三十三話 おじさん、選抜戦に挑む㉛
その男、たしかに英雄の素質を持っていた。
己は英雄ではないと言い張るが、出会った皆が彼に向けてこう言った。
化け物だと。
その才能を周囲は恐れ、自分から遠ざかり、近づかなくなっていく中、1人だけ自分に声をかけてくれた。
「オイ、坊主。お前、私の弟子になれ。私がお前を怪物から英雄にしてやる」
ノア・ハルモニア・レオンハート、彼女に差し伸べられた手を掴んだ結果、今、那須野・アルディーニはここに居る。
ここに居て、その存在を世界に知らしめる。
「即興開始」
アルディーニの【ユニークスキル】、魔弾の射手は魔弾同士を組み合わせることが出来る。
それは【合成】して生み出した魔弾でも可能。
そして、それが那須野・アルディーニを唯一無二へと昇華させた。
追尾弾 と電撃弾、それらを一気に集め合わせることで見せつける。
電撃弾と追尾弾を交えることで生み出されのは、高速かつ、複雑怪奇した軌道の魔弾を生み出し、奏でられるのは死の演目。
「二重奏、電撃弾× 追尾弾」
その魔弾に名をつけるならばそう、電撃追尾弾。
アルディーニは心の中でそう決め、属性系の【スキル】は組み合わせず、ただ、魔弾同士を掛け合わせて放つ。
だが、それは刃の目前に一瞬にして、現れた。
(なんだこの速度?! ハヤいな! ふふ! 防御! 間に合うか!)
刃の視点からは追うことの出来ない速さで駆ける電撃追尾弾 。
それに対して、彼は自身の目に背中の光の1つを費やし、龍真鉄棍にて、防御を試みた。
氣と呼んだ【魔力】によって引き上げられた視力は電撃追尾弾 をも捉え、龍真鉄棍を振り回しながら撃ち落とす。
(嘘だろ?! あの量の魔弾を前にして、一切動じず、なんなら防がれてる?! そんな想定外、ありかよ! 李 刃やっぱり、アンタもまた英雄の素質を持つ人間だ)
刃はその場に留まっていると蜂の巣にされると理解し、電撃追尾弾 を撃ち落としながら家の中に入り込んではその壁を破壊して、アルディーニの視界に映らない様に移動し始めた。
そんな刃をアルディーニは【魔力感知】を使い、追跡する。
英雄となる。
自らそう口にしたが、それに敵対する者もまた、その素質を持つ傑物。
故に、アルディーニは追撃を止めず、自身の【魔力】が尽きる迄、電撃追尾弾を放つ手を緩めようとしないと心より決めていた。
だが、そんな中、刃はアルディーニの予想を簡単に超えて来た。
「龍真鉄棍、豪華木燐!」
アルディーニの放つ魔弾からほんの一瞬、距離を取れた瞬間を狙って、龍真鉄棍の棒先に残っていた纏わせていた【魔力】の全てを出し切り、地面から大木をアルディーニへと襲い掛からせる。
幾つもの木がアルディーニ目掛けて寄ってくると彼はそれを電撃追尾弾 によって、木っ端微塵に吹き飛ばした。
それと同時、刃から目を離した瞬間、アルディーニの目の前には、【魔力】の塊が迫っていた。
「な」
刃の背中に残っていた光は3つ。
その内の1つを拳に纏わせ、アルディーニの追撃が止んだタイミングを狙って放たれるのは【魔力】を圧縮した破壊の一撃。
「刃剛、一騎闘万」
意識の外から放たれた反撃は、アルディーニの無防備に晒された肉体に直撃した。
それはアルディーニの身体と辺りにあった家の壁などを全てを壊し、吹き飛ばす。
「アルディーニ、君のこと舐めてたよ。それは僕からの手向けの一撃だ」
刃はそう言うとアルディーニから背を向け、レンジ達の場所へ戻ろうとする。
「まだ、だ!」
大量の瓦礫の上から刃の背中に向かって、突如として魔弾が生成され、それら全てが彼に放たれた。
