名前倒れの”不屈の国”を叩き直す! 少女を泣かせる奴は工期遅延より重罪だ!
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「そうか、やはり妙な言葉を……」
「お兄様は何か心当たりが……」
「そうだな……」
聞きなれない声が聞こえ何だろうと思い目を開けると、ハイクラスホテルの施工をした時に見たような天井が見える。
こんな内装の現場に行ったことがあったなと思い出し、今仕事中じゃなかったっけとなり冷や汗が出て、慌てて上半身を起こした。
「仕事中に寝ちゃったのか!?」
「コーサクさん、目を覚まされましたか?」
仕事中に寝たことはなかったので驚き声に出してしまった瞬間、昨日までは無かった少女の顔が視界に現れ俺の名を呼んでいる。
周りを見るとアンティーク調で高そうな調度品ばかりで、明らかに自分とは不釣り合いな場所にいるなと気づき、少し前までのことを一気に思い出した。
「良かった目を覚まして。コーサク殿、我々が分かるか?」
そう問われたので少女がリィナで、男の方がリィナの兄のイレイズさんだと答える。二人とも安心したのかほっと一息吐き微笑んだ。
リィナを初めて見た時よりも少し前を思い出そうとしても、ブラックアウトしたくらいしか分からない。
あの日は水分も取れずに納期に追われていたので、熱中症で倒れ夢を見ているだけかと思っていたが、五感の全てがこの世界を現実だと認識していた。
思い出せる範囲で言えば残してきた家族はいない。
厳密には探したが見つからないし独身でペットもおらず、丁度そろそろ夏休みを取ろうとして仕事は今のところだけだし、記憶にある最後の仕事場には申し訳ないが帰れたら謝罪しよう。
自分の中で気持ちも考えも整理を付けたが、二人は笑顔でこちらを見たままだった。
まだ起きたばかりで心配してくれているんだろうなと思い、安心させるためにも何か話そうと考える。
夢の世界かどうかは今のところ判然としないものの、二人はちゃんとした人間ぽいし悪い人ではなさそうなので、正直にこの世界のことを聞いてみることにした。
「申し訳ないんですがこの世界のことよく分からなくて」
言葉を聞いて二人は目を丸くして見合ってしまい、それを見て少しぼーっとしていた頭が一気に覚める。
仮にもしこの世界が現実だとすれば、今紛れ込んでしまった異物は俺の方であり、この世界なんて言葉を聞いた相手からすれば、コイツ可笑しいぞとなってもおかしくはない。
かなり軽率だったなと反省しつつ出方を窺っていたところ
「正直に話してくれて嬉しい。どうやら貴殿は嘘を付けない男のようだな」
「コーサクさんは嘘なんて吐きません! 失礼なことを言わないでくださいお兄様!」
イレイズさんは予想していたらしく、腰に手を当てて笑った。リィナは俺を擁護していたが、あいにく嘘を吐かないほど馬鹿正直ではないよと言うと、二人はそれが可笑しかったのか楽しそうに笑う。
「妹があなたに懐くのもわかる気がする。まぁそれは置いていくとして、コーサク殿がこの世界について分からないと答えたのに、我々がなぜ不思議に思わないか。それは貴殿の体調が回復したのちに、理由となったところへ案内しよう。今は何をおいてもゆっくり休んで欲しい」
あまりにも気になったのでもう自分は大丈夫です、と言って立ち上がろうとしたが、上半身を起こす以上のことが出来ず困惑する。
二人は後ろへ彼のことを頼むと告げ去っていき代わりに現れたのは、リィナの服の装飾をよりシンプルにした服を着た女性二人だった。
胸元には彼女と同じペンダントをぶら下げており、恐らくマナ教とかいうところのシスターなのだろう。何にしても今は一日も早く回復しイレイズさんの答えを知りたい。
休む時も真剣に全力で休むという西島親方の言葉に従い、全力で寝ることに努める。
「とはいえ限界はあるよなぁ」
二日も経つと今度は眠り疲れしてしまい、もう良いだろうと起き上がれるか試したところ、お付きの女性たちに引き留められた。
なんで止めるのか聞くも押し黙ったままこちらをベッドに押さえつける。ペットでもなければ人形でもないので、理由もなく強制されて黙っているわけにはいかない。
聞いても答えないのは、喋れないのか喋る気が無いのかどっちだと聞くと後者だと答えた。ならば強制される謂れもないので強引に起き上がることにする。
女性とはいえ二人掛かりは辛いかなと思ったものの、布団を利用した攻防を繰り返した結果、なんとかすり抜けて立ち上がることに成功した。
「お、お待ちになってください!」
外へ出ようとするも二人に腰にしがみつかれて阻止される。理由も言えないのに寝てろなんて従えるかと言い放つと、二人のうち一人が分かりました理由をお話ししますと言って話し始めた。
「両親の仇討ち?」
「そうです……リィナ様のご両親は魔王によって殺されたのです」
閉じ込めたいだけの適当な理由なら逃げ出そうとしたものの、リィナが理由でしかも仇討ちと聞けば、大人しく聞くしかないので二人を引きずりながらベッドへ戻る。
イレイズさんとリィナの兄妹は、ここ不屈の国の王族であり、現在の王は叔父にあたるらしい。
二人の父親である先代の王と王妃は視察に訪れていた魔族領で、親戚である魔族の王に暗殺されてしまったという。
親戚が何で暗殺なんてと言うも、これには建国した次の代から続く因縁があると言われた。長い歴史の中で積み重なった不満が、偶々運悪く二人の父親にぶつけられてしまったようだ。
「現在のコンド王は温和で私利私欲もない方ですが、争いを極端に嫌っておいでで、兄が殺されたにもかかわらずこれ以上争わないよう言うだけで、処罰もせず終わらせてしまいました」
一瞬冗談に聞こえたので冗談でしょと聞き返すも、二人は押し黙ってしまう。事故を起こした責任者を処罰することも移動させることもしなければ、同様の事故を起こすのは現場だけではないはずだ。
責任者とは最悪の場合に責任を取るのが仕事であり、責任を取るような事態にならないよう尽くすのが基本のはずである。
争いが嫌いだからと言って処分を怠れば、いずれ同様の事故が起きるだけでなく、誰もが皆軽んじ始め事故が多発し争いが巻き起こるのは、馬鹿な俺にすら先が読める展開だった。
不屈の国どころか相手によっては犯罪者にすら屈するなんて、国の名が泣くなとつい口を突いて出てしまう。
外の方でガタンという音がしたが気のせいだろうか。
「イレイズ様は領主という御立場故堪えられたのですが、リィナ様は納得が行かずにおひとりで旅立たれたのです。我々は後を追うことも許されず……」
侍女たちは何か言いたそうなのを一回のみ込んだ後、そう言って涙ぐんだのを見てちょっと引いた。いやそこは後を追って止めろよと突っ込みを入れる。
一度王の殺人を身内であれ許しては、この先も身内が納得いかなければ王が殺され、その上処罰されないのであればこの国は荒れるというも押し黙ってしまった。
彼女たちにこれ以上言ったところで意味がない気がしたので、改めて外へ出ると告げる。
「で、出来れば何らかの手立てが見つかるまで、あなた様にはここで大人しくして頂きたいのです!」
「お嬢様もあなたを捨ててはここからどこへもいかないようですし!」
力尽くで止めようとした理由を理解したが、生半可な気持ちで両親の仇討ちに一人で出る訳がない、そのうちまた一人で飛び出すから無意味だと全否定し扉を開けた。




