三十五話 おじさん、選抜戦に挑む㉝
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青年は胸を大きく貫かれた少女を抱きかかえ、泣きながら叫んだ。
「あぁ! クソ、クソ!!!! 誰か! 誰か! 助けてくれ! 愛歌が! 死んでしまう! 頼む! 誰か!」
【迷宮】内では、その悲痛な叫びは誰にも届かない。
【配信】用のカメラは壊され、誰にその姿を見てもらうことすら出来ない。
「誰か、誰か。俺を、俺達を助けてくれ」
今にも消えそうなか細い声を漏らした青年は手に抱えている少女の暖かみが消えて行くのを感じ取った。
「ダメだ」
動かない。
「ダメだ!」
聞こえない。
「行っちゃ、嫌だよ、愛歌」
その言葉、それだけは何故か聞こえた。
愛と呼ばれる物だろう、それに少女の魂が応えた、もう1つ、本来であれば眠りに着くはずの何かを呼び覚ます。
誰にも愛されず、死の間際まで、戦いに明け暮れ、最後に敗れた魂は、死の間際に使った禁術により、廻り巡って辿り着いた肉体が死に至ることで、それは覚醒を遂げる。
燃える様な閃光と共に溢れ出すのはドロリとした【魔力】。
「なん、だ?」
青年は先程まで感じていた悲しみの感情が一瞬にして、ひっくり返り、恐怖に支配された。
青年の目に映るのは少女の死体。
その身体から浮かび上がる2つの光。
青年は何故か、それが魂であると理解した。
理由は不明であるが、魂という物がこの世界に存在するのであれば、その様な形になるであろうと感じたから。
「青年、お前の願い叶えてやる」
何処から聞こえてきた声に理解が追いつかず、辺りを見渡すと次の瞬間、彼の足を巨大な怪物の腕が掴んでいた。
「う、うわぁぁぁ!!!?!」
力強く掴まれた足に圧が掛かり、青年の脳裏に死が過ぎる。
「ユ、ゥ、き、ィ」
バケモノの唸り声を上げ、次は青年の体を握りしめ、浮き上がらせた。
「う、ぐぅ、げっ」
「ユ、ゥ、き、ィ、ま、ダ、ァ、ヱだ」
バケモノが何かを喋るも青年はそれを聞ける様な意識はない。
落ち行く意識の中、彼らの前に1つの影が伸びた。
「やぁ、青年。それと我が同胞よ。何か良いことでもあったのかい?」
その声を聞くと同時、青年の意識は深い底に落ちて行った。
***
「マーラ!!!! 貴様は、我が! 殺す!!!!!」
マナカの【魔力】から切り替わり、そこに顕現したのは殲滅のアカシャ、彼女は6つの腕に焔を掻き集めるとそれらで弓と矢を形成し、空に目掛けて番う。
「殲滅の雷!!!!」
3つの矢が空高く放たれるとそれらは雷となり、マーラへと降り注ぐ。
「覇牙」
それらを前にして、マーラは普段は滅多に姿を露わにしない【波旬】を握りしめ、自らの【権能】を載せた一撃に雷をかき消した。
「ようやくお出ましか。まぁ、良い。残り2分。決着をつけるにゃ充分だ」
マーラはそういうとアカシャに向けて、腕を前にし、指をパチリと鳴らす。
その瞬間、再びアカシャの肉体を切り刻もうと不可視の斬撃が振り下ろされるも彼女の体に傷は着かず、怒りを振り撒きながら距離を詰めて来た。
(へぇ、【魔力】で全身を覆い、その更に下に自らの殲滅の【権能】によって、装甲を厚くしてるのか。小賢しいじゃないか)
そんなことを考えているといつの間にか、アカシャはマーラの目の前におり、拳を振るう。
殲滅のアカシャ、その【権能】は【魔力】を滅する光の操作であり、名を万里滅却と呼ぶ。
マーラの考え通り、今のアカシャは【魔力】の下に、更に【権能】の光を纏わすことで彼女の攻撃を受けても尚、傷をつけることが出来ない状態であった。
