マナの木からの仕事依頼-仕事人のプライドにかけてリィナを必ず守る!
―私があなたと二人きりになりたかったのは、コーイチのことを伝えたかったからだけではありません。これをあなたに渡したかったのです。
目を開き前を見るとそこには光り輝く剣が横になり浮いている。これは何かと聞くと
―森の秘宝、クリスタルソードです。この剣は実体のない者や魔法生物などしか斬れませんが、それ以外は強力な鈍器として使用可能です。
そう言われ手に取ってみた。長さ百ニ十センチほどで剣幅は二十センチほどある、水晶の剣身を持つ剣だが重さは木の枝くらいしかなく驚く。
見れば細部に渡り装飾が施されているが、刃の部分は確かに斬れるように研がれてはいない。
丁寧な仕事ぶりはもちろんのこと、こんな代物を作れる人がこの世界にいることに再度驚いた。
何しろクリスタルを見つけて剣に加工するなんて、鉄を加工するより何倍も大変な品物だ。
先ず丁度良い大きさの水晶を探すのが大変だろうし、それを折るなりしなければならない。
更にそこから剣に加工するために研磨機などを使い、削って整えるのだがこの世界にそんなものがあるとも思えなかった。
業物なんて簡単な言葉では片づけられないほど、このクリスタルソードは素晴らしい代物だと分かる。
剣腹を下に向け振り下ろしてみたところ、感じた重さに不釣り合いな大きな風を起こした。
鉱石としての硬度だけでなく、反比例する軽さを考えればとんでもない秘宝だ
これがあれば防獣フェンスや畑の柵の杭打ちも楽だろうな、と炎天下で延々と杭を打っていた夏を思い出し泣けてくる。
―感激してくれて嬉しいです! どうかその剣であの子を守ってあげてください。本来であれば私たちが正すことなのでしょうけど、人としての生を終えた者が今を生きる者たちに干渉しすぎるのは、善悪関係なく良くないことだと思い堪えております。
エリザベスの言葉から悔しさがにじみ出ていた。人としての生を終えたとか一度は人に戻ったと聞いたが、エリザベスはリィナたちと血縁関係があるのだろうか。
―誰に似たのか箱入り娘なのに頑固で正義感が強く、自分が決めたことであれば例え無謀だとしても、他人が止めたところで言うことを聞きません。イレイズと性格が逆なら良かったんですけどね……。
春の日差しのような温もりを感じる彼女の声を聞き、問う必要がないと感じ微笑みながら木を見て頷く。
リィナがこれから進むのは、生きて帰れる保証などない旅だ。本人もわかっているだろうが、エリザベスの言う通り目的を果たすまで止まることはないだろう。
誰もがそれを知っているからこそ、止めることも付いていくこともしなかったと今なら分かる。
俺には元の世界にもこの世界にも身よりはないので、死んだところで誰も悲しまない。
彼女の旅に同行するなら自分が一番相応しい、そう思った。
何よりリィナをこんなにも心配し愛している人からの仕事の依頼を、断ることなど仕事人としてのプライドが許さない。
剣の柄を握り横へ薙いだ後で
「エリザベス、君からの仕事の依頼を請け負うよ。必ず彼女を守り切ってみせる」
木の中にいるであろうエリザベスへ向け正式に宣言する。
―コーサクさん、あの子のことよろしくお願いいたします。あなたの旅と人生に幸運があるよう祈りを込めて、ペンダントを送らせて頂きますね。
突然強い光に包まれ目を閉じた瞬間、誰かが俺の背後に立ち首に何かを付けて去った。光も同時に収まり慌てて後ろを見るが誰もおらず、首には初めて見るペンダントがぶら下がっている。
指に本分くらいの金のプレートに、羽の生えた女性が珠を胸に抱えた形に彫られたペンダントだった。とても神秘的に見えるなと思っていると光始める。
何か起こったのかと身構えたが、手にしていたクリスタルソードが消えると同時に光も収まった。
―その剣は目立つので持ち歩くのは危険です。必要な時はあなたが呼んでください、剣よ来い! と。
たしかにエリザベスの言う通り、あの剣は目立つので鞘代わりのペンダントは助かる。改めて礼を言いながら木に向かい頭を下げた後で行ってきますと告げ、イレイズさんとリィナの元へ戻るため歩き出した。
―どうかご武運を。
エリザベスの言葉に手を挙げて答えながらその場を後にする。少し歩いたところで二人は待っていてくれ、お待たせしましたと言うとどうだったと聞かれた。
改めて二人に対し、エリザベスの声が聞こえていたのに黙っていたことを抗議したが、二人はそれはしょうがない事だと言ってくる。
何故かと聞いたところ、先ずエリザベスと会話が出来る者自体が限られており、今は自分とリィナだけだとイレイズさんは答えた。
「建国の祖である英雄王コーイチにより、一時はエルフの巫女が増えて木との交流も盛んだったが、今は皆信仰対象として身近には感じていても、その声は聞こえていない。ひょっとしたらコーサク殿も聞こえていないのではと思ったものでな」
「でもでもコーサクさんはやっぱりすごいです! エリザベス様とお話が出来たんですから!」
「リィナの言う通りだ。で、エリザベス様からは何を頼まれたんだい?」
そう言われ彼女との会話を伝えるとリィナはしょんぼりして肩を落とす。さすがのリィナもエリザベスには弱いのかと思いつつ、旅は止めておくかと聞くと顔を上げ首を横に振る。
「……エリザベス様にまでご心労をおかけしているとはね。国としてマナの木を大切にし弱き者を守り公平であるように、というのがコーイチ王の遺言でもあったのだが」
イレイズさんも領主と言う仕事が無ければ飛び出したいんだろう。
だが二人が出て行ってしまってはこの領地が危ないし、仇討ち自体も成功するかは分からない。ひょっとしたら国から追われる身になるかもしれないので、出来ればイレイズさんには色々考えて欲しいとは伝えて置いた。
「分かっているよコーサク殿。私も両親を殺されたことを一日だって忘れたことはない。必ず何らかの方法を考える」
力強く言うイレイズさんに対して頷き、旅にはいつ出るかと聞くとリィナは今からでもと言う。野宿の道具も非常食もなくて大丈夫かと聞いたところ、彼女は思考停止したのか目と口を開いたまま固まる。
「まぁ準備の方は私が指示を出しておくから、明日の朝改めて出立すると良い」
「わ、わかりました」
イレイズさんの指示を聞き、なんとか自分を取り戻しリィナは答えた。気持ちだけで先走るなんてまさに猪突猛進少女だなと言うと、イレイズさんはツボに入ったのか声をあげて笑う。
こうして俺がこの世界を知らないと言った言葉に対し、二人が自然と受け入れた理由が判明し、三人で町へ戻るために歩き始める。
明日はいよいよ本当の旅立ちの日だ。期待と不安を胸に抱きながら屋敷に戻り、準備を始めた。




