第27章:怠惰のベルフェゴールの極北試煉
豪華な魔法の馬車は、魔界の極北の地「永遠の凍土」へと続く古の道を穏やかに進んでいた。窓の外の景色は、次第に広大な白銀の世界と、舞い散る魔界の雪へと変わっていく。
車内では、上質なアールグレイティーの香りと、焼き立てのフランス菓子の甘い香りが溶け合い、外の身を切るような寒さを忘れさせてくれた。メシアは漆黒の「天魔断罪の剣」をそっと隅に立てかけ、剣身のわずかな汚れを拭き取っている。少年の黄金色の真龍の瞳には微かな好奇心が宿り、優雅にティーカップを傾けるお嬢様に視線を向けながら口を開いた。
「ディヤ……僕たちは今、いったいどんな『古い友人』に会いに行くんだい? 君がわざわざ自ら足を運ぶくらいだからさ」
向かいの席では、利維坦がメシアの隣の席を勝ち取ろうとぷうっと頬を膨らませており、オフィーリアは傍らで七色に輝く西洋剣の手入れを静かに行っている。大小姐の肩にちょこんと乗った5センチのミニ・アスモデウスすらも、ピピンと小さな耳を立てていた。
少年の問いかけを聞いたディアブラは、手にしていた骨磁のティーカップをそっと置き、その深紅の美しい瞳に一瞬だけ珍しいほどの厳粛さと深淵な色を宿した。彼女は高慢に小さな頭をピンと張り上げ、気高く澄んだ声で告げる。
「私たちが会いに行くのは……『怠惰のベルフェゴール』だ」
「怠惰……ベルフェゴール?!」
アスモデウスが思わず息を呑み、小さな手で額の汗を拭った。
「あの、俗世のいっさいに関わらなかった太古の老骨が相手なのか?」
ディアブラは小さく頷き、漆黒の美しい髪をふわりと揺らしながら、かつての宿敵にして同僚に対する認めと敬意を瞳に湛えた。
「そうだ。ベルフェゴールは比類なき知恵を持つ太古の魔神だ。単純な魔力の総量で言えば……全盛期の頃、彼は全魔界で唯一、この本王と互角に渡り合える存在だった」
大小姐は言葉を区切り、紅い唇を軽く開いて、この遠古の魔神の極めて特殊な生命の軌跡を語り始めた。
「彼の存在があまりにも巨大すぎるゆえに、彼が感じる時間の流れは凡人とはかけ離れている――普通の人間の『千年』は、彼にとってはほんの『一日』にすぎないのだ。ゆえに、彼の生体リズムは『千年眠り、千年起きる』というものになっている」
大小姐は窓の外の舞い散る魔界の雪へと視線を移し、その声にどこか感慨深げな響きを帯びさせた。
「千年前のあの凄惨な人魔大戦が終結した後、世界は束の間の虚無と混沌に包まれた。ちょうど彼の睡眠の周期と重なったため、彼は何の躊躇もなく深い大いなる眠りについたのだ。世事に関わらず、戦争にも加担せず、ずっと気ままに安らかな日々を過ごしていた……」
ディアブラは視線を戻すと、その口元に遊び心と自信に満ちた笑みを浮かべた。
「計算通りにいけば……ここ数日は、彼が千年の長き眠りから……正式に『目覚める』記念すべき大吉日だ! 彼を説得して我々の味方に引き入れることができれば、ルシファーの新秩序など……恐れるに足りん!」
「魔力において全盛期の魔王と互角だった」という評価を聞き、普段はプライドの高い深海魔神リヴァイアサンすらもわずかに美しい眉をひそめ、メシアの表情も一気に引き締まった。
一同が馬車のカーテンを押し開けて前方を覗き込むと、白銀の山々の奥深くから、古く、静かで、海原のように広大かつ恐ろしい魔力が、千年の長い夢から……ゆっくりと目を覚まそうとしているのが感じられた!
