願いを叶えるために
晴れた日の小鳥がさえずる心地のいい朝。窓から見える庭には桜が咲いている。まるで一つの命の誕生を祝福するように世界を淡いピンク色で彩っている。
そんな日に私は生まれた。到底人には扱える量ではない魔力を持って。そして両親の幸せだったはずの人生は唐突に灰色に染まった。彼女が生まれた瞬間に発された魔力に当てられ周囲にいた人々は意識を失った。
...人間というものは人知の及ばない存在にひどく恐れる。悪魔の生まれ変わりだという人間。結果、家族ごと村の辺境に追いやられた。
物心がついたころには両親の愛情を一身に受けて育った私は幸せというものを知った。毎朝両親は村へ仕事をしに出ていく。大きくなったらいつか一緒に街に行こうと言ってくれた。それまでは家の庭の柵を超えてはいけないと教わった。危険な獣がいるからだと。柵の内側は安全だからと。
幸せな日々は変わらず続いていった。齢を重ねるごとに私の力は強大さを増す一方だった。両親はただ「幸せに生き続けてほしい。それが唯一の願い」だと私に言い聞かせてくれた。
魔法は魔力を介して現実にイメージを投影して行使する。神の所業に等しいこの魔法というものは魔法陣や媒介を介さず行うには魔力消費が多すぎて大半の人間には「ちょっとした風を起こす」「簡単な物が焼ける程度の火を出す」「少し重たい荷物を浮かせて運ぶ」程度のことしかできないらしい。所謂「戦争」に大きな影響を与える規模の魔法を扱えるものは天才と呼ばれどこの村、国でも重宝される。
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「皆の衆!よく聞いてくれ!この村はついに帝国の庇護下に入れることが決まった!」
(歓声)
帝国の庇護下に入れるということは労働力を対価に安定した食料、インフラ整備、防衛するための騎士団の常駐化を得られるということ。村が今より発展し、生活水準が上がることが実質約束されるようなものだ。
「つまりあの得体のしれない娘は必要がなくなったということだ。わかるな?」
そういってナイフを父は握らされた。
「なに、一家皆葬ろうという話ではない。あの得体のしれないお前たちの娘を消してしまえば不安要素もなくなり皆も安心してこれから生きていけるというだけの話だ。な?」
「ッざけるな!今まで散々小夜に助けられておきながら用済みになったら消えろだと?そんな横暴が許されるわけないだろうが!」
生まれた瞬間周りの人間が気を失ったように、その大きな魔力の気配は危機に敏感な野生の獣の類には圧倒的な抑止力の役割を果たしていた。故に、そこに存在するだけで村の安全は守られている状態だったのだ。
「そもそもこの村にとどめておいたやっていることも私の恩情だということを忘れるな。やらないというなら一家もろとも消えてもらう。まずはお前たちだ」
武装した村人たちが両親を囲む。
「ごめんな。こんなことになって。結婚するとき必ずお前を幸せにするって、守り通すって誓ったのにな。」
「いいんですよ。短い人生でしたけど、あなたと小夜と過ごした人生は間違いなく絶頂期と呼べるほどの幸せな時間でした。一緒に生きてくれてありがとう。」
「俺も同じく人生の中で一番幸せだったよ。」
「あとは二人で祈りましょう。あの子が幸せにに来て言ってくれるように。無事逃げ切れるように。」
そうして頭と体は離れ離れになり。あたりは血で塗りつぶされた。
「これであとは娘だけだ。ここの片付け次第行くぞ」
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お父さん、お母さんはまだ帰ってこないのかな。いつもなら陽が落ちる前に帰ってくるのに。今まで遅くなることなんてなかったのに。
日は完全に落ち月と星がきらめく時間になった。月と星、あとは手に持っているろうそくだけが唯一の光。
...遅すぎる。何かあったに違いない。村まで様子を見に行こう。柵の外に出るなっていったでしょと怒られても、その時は素直に怒られよう。それ以上に心配なのだ。
家から村までは少し歩く。森の中に一つの光が漂っている。遠くのほうに大きな明かりが見える。きっとあそこが村だ。
村の入り口についた。道中不思議なことに動物の一匹にも出くわすことはなかった。
村に入っていく。一番明るいほうを目指して歩みを進める。きっとそこが村の真ん中だと信じて。そこまでいけば誰かに会えるだろう。きっと両親がどこにいるかを聞けるはずだ。初めての景色を目に焼き付けながらどんどん歩く。
...何かが焦げ付くような今まで嗅いだことのない不快な臭いが漂っている。人の声が聞こえ始める。
「きっとここを曲がれば人がいるのね」
足を速め角を曲がる。
鋼をまっとた人間10人近くが一人の男を囲って話している。
きっとあの人の中の誰かならだれか知ってるはずだわ。
「すみません。お父さんとお母さんを探しに来たんですけど...どなたか何か知ってる方いませんか?」
「お父さんとお母さん?そんなの知るわけないだ......。赤い目に黒い髪....お前村の外の家からここまで来たのか?」
「...?そうですけど...」
「そうかそうか!わざわざこっちから出向く必要がなくなるとは!お前の両親のことならよ~く知ってるよ。ほら」
男の指さす方向に視線を向ける。大きな焚火。村を大きく照らす大火。中央に刺さる二本の柱。見覚えのある布、模様。
心臓の鼓動が早くなる。
音が頭を埋め尽くす。
そこには見覚えのある人影。いやおおよそ人とは呼べない様相で括りつけられている。皮膚がただれ布と皮膚が一体化している。
呼吸が浅くなる。
視界も狭くなる。
眩暈がする。
そんなわけがない。
目の前の現実が受け入れられない。
きっと何かの間違いだ。
目に大火の景色が焼き付く
「あれが、お前の両親だよ。大丈夫。そう悲観するな。お前もすぐ同じ場所に連れてってやる」
男たちはそう言って笑っている。
金属のこすれる音がする
夜に少女の言葉にならない絶叫が鳴り響く。
憎い。憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いッ!
私たちが何をしたっていうんだ!誰にも迷惑かけずにただ静かに、幸せに生きていただけなのに...!
たったそれだけのことが許されないなら....
それなら
全員
殺してやる
殺意が脳を支配する。しかしながら全能感を感じる。何をどうしたらいいのか。自分には何ができるのか。この体に満ちる魔力の使い方。すべてが本能的にわかる。
ーー奴らを同じ目に
「-焦熱で焼き払え-」
魔術はイメージを現実に魔力を乗せ描き出して起こす現象だ。炎を生み出しすべてを焼き払う。村を劫火の海に沈めてやる!誰も逃げられないように炎の壁を!枷を!
全て....燃やし尽くせ....!
あぁ...あの焦げ付くような臭いって"これ"の臭いだったんだ
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「.......」
何時間こうしていたのだろうか。
いつもは自分たちの時間だといわんばかりに輝いている夜空の星たちも今日は一つも見えない。そのうえ、息苦しい程の暑苦しさが辺りを囲い込んでいる。村を覆いつくすように、彼岸花が咲き誇っている。
今朝までは人でにぎわっていたこの村も今となっては熱で空気がはじける音が響き渡るだけ。噴水を囲い揺れていた人は見る影もなく、代わりに赤い壁が揺れている。
どうしてこうなったのだろう。一人取り残された私はこれからどうやって生きていこう。不思議と悲しみはない。
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