第28章:山崩地裂の残酷特訓
『轟隆隆隆——!』
雪山の谷間に、古の魔力の嵐が狂暴に吹き荒れる!
一時間も経たないうちに――
元は平らだった雪原は爆撃でボコボコに抉られ、黒く焦げ果てていた。
メシアは血に染まった雪の上に片膝をつき、手にした「天魔断罪の剣」を凍てついた大地に突き立てて、崩れ落ちそうな体をかろうじて支えていた。少年の衣服は狂暴な魔力に引き裂かれてすでにボロ布と化し、全身には無数の痛ましい生傷が刻まれ、ドロりとした鮮血が冷たい剣身を伝ってポタポタと滴り落ち、雪の上におぞましくも鮮烈な血の華を咲かせている。
「はぁ……はぁっ……!」
少年は荒く息を荒げ、黄金色の真龍の瞳には血走り、体力と魔力の限界ギリギリで踏みとどまっていたが、やがて視界が真っ暗に染まり、そのまま血の海の中へと重く倒れ込んだ!
雪原に佇むベルフェゴールは、自分の体に付着した雪屑をポンポンと払い落とし、そのモコモコした髪に覆われた目を再び気だるげな糸目に戻した。
彼は小さな手で首筋を揉みほぐしながら、地面に倒れ伏す少年を見下ろし、やれやれとため息をついて、幼い子供の声でぼやいた。
「ダメだダメだ……全然ダメだね。天魔断罪の剣の第一重の律動すら掴めてないようじゃ、これじゃルシファーの『天啓』を打ち破るどころか、僕の指一本すら防げないよ……」
そう言いながら、ベルフェゴールは視線を横へと向けた。そこでは、すでに不安のあまり拳を固く握り締め、顔面を真っ青にしている大小姐が控えており、彼は小さく手をひらひらと振った。
「ねえ、ディヤ。あんたのソロモンの指環を使ってマルバスを呼び出し、あいつを治してやってよ……僕、五分だけ休憩するからさ。あいつが起きたらまた続きをやるからさ~」
「メシア——!!」
いてもたってもいられず、すでに目を赤く泣き腫らしていたリヴァイアサンとオフィーリアが叫び声を上げながら駆け寄った! リヴァイアサンはあまりの痛ましさに涙をポロポロと零し、震える手で微弱な深海魔力を使って少年の止血を急いだ。一方のオフィーリアは鋭い気迫で西洋剣を横に構え、メシアの前に仁王立ちしてベルフェゴールを険しい眼光で睨みつけた。
ディアブラの深紅の瞳が激しく震えていた。
全身傷だらけになり、血の海に倒れ伏す専属従者の姿を見て、大小姐は自分の唇を痛いほど強く噛み締め、もう少しで血が滲み出そうだった。だが彼女は、ベルフェゴールの一見残酷に見えるこの特訓こそが、メシアが「天魔断罪の剣」を完全にモノにし、ルシファーの天啓の加護に対抗するための唯一の手段であることを痛いほど理解していたのだ。
「本王は……分かっている!」
ディアブラは胸を締め付ける激しい動揺と痛みを必死に押し殺し、「ソロモンの指環」を嵌めた腕を高々と掲げると、震えながらも圧倒的な威厳を込めた声で絶叫した!
「マルバス! 本王の呼びかけに応えよ——掌の奇蹟を示し、本王のこのバカを……完全に治して見せろ——!!!」
翠緑色の治癒の魔法陣が再び雪原の上に盛大に轟音を上げて展開した!
大統領マルバスの巨影が煙の向こうから歩み出ると、その太く力強い掌がメシアの胸元へと重ね合わされ、エメラルド色の治癒の光が瞬く間に少年の全身を包み込み、引き裂かれた傷口が常識を超えたスピードでみるみるうちに縫合・再生していく!
