第十四章:赤血の狼人と七彩に輝く虹光の剣
第一幕:冷徹な門番と深海の傍観者
ベルゼブブは冷ややかな視線を走らせ、近くの大きな岩に腰掛けている深海的主宰を一瞥すると、低く冷たい笑い声を漏らした。
「リヴィアタン、同じ魔神でありながら……お前はただ見ているだけか? この分不相応な二人のガキを助けにいくつもりはないのか?」
だがリヴィアタンは、これ以上ないほど面倒くさそうにそこに座り込んだまま、あろうことか細い指で鼻をホジホジとほじくりながら手をヒラヒラと振ってみせた。
「はぁ? あいつらを助けるだって? むしろお前がそのディアブロとかいう臭い奴をさっさと食っちまえよ! 私の愛しい勇者様にさえ手を出さなければ、他のやつの生死なんざ本座の知ったこっちゃないね~」
「やめろ! 彼女から離れろ!」
その時、傍らに控えていたメシアの瞳が一瞬にして鋭く凍てつき、普段の気のいい農家の少年の面影は跡形もなく消え去った! 彼が握りしめる鉄剣から、この上なく凌駕された覇道の剣圧が爆発し、空気を引き裂きながら轟音を伴ってベルゼブブの背中へと凄まじい勢いで斬り込んだ!
だが、メシアとオフィーリアの二人による全力の合撃を同時に受けてもなお、ベルゼブブの足取りは風のように軽やかで、微塵の隙も見せなかった。彼女の速度はあまりにも速く、ただ一筋の紫色の残影を残すのみであり、暴風雨の如き剣光の嵐の中をあざ笑うかのように優雅にすり抜けていく。
「どうしたの?」
ベルゼブブは軽やかに身をかわしながら、玩弄するような嘲笑を響かせ、その声には底知れない侮蔑が満ちていた。
「『真龍の勇者』に『破魔の剣』……親父やお袋たちの威勢のいい勇者の二つ名も、お前らのような乳臭いガキに受け継がれた途端、見る影もないほどショボちちくなっちまったものだな?」
言葉が終わるや否や、ベルゼブブの瞳の色が急激に沈み込んだ!
ドッ!
彼女の身体がふわりと揺らいだかと思うと、一瞬にしてメシアの側面に姿を現し、虚空を蹴った強烈な一撃が少年の腹部をまともに捉えた! メシアはまるで重い鉄鎚に打ち据えられたかのように弓なりに吹き飛び、後方の巨大な岩を粉々に砕きながら激突した。
オフィーリアが反応する間もなく、ベルゼブブは身を翻すと、空気を切り裂く凄まじい風切り音を伴う正拳突きを、彼女が構えた剣の切っ先へと叩きつけた! 圧倒的なまでの巨力がオフィーリアの愛剣を弾き飛ばし、彼女の身体は数十メートルもの距離を吹き飛ばされて地面に叩きつけられ、口から鮮血を吐き出した。
二人を鮮やかに、そして無慈悲に片付けた後、ベルゼブブの周囲に漂っていたふざけた気配は一瞬にして消え失せ、実体を伴うほど濃厚な殺意が怒濤のごとく沸き上がった。
彼女はゆっくりと身体を向き直らせ、暗紫色の瞳に血に飢えた狂気を宿しながら、凍りつくような冷たい声を吐き出した。
「……私の人生でな、一番許せないのは、極上の美味を味わっている最中に、分不相応な虫けらが邪魔立てをしにやってくることだ」
第二幕:赤血狼人の覚醒と七彩の虹光
倒れて動かないメシアとオフィーリアを目の当たりにし、傍らで震えていたディアブラの小さなお顔から完全に血の気が引いた。彼女は震える両足を必死に押さえつけながらも、二人を庇うようにその前に立ちはだかり、ベルゼブブに向かって限界の絶叫を浴びせた。
「やめろ! ベルゼブブ! 本王は……本王はお前に奴らを殺すことなど許可しておらんぞ!」
生死の境をさまよう絶望の瞬間、突如として異変が巻き起こった!
先ほどまで血を流して力尽きていたはずのオフィーリアの瞳が、突如として禍々しいまでの深紅の凶光に染まった!
彼女の雪のように滑らかな肌の上、露出していた腕や首筋に沿って、猛火の如く濃密で熾烈な赤き狼の毛並みが猛烈な勢いで覆い尽くしていく。全身の筋肉が隆々と盛り上がり、原始的で、暴力的で、すべての理性を吹き飛ばす古の魔獣の威圧感が、火山の大爆発のごとく轟音とともに吹き荒れた!
