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魔王は転生して令嬢となり、雇われた勇者護衛  作者: 星野翔


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第十九章:暴食の再臨と小千金の帝王の反撃

第一幕:要塞の激突と死闘の幕開け


緊迫した空気を切り裂くように、荒々しく乱れた足音が静寂の大殿に響き渡った。


全身にいくつもの痛々しい傷を負った魔界の斥候兵が、顔色を青ざめさせながら大殿へと飛び込んでき、ドサリと片膝をつくと、大声で悲鳴を上げた。


「ご、報告——ッ! 大変です、サマエル様! ルシファー軍の『暴食のベルゼブブ』が、数万の天魔大軍を引き連れて攻め込んできました! すでに外縁の防衛線を突破し、この主城へと直撃の勢いで進撃中であります!」


その急報を聞いた瞬間、サマエルの双眸が鋭く細められ、粗野な顔に深い陰りが走った。彼の全身を包み込む漆黒の烈炎が、再び激しく波打つように逆巻き始める。


「ふん、ベルゼブブめ、あの小バエが……神殿のいざこざで恥をかかされたからと、今度は本座の煉獄の城で憂さ晴らしをするつもりか。いいタイミングで転がり込んできたものだな!」


一触即発の緊張感が走り、大殿の空気が凍りついたその時——


先ほどまでサマエルから「か弱くて役に立たない」と断じられていたはずのディアブラは、優雅に自らの気高い貴族のレースドレスの裾を整えると、ふっとその小さなお頭を堂々と持ち上げた。


千年前、幾万の軍勢を統べた魔王ディアブロとして——彼の脳裡には、敵の陣形を粉砕するための最適解が瞬時に描き出されていた。彼女の深紅の瞳には、先ほどまでの窮屈な焦燥感は微塵もなく、長い眠りから覚めたばかりの帝王としての絶対的な自信と、冴えわたる知性が燦然と輝いていた。彼女は骨の玉座に座るサマエルを横目で見据え、その口元に愉快で不敵な弧を描いてみせた。


ニンと笑った彼女は、誇らしげなトーンで言い放った。


「サマエルよ、お前さっき本王に尋ねたではないか……お前と協力して何の得があるのか、とな?」


ディアブラは胸を張って凛と立ち、世界を睥睨するような覇気をその小さな身体いっぱいに纏いながら、響き渡る澄んだ声を大殿に轟かせた。


「いまこそ……本王が自らの手でお前に見せてやろうではないか! ベルゼブブごとき食い意いの張ったドジバエなど……本王が今日、後悔の底まで叩き落としてお仕置きしてくれるわ!」


言い終えると、彼女はきびすを返し、背後に控える少年と狼人の少女へとこれ以上ないほど揺るぎない眼差しを向け、唇を端正に開いた。


「行くぞ、メシア! オフィーリア!」

「御意のままに、お嬢様!」


メシアは手にした『天魔断罪の剣』を頼もしく肩に担ぎ、お嬢様に向けてこの上なく安心感を与える大人の笑みを浮かべた。傍らのオフィーリアもまた、愛用の『七彩に輝く虹光の剣』をシャキッと抜き放ち、その瞳には狂暴な赤血狼人の戦闘本能が猛烈にスパークしていた! 肩の上の5センチのミニ・アスモデウスですら、負けじと両手を腰に当て、虚勢を張って小さな拳をぶんぶんと振り回す。


玉座に腰掛けていたサマエルすらも、その圧倒的な光景に一瞬息を呑んで呆気にとられた。


目の前にあるのは、どう見ても戦闘力皆無のか弱き少女の肉体でありながら、誰よりも強烈な「帝王の気場」を放っている小千金の姿だった。この狂暴なる暴君は、野太い口を大きく開け、血に飢えた狂喜の笑い声を轟かせた。


「ハハハハハ! よろしい、ディアブロ! ならばその新生したお前の器、本座にたっぷりと見せてもらおうか!」


◇


第二幕:白熱の激突と欺瞞の罠


『ドォォォン————!』


要塞の城壁の外に広がる荒野では、3万の天魔大軍とサマエルの熔岩親衛隊が、まるで二つの巨大な滅亡の狂潮の如く激突していた! 怒号と魔物の唸り声、そして鉄と魔力がぶつかり合う凄まじい衝撃音が天を揺ルガし、戦場は一瞬にして血肉の飛び散る修羅場へと変貌する。


その漆黒の戦場の真ん中で、眩いばかりの金と黒の光華が狂暴に爆裂した!


『天魔断罪の剣』を振るうメシアは、まさに無人の荒野を行くがごとき圧倒的な無双の強さを見せつけていた。少年の真龍の金瞳が熾烈な光を放ち、漆黒の魔王の黒炎と黄金の気魄が高速の剣閃となって縦横無尽に走り抜ける。彼が通った跡には、百を超える堕落天使や高階悪魔たちが断末魔の暇すら与えられることなく、一刀両端のもとに微塵の灰へと変えられていく!


かたや反対の陣地では、銀灰色の狼影が稲妻のごとく敵陣を切り裂いていた——フルパワーの狼人形態を解放したオフィーリアである!