極北の地、白銀に閉ざされた谷の奥。
誰もが予想していなかったことに、伝説の中で全盛期の魔王と互角に渡り合ったという遠古の魔神の住処は、壮麗で立派な魔王城などではなく、屋根に分厚い雪を積もらせた、今にも崩れ落ちそうな粗末な茅葺き屋根の小屋だった。
『ギィィ……』
古びた木の扉が、風雪の中でゆっくりと押し開けられた。
中から姿を現したのは、ボサボサで乱れ放題の天然パーマの髪を頭に載せ、両目をいつも固く細い一本の線のように閉じ、顔立ちは整っていながらも眠気でいっぱいの小さな少年だった。歳は十五歳ほどに見え、身なりは細身で、小柄なディアブラと背丈も変わらない。ゆったりとした大きめのパジャマを無造作に引っ掛けたその体からは、いつでもどこでもその場で眠りこけてしまいそうな、極限の気だるさが漂っていた。
ディアブラは優雅に小さな手を伸ばし、腕を組むと、その少年に向かって気だるげに声をかけた。
「おはよ、小ベリ」
目の前にいる、一見すると人畜無害にしか見えないこの小柄な少年こそが——伝説の【怠惰のベルフェゴール】その人であった!
彼は小さく口を開くと、この上なく大げさに長いあくびをし、目元に眠たげな涙すら浮かべながら、柔らかくも要領を得ない子供の声で呟いた。
「なんだよ……なんだ、ディアか……朝っぱらから人の夢を邪魔するなんて、天罰が下るぞ……」
ディアブラはそれを見るや一切の無駄口を叩かず、まっすぐに気高く小さな頭をピンと張り上げて叫んだ。
「小ベリ! そんなところで眠たそうにしているな、早く本王と一緒にルシファーを叩きのめしに行くぞ!」
「やだ、断る」
ベルフェゴールは半秒の迷いもなく、秒速で拒絶した。
「この怠け者の小僧め!」ディアブラはたちまち頬をプクッと膨らませ、不機嫌そうに鼻を鳴らした。「もう二度と、お前とはケンカごっこをしてやらないからな!」
「諦めなよ、ディア。今のあんたじゃ……僕とまともに戦うことすらできないだろ?」
ベルフェゴールは気だるげに乱れた髪を掻きむしり、まぶたすら持ち上げるのを面倒そうにしながら、やれやれとため息をついた。
「それにさ、僕だってルシファーを倒したいのはやまやまだけど……『どうしようもない』んだよ。あいつ、どこから手に入れたのか『天啓』の力を得ていてさ、今のところ全ての物理攻撃も魔法攻撃もあいつには一切通じないんだ。もし何とかするとしたら……ディア、あんたが持ってるその『天魔断罪の剣』を完全に覚醒させて、あいつの天啓の加護を打ち破るしかない」
小少年はチラリとディアブラを流し見ると、その口元にからかうような笑みを浮かべた。
「でもさ……今のあんたみたいに小柄で魔力もない凡人の姿じゃ、あの剣の本当の威力なんて引き出せるわけないよね?」
「だから本王がこうして連れてきたのではないか!」
ディアブラは得意満面に顎をクイッとしゃくり上げ、それからわずかに体を横に向けて、背後に控えていたメシアへと視線を投げかけた。
「あいつなら……まだあの剣の本当の力を完全には引き出せていないようだがね」
ほう――?!
それまでずっと「糸目状態」だったベルフェゴールが、ディアブラの視線を追ってメシアの手にある漆黒の魔剣を一瞥した瞬間、その常に怠惰に閉じられていた目が……わずかにスッと開かれた!
ぞっとするような湛えられた青き古の魔芒が、少年の目から一瞬だけ閃いたのだ。
「ふうん……面白そうじゃないか」
ベルフェゴールは気ままに大きく伸びを一つすると、全身の骨からパキパキと小気味よい音が響いた。それまでの散漫極まりない眠気がこの瞬間には嘘のように消え去り、その代わりに遠古の魔神特有の圧倒的な威圧感が辺りを制圧した! 彼は少年をまっすぐに見据え、その口元にニヤリと不敵な笑みを貼り付ける。
「ねえ、そこのボクちゃん……準備はいいかい? 今から僕が手を貸してあげるからさ、『天魔断罪の剣』の全ての力をどうやって引き出すか、体で覚えてもらうよ――さあ、受けてみな!」




