三十四話 おじさん、選抜戦に挑む㉜
「【魔王】討伐選抜戦最終試合! 最初のポイントは李 刃選手だ!!!! 所属パーティに2ポイント! 個人に5ポイント!!!! って、え?! いや!? え?! いっ、一体、何が?!」
カメラが映し出していたのはアルディーニが消し飛ばされ、刃の勝利が確定した映像。
その直後、刃の肉体に幾つもの穴が空いており、崩れる寸前の彼の姿が視聴者達に衝撃を与えた。
「Blabo。なんと言う執念。アルディーニ選手の必死の抵抗が実を結んだらしい」
誰もが驚愕する中、歌島徳茂はその画面から目を離さなかった。
アルディーニの魔弾が打ち消される直前、それらが自らの分かれ刃の肉体を貫くところを。
アルディーニが放った3つの魔弾を合わせた合成弾、電撃弾の速度、追尾弾の弾道操作、そして、砲撃に超火力。
電磁砲とアルディーニが名付けた魔弾は刃の強靭なる肉体を穿った。
身体の至る所に穴が空き、【魔力】が漏れ出る刃はそれを見て、自分がこれ以上、この戦いに参加できないことを察する。
(那須野・アルディーニ、君のことは忘れないよ。必ずまた、何処かで相見えよう! でなければ、この貸し、貸せないからね!)
刃がそう心の中で叫ぶと同時に、満足が行ったのか、自らの目を閉じる。
それと同時に、擬似身体が崩壊し、李 刃は舞台から去った。
怒涛の勢いで唖然としながらも、カナは自らの責務を全うするために、大声を張り上げた。
「まさかまさかの、相打ち! 李 刃選手を執念で撃ち倒し、那須野・アルディーニ選手、その手でポイントを勝ち取った!!!!! 所属パーティに2ポイント! 個人に5ポイント!!!!」
ただ、最終戦は彼らの決着の余韻に浸らせない。
アルディーニと刃の戦いが終わる迄に3分。
そして、それはマーラがマナカを結界内に閉じ込めた時間はほぼ同時。
「ここらから、出せ!」
マナカは口に【魔力】を溜め、それをマーラ目掛けて解き放った。
「落ち着けよ」
一方で、マーラは一切動じることなく、何の素振りもないまま、その光線を真っ二つにした。
「何だぁ? その姿は」
放たれた【魔力】の光線、それによって上がっていた煙が徐々に明ける。
マナカの視線の先にいたのは肋屋カーマ。
だが、そこに居るのは彼女とは全く別の姿をした何か。
「ほほう? 俺の筺の中だからか? 本来の姿に戻ってるらしいな」
そこに立つのは黒髪をツインハーフに結んだ小柄で、あどけない顔立ちの少女に在らず。
赤と黒の和と洋の両者を交えた特徴的なドレスに身を包みながら、胸元を強調する様に開けており、真っ直ぐと伸び切った黒い髪に、彫りが深く整った顔からは真紅の瞳が圧倒的な威圧感を放つ。
背丈は比べ物にならないほどに高くなっており、凡そ170後半ほどで、他者を平然と見下ろすためにか、地に足を着けずに浮いている。
真紅の眼は全ての生物に対して、自分以外の存在に向けるのは平等に侮蔑する。それは正しく敵対した、レンジだけが心に刻んで、忘れられない【魔王】の姿。
【第六天魔王】、空絶のマーラ、その本来の姿であった。
「お前は誰だ?」
そして、そんなマーラを見て、マナカは初めて、その存在に畏怖を抱いた。
恐怖、生物が最も危機感を抱く感情であり、マナカは今、感じたこともない焦燥感に駆られる。
生物として、全く別の次元に立ち、遥か遠くに生きる何かに畏敬の念すら抱きそうになりながらも、何故か、その姿に見覚えがあった。
「この姿、見ても尚、俺のことを思い出さないか。まぁ、いい。それなら叩き起こしてやるよ。この俺様がな」
マーラはそう言うと指をパチリと鳴らすポーズを取る。
マナカはそれに対して、彼女が何かをする前に、跡形もなく壊してしまおうと【魔力】を宿しながら拳を振り上げた。
パチン
マーラの指から音がした。
「は」
軽く鳴り響いたその音がマナカの耳に届いた瞬間、彼女の体は突如として、8枚におろされた。
8つの刻まれた肉体が、忘れようと努めた記憶が、否が応でも浮き彫りに、無理矢理にと呼び起こす。
「ぁ?」
マナカに何かをさせることを一切赦さず、【魔王】の御前に立つことすらも不敬であると、マーラはそう決めつけた。
「クックッ、あはは!!!!」
マナカは自分が何が起きたのか理解出来ず、刻まれた肉体を【魔力】で繋ぎ止め、マーラへと口より、光線を放つ。
「オイオイ、誰が何の赦しを持って、俺の前でそんな無礼を許可したと?」
マナカの【魔力】の光に対して、マーラは満面の笑みを浮かべ、それに向けて、手刀を振り下ろした。
音もなく、マナカが反応する間もなく、彼女の肉体、否、それどころか、【魔力】の光線ごと空間を切り裂く一撃を見せ、縦に真っ二つになった。
(な、にが起きてる?! さっきから、何も、何も分からない!? 刻まれてる理由も)
思考が追いつけない程に一方的に刻まれるマナカ、そんな彼女の目に映るのは圧倒的な理不尽を振り撒く悪魔の姿。
不可視、不可避、気付く間も、刻まれる。
それを愉しげに、愉快に【魔王】は嘲り、嗤う。
「ほれ、頑張れ頑張れ。足掻いて、もがいて苦しんで。俺に挑んだことを後悔するほどに立って、戦え」
【第六天魔王】空絶のマーラ、その【権能】の名は◾️◾️◾️◾️。
空を手繰る異能。
多くの人間、魔物、【魔族】、そして、【魔王】すらも屠った最強の【権能】である。
(分からない! 私はあんな奴を知らない! それなのに、何故か、何処かに記憶がある! 必死に忘れようとした何か。全てを投げ捨てでも、忘れたいのに、離れない。離して、くれない)
マナカの魂、それに紐付いている【第六天魔王】殲滅のアカシャ。
魂にすら刻まれ込まれた死の記憶と共に、その形がクッキリと、ハッキリと輪郭を帯びて行く。
「違う、私は、マナカ」
否。
貴様はマナカに在らず。
私は。
否。
貸せ、我が肉体を。
嫌、返せ!
我が肉体を!
我は、我こそは…
「我は」
マナカの【魔力】の塊で作られた肉体が変貌を遂げる。
バケモノと呼ぶに相応しい身体から、人の形となり、その背には6つの腕が伸び、全身から焦げた皮膚が晒された。
腕の数だけガントレットを身につけ、そこからは鋭い爪が伸びており、真っ白な髪の毛をボサボサと伸ばしたマナカとは全く別の何かがマーラの結界内に姿を現した。
視線の先で、見つめるのはマーラのみ。
それ以外に興味は無く、それ以外はどうでも良い。
今、ひたすらに憤怒と怨讐を向けるのはたった1体の宿敵。
「貴様は、貴様はァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」
蒼の眼をマーラに向け、咆哮と共に周囲から焔が立つ。
「ようやくお出ましか。我が同胞、我が獲物。さぁ、挨拶は要らないな。俺とお前にあるのは狩るか、狩られるかのどちらかだ。始めよう、これからが本番。【魔王】同士の殺し合いだ!」
結界内崩壊まで、残り2分。
マーラによって起こされた【第六天魔王】、殲滅のアカシャ、彼女との決戦のゴングが鳴り響いた。
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