「このケダモノめ……いい加減にしなさいよ、この野郎——っ!」
リヴァイアサンは目元に美しい涙を浮かべたまま両手を広げ、倒れているメシアの前に必死に立ちはだかった! 深海魔神の幽藍色の瞳は切なさと怒りで燃え上がり、泣き声を交えながらベルフェゴールに向けてキーッと叫んだ。
「あいつがもうこんなにボロボロになってるの、見えないわけ?! これ以上殴り続けたら……本当に死んじゃうかもしれないのよ!」
リヴァイアサンの感情がまさに決壊しようとしたその瞬間——
血痕と氷片にまみれた大きくて温かな手が、彼女のスカートの裾をそっと引っ張った。
翡翠色の治癒の光に包まれたメシアが、苦しげにゆっくりとまぶたを持ち上げた。少年の真龍の瞳には疲労の色が濃く滲みながらも、どこまでも優しい光が宿っており、リヴァイアサンに向けて安心させるような、か弱い微笑みを向けた。
「リヴァイアサン……僕は大丈夫だ……君は傍で……見ていてくれればいい……僕はまだ……やれる……」
『カクッ。』
「僕はまだやれる」と最高にカッコいいセリフを言い終えた直後、少年の首がガクンと力なく傾き、見事に綺麗な流れで再び視界が真っ暗に落ち、完全に気絶してしまった。
「メシア——! あんたって奴は、どこまで意地っ張りなバカなのよっ!」リヴァイアサンは慌てて少年を抱き止め、堰を切ったように涙を溢れさせた。
対面に立つベルフェゴールはこの光景を眺めながら、やれやれと小さな手で自分の額を軽く叩き、再び目を糸目の状態に戻すと、服に付いた雪を払いながら呟いた。
「まったく……最近の若者は揃いも揃って見栄っ張りばかりだね。まあいいさ、今日はここまでにしておこうか~ まずはあの部屋に運び込んで休ませてあげてよ」
マルバスとオフィーリアの助けを借りて、一行は意識を失ったメシアを慎重に、あのボロボロの茅葺き小屋の中へと運び込んだ。
大小姐は命の危機を脱した少年を見つめ、張りつめていた胸をようやくホッと撫で下ろした。彼女は優雅に小さなお手を軽く払い、目をこすっているベルフェゴールに向けて、気高き千金様らしい甘い笑顔を向けた。
「小ベリ、今日はご苦労だったな~ 本王は今回、極上のフランス風フルーツケーキと高雅なアールグレイティーを持参しているぞ! さあ、一緒に優雅にアフタヌーンティーにするとしようか~」
先ほどまで眠たそうにしていたベルフェゴールは、「ケーキ」と「アールグレイティー」という単語を聞いた瞬間、その無邪気な顔にえも言われぬ純真さと不可解な表情を浮かべた。
彼はモコモコの天然パーマの頭をこてんと傾げ、この上なく無垢で、かつ至極当然といった子供の声で尋ねた。
「あのさ……ディヤ。あんた、昔は人間の肉しか食べないし、生血しか飲まなかったじゃん? いったいいつからそんな甘いものを口にするようになったわけ?」
「ぐ、ぐぅっ……ぷっ——ゴホッゴホゴホゴホッ! くっそ……ゲホッ!!」
優雅にアールグレイティーを一口啜り、ミルフィーユを味わっていた大小姐は、「人間の肉しか食べない」という爆弾発言を耳にした瞬間、瞳孔が凄まじい勢いで激震した! 極限の胃酸の逆流が一気に脳天を突き抜ける!
『ブハァーーーーーーッ!!』
大小姐は貴族としての矜持もプライドも完全に投げ捨て、口に含んでいた高級アールグレイティーの液体とケーキの残骸を、まるで火山の噴火のごとくベルフェゴールの顔面へと、ミリ単位で正確無比に盛大にブチ撒けたのだった!
「ゴホッゴホッ! て、てめえ……この寝ぼ助のブタ野郎め! 一体全体、何の頭のイカれたたわ言をほざいているのだぁぁぁ——っ!!」ディアブラは顔面を真っ赤に染め上げながら激しく咳き込み、激怒に身を震わせてキーキーと絶叫した!