『ダァァッ——!』
オフィーリアが一歩踏みしめた瞬間、足元の冷たい石畳が粉々に粉砕され、彼女の身体は一筋の赤き閃光となって弾き出された。先ほどとは比較にならないほどのスピードと威力で、無数の虹色の冷光が暴風雨のごとく叩きつけられる!
ベルゼブブはさすがに色を失い、慌てて身をひるがえして狼狽えながら回避したが、その暗紫色の瞳には限界の驚愕の色が浮かんでいた。
「これは……魔物の狂暴なる混血だと?!」
「我が血族、赤血狼人の高貴な血脈を舐めるなよ——!」
オフィーリアは野獣の如く低く、だが澄み切った気高き咆哮を轟かせ、誇らしくその首を掲げると、全身に満ち溢れる赤き野性の霊力を、手にした佩剣へと怒濤の勢いで注ぎ込んだ!
「それに……私には、母上から受け継いだ至高の宝物がある!」
「——『七彩に輝く虹光の剣』!!」
『プシュァァァッ————!』
七色の輝きを放ち、眩いばかりのまばゆい虹色の剣光が、濃霧の森のなかで虹霓の如く轟音とともに爆発した!
赤血狼人の暴虐的な肉体強度と、神兵がもたらす極致の加護が完全に融合した、目にも留まらぬ迅雷の致命的な一撃!
閃光が走り、ベルゼブブがとっさに伸ばした右の手のひらを、その虹の剣光が容赦なく、正確無比に完全貫通した!
「がぁぁっ——! この小娘があぁぁっ!!」
手のひらを真っ二つに貫かれた凄まじい激痛に、ベルゼブブは耳をつんざくような悲鳴を上げ、泥濘の地面に鮮血を飛び散らせながら、たまらず後方へと何度もよろめき後ずさった。
だが、かつての七大幹部の一柱としての残忍な戦闘本能が、ベルゼブブの身体を動かした。彼女は手のひらの重傷の激痛に顔を歪めながらも、殺意に満ちた双眸を血走らせ、無傷のままのもう片方の漆黒の爪を振りかぶると、背後の地面に倒れ伏しているメシアの心臓めがけて容赦なく突き刺した!
「そのままくたばれ、邪魔な小僧!」
まさにその一瞬——千鈞一髪の瀬戸際で、
『ドォォォン————!』
数本の太く巨大な、湛藍色のルーン文字の光を放つ魔神の触手が、何もない虚空の裂け目から荒々しく飛び出した! それはまるで堅固な鋼鉄の鎖の如く、ベルゼブブの身体と両腕を幾重にも激しく縛り上げ、文字通り宙空へとガチリと磔にしたのだ!
大きな岩に凭れてダラダラと鼻をほじっていたはずのリヴィアタンが、不機嫌そうに小さく鼻を鳴らした。
彼女の幽藍色の瞳からは、万物を圧倒し、すべてを見下す深海の帝王の凍てつく威圧感が放たれており、宙づりになっているベルゼブブを冷酷な視線で射抜いた。その声は氷のように冷たく、一言一言に殺気がこもっていた。
「本座がさっきから言ってるだろ……私の可愛い勇者様に指一本でも触れてみろ、この世の終わりの苦しみを味あわせてやるってね」
深海の主宰が放つ途方もなく強大な上位の力に全身を縛り上げられ、さらに手に入れた重傷の激痛が加わったことで、ベルゼブブは今日という日、この二人の狂気染みた守護者たちがいる限り、あの「極上の魂」を堪能する機会が完全に失われたことを悟った。
彼女は歯ぎしりしながら、一同の中心で庇われている小柄なお嬢様を憎々しげに睨みつけ、さらにリヴィアタンとオフィーリアを毒々しく一瞥した。その瞳には、病的で、狂熱的で、どこまでも執着に満ちた光がギラギラと揺らめいていた。
「おのれ……この邪魔者どもめ、覚えておきなさい!」
ベルゼブブは狂暴に暴れながら周囲の濃霧を力任せに引き裂き、その背中に一対の暗紫色の巨大な羽翼をバサリと展開させると、耳をつんざくような狂気の終末宣言を絶叫した。
「ディアブロ様……奴隷はいつの日か……必ずやあなた様の魂の、あのたまらなく甘美な味を、この口で直接味わい尽くして差し上げますからねぇ――っ!」
言い終わるやいなや、ベルゼブブは拘束していた触手を自らの肉体を引き裂くほどの強引さで振り払い、紫色の破魔の流光と化して大空の彼方へと突進し、うねる雲の切れ目の中へと瞬く間に姿を消していったのだった。