『シュッ! シュッ! シャァァッ!』


全身を銀灰色の毛並みに包まれたオフィーリアは、『七彩に輝く虹光の剣』を凄まじい神速で振るい、空気中に十数本の七彩の残影を引き裂きながら、目前のベルゼブブを完全に圧倒し、追い詰めていた!


「くっ……この小娘がぁ……ッ!」


破魔の聖光によって肉体を絶えず灼かれ続け、ベルゼブブの表情は歪み、その狂気と病的な執着が限界を超えてスパークした。


『パリパリッ……! ドシュッ!』


ベルゼブブの背中に生えた暗紫色の巨大な羽翼が激しく裂け、その肉体がさらに不気味に膨張・変形する。彼女の滑らかな肌からは、無数の漆黒の甲殻と昆虫の複眼がムキ出しに飛び出した——彼女は自らがもっとも忌み嫌っていた「半魔半人の戦闘形態」へと文字通り堕落・変化したのだ!


「わ、私は……こんな醜い姿の自分が……一番嫌いなんだよぉぉぉっ!!」


ベルゼブブが耳をつんざくような金切り声を張り上げた。形態変化を遂げた彼女の速度は、フルパワーの狼人状態にあるオフィーリアすら凌駕し、数倍にまで跳ね上がっていた!


『ガキィッ! ドンッ! ゴッ!』


ベルゼブブの姿は完全に目に見えない紫黒の亡霊と化し、狂暴な魔爪が西洋剣の切っ先へと激しい連打を浴びせる。その凄まじい反動の衝撃で、オフィーリアの手のひらが痺れ、たまらず数歩後方へと押し戻されていく!


「調子に乗るな……このメスバエめ!」


スピードで勝るベルゼブブを前にしても、オフィーリアの銀藍色の狼瞳には一歩も退かぬ冷徹な光が宿っていた。彼女は引くどころか一歩前へ踏み出し、足元の石畳を踏み砕くと、瞬時に体をひるがえして致命的な角度を作り出した。


「反手翻弄——七彩虹光・一閃突刺!」


『プシュァァァッ————!』


七色の虹光を眩しく纏った銀白の細身剣が、常人には捉えられない奇跡の軌道を描き、薄い紙を突き破るようにして、再びベルゼブブのもう片方の手掌を正確無比に完全貫通した!


「がぁぁぁぁぁッ——!!」


ベルゼブブがこの日二度目となる、悲惨を極めた絶叫を上げた。両方の手のひらが破魔の剣光によって完全に串刺しにされ、滾るような黒き魔血が噴き出し、彼女の身体はたまらずバランスを崩してよろめき後退した。


灼熱の剣柄を強く握りしめながら、オフィーリアは口元の銀灰色の狼の毛並みをわずかに持ち上げ、底冷えのする冷徹で誇り高い笑みを浮かべた。


「どうだ、臭いバエめ……これで両手とも使い物まいだな! いい加減に……くたばれ!」


だが——


その必死のトドメの宣告を耳にしても、地面に崩れ落ちるように膝をついていたベルゼブブの顔に、苦悶や恐怖の表情は微塵も残されていなかった。


代わりにそこ浮かんでいたのは、極限まで残酷で、凍てつくほど陰湿な、漆黒の冷笑であった。


「ひひっ……愚かな狼の小娘めが……」


『グチャッ……ズシュゥッ!』


不気味な肉の裂ける、背筋が凍るような重い音が響き渡った!


なんと、ベルゼブブの平らだったはずの腹部が、中央から縦にパックリと裂けたのだ! そこから、無数の漆黒の逆トゲがびっしりと生えた、大蛇のように凶悪で巨大な「第二対の魔爪の腕」が、毒蛇の如き狂暴さでヌルリと飛び出した!


「なっ……まさ——?!」


オフィーリアの瞳孔が限界まで小さく収縮し、防御の剣を戻す間すらなかった!


『ズシャアァァッ——ドンッ!』


腹部から突き出したそのおぞましい魔爪は、万軍をも引き裂く巨力と致死性の猛毒を纏い、容赦なくオフィーリアの防護鎧と下腹部を深く、深く貫き通した!


「ぐはっ……あぁぁぁ……ッ!」


骨の髄まで焼き付くような凄まじい激痛が神経を一瞬で破壊した。オフィーリアの美しき顔面から血の気が完全に引いて真っ白になり、濃くドロドロとした鮮血が彼女の口から勢いよく噴き出し、自らの銀灰色の毛並みを鮮血に染め上げた。


「私のスペシャルなデザートになりなさい、子狼ちゃん!」


ベルゼブブは目を血走らせて狂気に満ちた笑みを浮かべると、腹部から生えたその魔爪を力任せに一振りした。重傷を負い、血を吐き続けるオフィーリアの身体は、まるでボロ布のように数百メートルもの彼方へと勢いよく放り投げられ、要塞の城壁の瓦礫のなかに激突して、もうもうたる煙を巻き上げた!


「オフィーリア——ッ!!」

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