頭から顔面にかけて紅茶とケーキの残骸を浴びせられたベルフェゴールは、死んだ魚のような目でその場に突っ立ち、わずかに口元を引き攣らせながら、諦め顔で自分の顔を拭き取った。
「……汚いなぁ、ディヤ。」
すぐ傍らでメシアの汗を拭いていたリヴァイアサンとオフィーリアは、このあまりにも劇的すぎるコントのような光景を目の当たりにし、思わず「プッ……!」と声を揃えて盛大に吹き出してしまった! 雪の舞い散る茅葺き小屋の中には、温かくも楽しげな笑い声がいつまでも響き渡っていた……。
――そして数時間後。
『メキメキメキッ……バキッ——!』
骨が砕け散る乾いた音が、静まり返った雪山の谷間に冷酷に響き渡った!
「もっと動きを速くしろ……ルシファーの剣は、お前の準備を待ってなどくれないぞ!」
言い終わるか終わらないかのうちに、たかが十五歳の少年のような外見をした小柄な少年ベルフェゴールは、身体を青藍色の空間の残影へと変化させた! 無機質な脅威すら感じさせない彼の小さな足が、山をも粉砕するほどの遠古の重力を纏い、メシアの胸の肋骨へと強烈な重力破裂キックを叩き込んだ!
『轟————!!』
凄まじい衝撃波が爆発し、少年の肋骨が一瞬にして数本折れ、彼の身体はまるで砲弾のように一直線に宙を舞い、何層もの積雪を突き破り、『ガタガタッ』と遠くの硬質な氷山の壁の奥深くまでグニャリと埋め込まれた!
「メシア——!」遠くで大小姐にしっかりと腕を掴まれていたリヴァイアサンとオフィーリアが同時に悲鳴を上げた!
氷の破片や細かな石礫がパラパラと降り注ぐ。
氷壁の凹みの中で、すっかり鮮血に染まった少年の指先がわずかにピクリと動いた。激痛と失血でうつろになりかけていたその真龍の黄金の瞳には、今やかつてないほどの執念と狂熱の炎が燃え盛っていた!
「がはっ……げほっ!」
メシアは必死の思いで自分の体を氷壁の凹みから引き抜き、地面へとドサリと崩れ落ちた。口から内臓の破片の混じった大量の血を吐き出し、眼前の一面を真っ赤に染め上げる。
少年は激しく震える両手で、重たい「天魔断罪の剣」の柄を再びしっかりと握り締め、その剣先を、目の前で一切表情を変えずに立つベルフェゴールへと向けた。
「もう少しで……何かを……掴める……」
少年の脳裏は極限の激痛と失血の中でも高速で回転し、剣身に宿る破魔の聖光と黒き炎は、体内でうねる真龍の魔力に触発されて、かつてない神秘的な共鳴を生み出し始めていた!
「あと……ほんの少しだ……」
『シュパッ——』
言い終わる間もなく、限界を超えた肉体の酷使と重傷が、ついに神経の糸をプツリと断ち切った。少年の視界が再び真っ暗な闇へと沈み込み、手から剣がこぼれ落ち、彼の体は再び力なく真っ白な雪原へと崩れ落ちていった……。
遠くでそれを見つめていたベルフェゴールは、重力魔力を纏っていたその小さな足をそっと下ろした。そのモコモコした髪に隠れた糸目がほんのわずかに見開き、雪の上に転がる天魔断罪の剣から放たれる微かな黒金の光をじっと見つめながら、その口元に極めて微細な感心の笑みを浮かべた。
「ふん……僕の全力の重力打撃を三度も耐え抜き、その上で霊魂の共鳴を掴みかけるとはね……このボクちゃんの根性は、千年前の勇者よりもよっぽど化け物じみているよ」
『シュパッ——!』
激しく舞い散る風雪の中、血に染まった雪原に倒れ伏す少年の背中は、あまりにもか弱く、細く見えた。
「少主——!!」
一番最初に雪の帳を切り裂いて飛び出したのはオフィーリアだった。銀髪の狼人少女は目を真っ赤に腫らし、目元に大粒の涙を浮かべながら、足元の冷たさも忘れ、メシアの傍らに崩れ落ちるように膝をついた。彼女は少年の胸が痛々しく陥没し、全身が生傷だらけになっている姿を見て、震える手で彼を抱き起そうとしたが、どこに触れても痛むのではないかと恐ろしくなり、ただ泣きじゃくりながら名前を呼び続けるしかなかった。
そのとき、小さな黒い影がまるで嵐のように素早く走り抜けた!
