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魔王は転生して令嬢となり、雇われた勇者護衛  作者: 星野翔


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第26章:深海の涙と大小姐の帰還

同じ頃、煉獄の城の大殿内では、空間を覆っていた黄金の光がとうとう完全に消え失せていた。


「くそっ、マモンめ……よくもあんな真似を!」


メシアは「天魔断罪の剣」をぎゅっと固く握り締め、その瞳を焦燥と怒りで真っ赤に燃え上がらせていた。少年には一瞬の躊躇すらなく、身体を翻して魔剣をひっつかみ、そのまま天空城へと単身乗り込んでディアブラを救い出す気構えを見せた!


だが、彼が大殿から一歩を踏み出すより早く——


『スッ……!』


ひんやりとした感触を持つ、細くしなやかな小さな手が、少年の袖を猛烈な勢いでグイッと掴んだ!


メシアがハッとして振り返ると、そこにはずっと彼の傍らに寄り添っていた深海魔神・リヴァイアサンが、血相を変えてしがみついている姿があった。


このときのリヴァイアサンは、潤んだ幽藍色の瞳を大きく見開き、その絶世の美貌をこれでもかとばかりにぷうっと膨らませて、ふたつの可愛らしい小さなお饅頭のように怒らせていた! 彼女の白く華麗な小さな足が床の上で『パタパタッ! パタパタッ!』と地団駄を踏み鳴らされ、全身からは強烈な嫉妬と恨めしさがプンプンと立ち上っている!


「ミゼール様! 行っちゃダメです! 私、そんなの絶対に許しませんからね——っ!」


リヴァイアサンは怒れば怒るほど切なさが募ったのか、両手をめいっぱい広げてメシアの腕にしがみつき、まるで離れたくない甘えん坊のように彼の体にベッタリと貼り付くと、泣きそうな声を震わせながら嬌慢に、そして大声で問いただした。


「あんな生意気な小娘なんて、連れ去られたって放っておけばいいじゃないですか! 彼女はもともと魔界の人間なんですから、ルシファーに捕まったってあいつら魔界の身内同士のいざこざでしょ! どうしてあなたがそんなに命がけであんな女を助けに行かなきゃならないんですかっ——?!」


リヴァイアサンは唇を尖らせ、幽藍色の瞳で少年の黄金の瞳をじっと見据え、その目元には堪えきれなかった嫉妬の涙すら滲ませながら、猛然と地団駄を踏み鳴らした。


「ルシファーであんなに恐ろしい奴なのに……もし、あの傲慢で生意気なクソ女を助けるために……万が一にも、万が一にもあなたが命を落としたりなんかしたら……そ、そのときは私はどうすればいいんですかっ——!」


深海魔神の華奢な体が細かく震え、柔らかい頬を少年の肩にピタリと押し当てると、その声はたまらなくか弱く、そして恐怖に満ちたものへと変わっていった。


「私は丸々千年もの間、あなたを待ち続けたんですよ……やっとの思いでまた巡り合えたというのに……魔界の秩序がどうなったって、世界が滅びようが知ったことありません! 私にとって……ミゼール様の安全は、どんなものよりも百倍、千倍も大切なんです! あんな生意気な女のことは放っておいて、今すぐ私と深海に帰りましょう……お願いです……!」


リヴァイアサンが放つ、抑えきれない独占欲と満身創痍の切なさが入り混じった激しい引き留めに対し、メシアはわずかに嫌な顔をするどころか、その湛えられた黄金の瞳にどこまでも深い優しさと慈愛を浮かべていた。


少年はゆっくりとその手に持っていた魔威を放つ魔剣を下ろし、温かな両手を優しく伸ばして、リヴァイアサンが怒りのあまり自分の袖を強く握りしめている小さな手をそっと包み込んだ。彼はわずかに身を屈めると、星河を映すかのように澄み切った真龍の黄金の瞳で、目の前の怒れる深海魔神をまっすぐに見つめ、この上なく毅然とした、それでいてどこまでも優しい声で語りかけた。


「聞いてくれ、リヴァイアサン」


少年の声は、凍てついた大地を撫でる春風のように、聞く者の心を不思議と落ち着かせる重みと実直さに満ちていた。


「彼女を守ること……それは僕の義務なんだ。幼い頃から父に教え込まれてきた。『報酬を受け取った以上、依頼人の安全は何よりも優先すべきだ』ってね。これは『真龍の勇者』の息子として、絶対に違えてはならない原則であり使命なんだ」


メシアは優しく親指を伸ばし、リヴァイアサンの目元に浮かんでいた一粒の幽藍色の涙をそっと拭い去ると、その口元に一切の曇りなき清らかな笑みを浮かべた。


「最初に大小姐の護衛の依頼を引き受けたとき、彼女の命を必ず守り抜くって約束したんだ。だから、僕は絶対にその約束を違えるわけにはいかない……彼女が前魔王であろうと、傲慢なお嬢さまであろうと、そんな身分は関係ない。ただ、僕は彼女の護衛であり、彼女は僕の依頼人だからだ」