「死ね! マーラ!!!! 貴様は!!!! 我から全てを奪った!!!!」
怒りに身を任せているが、それでもその拳は鋭く、今のマーラであれど一度でも当たれば、大いに致命傷となる。
【魔力】を滅する光を常に纏っており、それによって攻撃も防御も意味を介さない。
相手を傷つける手段がないにも関わらず、マーラは笑った表情を崩さず、更に彼女を煽った。
「奪った? クックックッ!!!! 笑わせんなよ、アカシャ。奪われた奴が何を言おうが負け犬の遠吠えなんだよ」
6つの腕からの攻撃は時間が経てば経つほどに激しくなり、マーラの肉体を捉え始めた。
「ほざくな! 我の地位を奪った簒奪者如きが!!!!」
多腕の機能を一切害すことなく、相手を追い詰める格闘技術は、まさしく猛攻と呼ぶに相応しく、いつの間にか、マーラは逃げ場を無くしており、それを狙って一気に攻め切ろうと6つの腕を一斉に突きを放った。
「殲滅の剛腕!」
だが、そんな攻撃を、マーラは意にも介さず、アカシャの目の前に現れた。
「ナッ?!」
マーラは6つの腕から放たれた突きを避けることなく、寧ろそれら全てが放たれる前、一瞬の間を使って、距離を詰めて来た。
爪痕が幾つか着いているが、それでもマーラは和やかに微笑んだと思いきや、アカシャの頭を右手で掴んだ。
「覇爪」
ザシュン
その渇いた音が鳴り響くと同時、アカシャの頭がパックリと裂かれる。
「はっ? なっ、んで」
何が起きたのか理解できず、次に、思考が動き出した時にはアカシャの肉体は蹴り飛ばされていた。
勢いよく吹き飛ばし、結界の壁に打ち付けられたアカシャに対して、マーラは微笑んだ。
そして、自分の思想を、歪んだ感情を、嗤いながら声高々に理想を垂れ流す。
「お前さ、甘いんだわ。腐っても【魔王】なんだろう? 俺達は生殺与奪の権利を握る。それこそが【魔王】であり、理不尽たる象徴だ。それをなんだ? 俺から奪った? だ? 違うだろう。奪うのは当たり前だ。奪われたくないなら奪い返せよ。俺達はそう言う生き物で、そう言う生き方しか出来ないんだからよぉ」
【魔王】というと生き物の本質。
それをマーラは生きる物、全ての生殺与奪の権利を握ると豪語する。
2人の【第六天魔王】は互いに戦を愛しながら、その根底は全く別。
アカシャは戦を恋した。
マーラは戦を愛した。
言葉は同じであるが意味は違う。
アカシャは愛を知らないが故に、戦いに身を焦がした。
マーラは愛を知っても尚、戦いに興じた。
そんな2人が互いを理解し合えることなどはなく、言葉で通ずるなどもない。
「黙、れ! お前は奪うことしか出来ない悪魔だろう! お前が【魔王】だと? 笑わせるな!」
壁に打ち付けられながらも既に意識を取り戻したのか、アカシャは立ち上がり、その6つの腕を使い、一箇所に【魔力】を集め始める。
「悪魔、ね。否定しねえよ。俺は心が広いからな。悪魔だ、なんだと勝手に言え。だけどな、その悪魔に殺されて、地位を奪われた時点で、【魔王】でもなんでもねえだろ。まぁ、良い。どうせ、俺とお前は分かり合えない。御託を並べんのも、熱いディスカッションもこれまでだ。チンタラやるつもりは初めからねえからなぁ!!!!」
アカシャが腕に【魔力】を集中させるとそれに対抗する様にマーラは片腕に【魔力】を集め、互いに四角い形の筺を生み出した。
「開! 【天】!!!!」
「開、【◾️】」
譲れぬ物など何もなく、相手を否定し合う以外に答えがない。
2人の【魔王】は開き、曝け出す。
己の【権能】の全て、胎の中の根底を。
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