大小姐(狄婭布菈)は、いつもの優雅さも高慢さもかなぐり捨て、フリフリのレースのスカートの裾を掴みながら狂ったように走り寄り、積雪の中で足をとられて転びかけながらも駆けつけた。息絶え絶えになり、顔面が死人のように真っ青になっている専属従者を目にした瞬間、ディアブラの心臓はまるで目に見えない強靭な手で鷲掴みにされたかのような、耐え難い切なさと愛おしさに襲われた。
「このバカ……意地っ張りしか取り柄のない超ウルトラ大バカ野郎が……!」
大小姐は自分の下唇を強く噛み締め、そこからうっすらと赤い血がにじみ出た。彼女は一切の迷いを見せず、その白く華麗な小手を、今もなお「天魔断罪の剣」の柄と少年の手の上に強く重ね合わせた!
『嗡————!』
二人の肌と冷たい剣柄がピッタリと密着し、ディアブラはしっかりと目を閉じると、自身に残された全ての霊魂の律動を極限まで絞り出し、天魔断罪の剣とソロモンの指環の間を結ぶ魔力の回路を狂ったように活性化させた!
「マルバス……早く出てきなさい! 今すぐ……あいつを治すんだよぉぉぉ——!!!」
翠緑色と金色が織りなす治癒の魔法陣が、再び雪原の上で盛大に爆発した! 大統領マルバスの影が煙の中から飛び出し、その両手から放たれる最高濃度のエメラルド色の治癒の光が、メシアの破壊された胸腔と折れた骨格へと全力で注ぎ込まれていく!
エメラルドの輝きが、青ざめながらも心配の色で塗りつぶされたディアブラの顔を照らし出す。彼女の華奢な小手は少年の手背をしっかりと包み込み、その体内でかそけくも懸命に脈打つ心臓の音を感じ取りながら、その血赤色の瞳の奥に、こらえきれず薄い水の膜が広がっていった。
だが――その光景を少し離れた場所からじっと見つめていた者がいた。
深海魔神リヴァイアサンは雪原に立ち尽くしたまま、その幽藍色の瞳で、大小姐とメシアの重なり合った手、そしてディアブラの瞳に宿る微塵の隠し事もない深い愛情と切なさを、じっと見つめていた。
その瞬間、耐えがたいほどの強烈な嫉妬と孤独が、冷たい海水のようにリヴァイアサンの心を完全に呑み込んだ。
彼女は自分の胸元の衣類をきつく握り締め、自分の唇を血が滲むほど噛み締めると、かつては誇り高かったはずの深海的美貌の瞳に、初めて絶望に近い惨めさと劣等感が溢れ出した。
(どうして……どうして彼が一番苦しんでいるとき、一番救いを求めているとき……彼の力になれるのは、私じゃないの……?)
リヴァイアサンは自分の手のひらに生み出した青藍の水系魔力を茫然と見つめた――この力は万物を破壊し、大いなる荒波を巻き起こすことはできるというのに、なぜか……少年の体に刻まれたちっぽけな傷一筋すら、癒やしてやることができない。
深海魔神の小さな顔がぷうっと限界まで膨らみ、目元には切ない涙が伝い、彼女の心の中で無音の、しかしあまりにも痛切な叫びが響き渡った。
(もしも……もしも私にも、彼を癒やす力があったなら……もしも、あの生意気な小娘みたいに……彼のなくてはならない支えになれたなら……!)