少年はリヴァイアサンの冷んやりとした手掌をそっと強く握り締め、その瞳に眩いばかりの真摯な光を宿した。


「約束するよ、リヴァイアサン。僕は絶対に死んだりしない。大小姐を無事に救い出してこの任務をやり遂げたら……深海でも、世界のどこへでも、君の行きたいところへ一緒に連れて行ってあげるから。ね?」


真龍の勇者が持つ気高さと、この上なく誠実で真っ直ぐな告白を聞いた瞬間、あれほどぷうっと膨らまされていたリヴァイアサンの小さな頬の空気は、まるで風船のよう一気にしぼんでいった。


深海魔神の美しい顔が一瞬にしてほんのりと淡い朱色に染まり、幽藍色の瞳には胸を高鳴らせる動揺とどうしようもない諦めが複雑に入り交じった。彼女は結局、悔しそうにぷいっとそっぽを向くと、すねたようにこう吐き捨てるしかなかった。


「……本当にお人好しで、しかもカッコよすぎるバカなんだから……まったく! あなたがそこまで言うなら、私も勝手に一緒についていってあげるんだからね! 救出の途中で、あの傲慢で生意気なクソ女にまた変な気を起こされないように、私がしっかり見張ってなきゃ気が済まないんだから!」


リヴァイアサンが不満げに頬を膨らませながらメシアの腕にしがみつき、愛憎入り交じった独占欲全開の最終宣言を繰り広げているこの大殿は、まるでこれから壮絶な生死を共にするかのような、悲壮感に満ちた重厚な雰囲気に包まれていた。


そのとき——


『ギィィ——ッ……!』


魔界の威厳を象徴する、あの重厚で漆黒の鉄の大扉が、突如として何の前触れもなく外側から豪快に蹴り破られた!


そこに立っていたのは、ほんの数分前まで黄金の鎖でグルグル巻きにされ、マモンに無情に連れ去られて「ルシファーに売り飛ばされる」はずだったディアブラその人だった。彼女はまるで何事もなかったかのように自分のフリフリとしたペチコートの裾についた埃をパタパタと手で払い落とし、貴族用の小さなハイヒールで優雅にコツコツと歩みを進め、手にはなんと焼きたての濃厚なミルクの香りが漂う極上のフランス風クッキーの入った紙袋まで提げたままで、胸を張り悠然と大殿に戻ってきたのだった!


大小姐は気品のある美しい眉をピクリと跳ね上げ、その血のように赤い瞳で、メシアにぴったりと張り付いたままのリヴァイアサンを冷ややかに一瞥した。そして両腕を組むと、この上なく不機嫌そうに鼻を鳴らした。


ライバルを睨みつける。


「おい、本王が入口まで戻ってきたときから聞こえていたぞ……その臭いクラゲがさっき口走っていた『生意気なクソ女』というのは……いったい誰のことだ、あぁん?!」


「「「ええええええーーーっ!?!?」」」


大殿の中は、その一瞬ですべての音が消え去り、死の如き沈黙に包まれた!


メシアは全身を硬直させたまま、リヴァイアサンの頭をなでようとしていた優しい手のポーズのままピタリと固まった。サマエルはあまりの驚きに手の中で一万斤の重さがあるはずの巨大な斧を自分の足に落としそうになり、テーブルの端でふんそりと気取っていた5センチのミニ・アスモデウスでさえあまりの衝撃に両足の力が抜け、机の上から真ッ逆さまに床へと転げ落ちて、豆粒のような目を限界まで見開いた。


一同は揃って盛大に息を呑み込み、飛び出さんばかりに眼を見張りながら、信じられないものを見る目で絶叫した。


「大……大小姐?! い、一体どうやってルシファーのところから逃げ出してきたんですか!?」


「逃げる? 本王が逃げる必要があるとでも言うのか?!」


ディアブラはまるで頭の悪い者たちを見るかのような冷たい視線を一瞥し、その誇り高い小さな顎をぐっとしゃくり上げると、堂々と言い放った。


「さっきあの金ピカのクソ狐が馬車の中で自分で白状していただろう? あいつは『一番高く買った奴に売る』とかなんとかほざいていたな? だから本王はそこで真面目に考えたのだ——本王は今こそ魔力を失い、肉体が弱体化してはいるが、この転生後の身体には……他には取り柄がなくとも、一つだけ絶大な強みがある。それは——とにかく莫大な財力があるということだ!」


大小姐は優雅に細く白い小さな手をヒラヒラと振ると、この上なく憎たらしいが同時に圧倒的な覇気を放つ笑みを浮かべた。


「本王はその場で財力をこれでもかと見せつけ、あのルシファーの提示した価格の、なんと『三倍の値段』を叩きつけてやったのだ! 本王の名義にある三つの豊かな鉱山と、五つの大繁華街の永久経営権を差し出して、あの金に目が眩んだクソ商人を丸ごと逆買収してやったわ! だから今や……あの金の狐も、奴が連れていた数万の天魔軍も、高級魔導兵器庫も、すべての軍糧物資も、すべては本王の私有財産なのだ!」


そう言いながら、ディアブラは優雅に体を翻すと、大殿の扉の外に向けて小さく手をパンパンと叩いた。


すると、先ほどまで世界を我が物顔で闊歩し、魔王を高値で売りさばこうとしていた「強欲のマモン」が、今や真新しい極上の銀のティートレーを両手で恭しく支え持ち、満面の笑みを浮かべ、ペコペコと頭を下げながら小走りで入ってきたではないか!


