屑肉にしてやるわ!」
『轟隆隆隆——!』
一方は空を埋め尽くす暴食の蝗の毒の潮、一方は大小姐を死守する狼人の戦士と深海魔神!
煉獄の城の朽ち果てた関所の前で、硝煙と血霧が激しく入り交じり、殺意が最高潮へと沸騰する――尊厳と運命を賭けた血戦が、今まさにその幕を開けようとしていた!
『唰——!!』
吹雪と硝煙の交錯する関所の前で、銀灰色の暴虐なる残影が瞬時に大地を蹴り抜いた!
オフィーリアの銀青色の狼の瞳は、この瞬間、血のように赤い殺意によって完全に塗りつぶされ、頭上の二つの尖った銀の狼耳がピンと立ち、背後には大空に向かって咆哮する巨大な銀狼の虚影が出現していた。主君を護るという絶対的な執念に駆られ、彼女は血脈を直接燃焼させ、完全体の【赤血狼人姿態】へと変貌を遂げたのだ!
「大小姐に近づく輩は――すべて斬り捨てる!!」
キリッとした冷酷な号令と共に、手にした「七色虹光の西洋剣」が夜空を引き裂く一筋の虹色の彗星へと変化した! 超音速の狂気じみた連続突きが耳障りな空気の爆音を巻き起こし、何百もの絢爛たる剣気が、まるで荒れ狂う嵐のように空中のベルゼブブめがけて容赦なく襲いかかる!
「ガハハハハ! いいぞ小母狼め——!」
暴食のベルゼブブは狂気に満ちた怪笑を上げ、その巨体を半空中で急激に膨らませ変形させ、全身を鋼鉄の如き漆黒の硬化甲殻で覆い尽くし、完全に【魔人化】形態へと突入した! 腹部と両腕に備わった四本の巨大な漆黒の毒爪が、無数の紫黒色の残影を描き出し、満天の七色剣光に向かって真正面から激突していった!
『叮叮叮叮叮叮叮——!!』
金鉄の交わる耳障りな火花が半空中でまるで絢爛たる花火のように激しく爆発四散した!
二人の交戦速度は極限にまで達し、地上の残影と肉眼ではその本体を捉えることができず、ただ一条の燦然たる七色の光の流れと、暴虐なる紫黒色の毒気の嵐が、音速を超える頻度で交錯し激突しているのが見えるのみであった! すれ違いのたびに発生する凄まじい衝撃波が、周辺の廃墟にある巨大な岩を容赦なく粉砕し、細かい氷屑と粉塵に変えていく。
そして、オフィーリアとベルゼブブが高空で激闘を繰り広げているその裏で——
地上を黒く染め上げる無数の暴食魔軍が、限りない蝗の潮のごとく、歯を軋むような不快な嘶きと悲鳴を上げながら、血の海に倒れるディアブラと重傷で昏睡するサマエルめがけて四方八方から押し寄せた!
「ギギギ! 食い殺せ! 魔王様の魂を喰らうのだ——!」
「この私の眼前を通ろうなどと……脳みその足りない虫ケラどもが、一百万年早いんだよぉぉぉ——!!」
ディアブラの前に立ちはだかるリヴァイアサンは、幽藍色の双眸にこの上なく冷たく凍りついた寒光を迸らせていた! その小さく精巧なお顔から、普段のわがままと嫉妬の色はすっかり消え失せ、深海の主宰者特有の、万物を俯瞰する無上の威厳がその身を包んでいた!
『轟隆隆隆——!』
リヴァイアサンの足元の凍土と崩れた壁が、暴虐な魔力の激動によって轟音を立てて陥没した! 続いて、天を支える巨柱の如き太さを誇る数十本の湛えられた青き深海の触手が、滔々たる大波と万鈞の重力を纏い、虚空の空間を引き裂きながら、狂暴に振るわれた!
「奥義——深海之怒・万劫横掃!」
『啪!啪!啪!轟————!!』
神の振るう審判の鞭の如き巨大な深海の触手が関所の前の広地で無差別の猛烈な横掃と蹂躙を展開した!
一瞬にして、四肢が飛び散り、血肉が舞い踊った! 何千匹もの暴食魔軍は悲鳴を上げる間すらなかった。湛えられた青き深海の重力と水圧によって、瞬く間に満天の血霧と肉泥へとすり潰されていく! 耳障りで密集した骨の砕ける音と破裂音が、氷に閉ざされた冷たい大空に響き渡った。
リヴァイアサンは、飛び散る血肉と荒れ狂う大津波の中央に孤高に立ち尽くし、湛えられた青き華麗なドレスの裾を翻しながら、そっと振り返って眠り続ける大小姐を一瞥し、そして極北の風雪吹き荒れる方向を遥かに見つめながら、その麗しい唇をグッと噛み締め、心の中で不器用で、しかし強固な決意を込めて呟いた。
「メシア……あなたに見せてあげるわ……私はただ嫉妬深い足手まといなんかじゃない。私は、みんなをしっかりと護り抜く……最強的正宮なんだからね!」