「いやぁ~、ディヤちゃん……いえ! 尊きことこの上なきディアブラ大小姐! お気に召しましたか、たった今淹れたばかりの極上のアールグレイティーでございますよ、甘さ加減はいかがでしょうか~♥? 本座および本座が率いるすべての部隊と軍勢は、これより後、すべて大小姐様のお心のままに!」


「「「こ、こんなのアリなのかよおおおーーっ!?!?」」」


大殿にいた全員が完全に石像と化し、その三観(世界観・人生観・価値観)を音を立てて粉々に砕かれた!


さきほどまで「命がけでお嬢様を救う」と誓って涙を流し、生死を分かつ修羅場を演じていたメシアとリヴァイアサンは、顔面を引き攣らせるしかなかった。リヴァイアサンに至っては顔全体が「真っ赤」に沸騰し、頭から湯気を吹き出しながら大小姐を指さしてヒステリックに絶叫した。


「この成金女め! ドケチな大資本家めが——っ! さっきの私たちの感動の涙と愛を返してよおおお――っ!」


大小姐(ディアブラ)はマモンが自ら恭しく差し出した極上のアールグレイティーを優雅につまみ上げ、こくりと一口啜ると、軽やかで気高いお嬢様の足取りで、いまだに石化している「憤怒のサマエル」の傍らへと歩み寄った。


山のように巨大な巨体を持ち、さきほどまで軍の損耗と兵站物資に頭を悩ませていたかつての幹部を見上げると、大小姐はその白く華麗な小手を伸ばし、サマエルの鉄壁のごとき分厚い背中を豪快にペタペタと叩いた。


「神兵利器も軍隊も、そしてその金ピカのクソ狐が持ってきた万車もの軍糧も、すべて本王が買い取ったのだ! これからの要塞の防衛は……すべてお前に任せたぞ、本王の『魔界大将軍』!」


大小姐は気高く小さな頭をピンと上げ、その血色の瞳に微塵の揺るぎもない帝王の威厳を宿しながら、最高指示を下した。


「本王のために、この煉獄の城をしっかりと守り抜け! 本王はこれから、本王の『専属従者たち』を連れて、とある非常に特別な『古い友人』を訪ねに行くとしよう!」


ディアブラのあまりにも常軌を逸した、しかし「札束の力」で力づくで解決する圧倒的な手腕に言葉を失っていたサマエルは、しばらく呆然と瞬きを繰り返した後、ようやく現実へと引き戻された。要塞の山積みにされた高階防禦魔導器と、マモンがヘコヘコと差し出す万車におよぶ軍糧の山を見つめると、この狂暴な暴君は耐え切れず、腹の底から雷鳴の如く豪快な笑い声を轟かせたのだ!


「ガハハハハハッ! よい! まさに『高値で買い取る』とはこのことよ! ディアブロ様がそこまでおっしゃるのなら……このサマエル、命に代えてもこの煉獄の城を守り抜いてみせましょう! わしが息をしている限り、ルシファーのクソ野郎どもは一歩たりともこの城門を跨がせはせんわ!」


留守を万全に固めた後、ディアブラは優雅にその身を翻し、夜の闇のように深い黒髪を空中で美しい弧を描かせた。


彼女はその血赤色の美しい瞳をゆっくりと巡らせ——天魔断罪の剣を携えた農村の少主・メシア、ようやく傷が癒えて闘志を燃やす狼人少女・オフィーリア、そしていまだにふくよかな頬を膨らませて不満げな深海魔神・リヴァイアサンを捉えると、その口元に自信に満ち溢れた、眩いばかりの傲嬌な微笑みを浮かべた。


「行くぞ、メシア! オフィーリア! そして……そこの不満タラタラな深海クラゲ!」


「御意のままに、大小姐!」


メシアは漆黒の魔剣をしっかりと肩に担ぎ、大小姐に向けてこの上なく安心感を与える大人の笑みを返した。オフィーリアも鮮やかに剣鞘を押し込み、腰の七色に輝く西洋剣を収めると、リヴァイアサンは相変わらず不服そうに「ふんっ」とそっぽを向いていたものの、その体はメシアのもう片方の袖をしっかりと掴んで一歩も離れようとしなかった。


サマエルとマモンが深く頭を垂れて見送る中、夕日の余韻が彼らの影を長く引き延ばし、驚きと笑いに満ちたこの一行は、次の「古い友人」を訪ねるための新たな旅路へと、堂々と踏み出していくのだった!

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