「へぇ、まだ戦えるんだ」
だが、刃へと放たれた魔弾は全て、ただの弾丸であり、彼はそれを龍真鉄棍で簡単に弾き落とす。
「僕の一騎闘万を受けて、生きてるのは賞賛してあげる。だけど、これ以上、僕に挑むな。彼らに捧げるための【魔力】が勿体無いだろう」
刃の視線の先、そこには破壊した瓦礫の中から、現れたアルディーニが立っており、左上半身をガッツリと持っていかれ、そこから【魔力】が溢れ出ていた。
(魔弾の射手のおかげで、単純に【魔力】操作の精度が上がってたおかげで、全身吹き飛ばされずに済んだ。だけど、俺も、限界だ。【魔力】の球は、残り2つ。これからどうやってもこの状況をひっくり返す術なんて)
奇襲も失敗し、【魔力】を止める技も、能力もない。
「すまん、レンジさん、カーマ」
これ以上の足止めは出来ない、そう考えると徐々に意識が朦朧とし、擬似身体が崩れ去る。
「諦めるな、アルディーニ。お前の悪い癖さ。最後までくらいつけ。私の弟子だろう? 私が誇れるくらい諦めの悪いやつであれ」
それは師であるノアの言葉。
限界で、もう数秒も保たないと肉体が理解しているのに彼は何故か、倒れなかった。
「負ける。そうだ、負けても良い。だけど、俺はアンタを止めなきゃならないんだ」
アルディーニは既に崩れる肉体の【魔力】全てを注ぎ込み、上空に数多の魔弾を生成した。
「へぇ、諦めが悪いんだ。嫌いじゃないけど、もうこれ以上、後ろの氣は使わないよ。さっきの速い弾ももう眼が慣れたからね。何を仕掛けて来ようが全部、撃ち落としてあげる」
刃はまだ、アルディーニがこの期に及んで自分を止めようとしてくる意志に感動しており、それに敬意を表して、彼の全てを打ち壊してみせるために煽った。
「ああ、これが最後だ。受け取ってくれよ、刃さん」
アルディーニはそう言うと前にしていた残った腕を振り下ろし、自身の上空に作り出した魔弾を一斉に射出する。
刃はそれらを再び撃ち落とし、今度こそ終わりにしようとアルディーニへと距離を詰めた。
「終わりだ、那須野・アルディーニ。君との戦い、楽しめたよ」
アルディーニの顔に拳を振り抜こうとする直前、刃はとある違和感を感じ取る。
(ただ、魔弾を撃つだけの器か? アルディーニは? 何か、企んでるんじゃないのか?)
その刃の予想は的中する。
目の前に現れた彼に向けて、アルディーニは残った腕を前にして、指鉄砲を構えた。
「手向けに一杯、喰らってけ」
指先に集めたのは3つの魔弾。
アルディーニは刃の真面目さを信じた。
最後に自らの手で自分にトドメを刺しに来てくれることを。
「三重奏、電撃弾× 追尾弾×砲弾」
魔弾の射手は魔弾同士を組み合わせることが出来る。
そして、その魔弾の種類に上限はない。
3つの魔弾が1つとなり、生み出されるのは無窮の一閃。
刃とアルディーニの今の近距離では、回避は不可能であり、彼の体を一瞬にして、貫く。
筈であった。
「あゝ! ワクワクさせてくれるねぇ! 良いだろう! 君もまた! 僕の馳走だ! 刃剛、一騎闘万!!!!」
そう、李 刃、彼でなければ。
持ち前の勘の良さと戦闘感覚を活かし切り、アルディーニの企みをなんとなく察した時点で拳に背中の光を纏わせ、刃もまた、破壊の一撃で応対する。
威力だけで言えば、アルディーニの魔弾に勝機はない。
正面から打つかり合った途端、アルディーニの魔弾は押され始め、徐々に彼の目の前に再び刃の拳が迫った。
「この勝負、アンタの勝ちだぜ、刃さん。だけどな、引き分けくらい迄は持って行く。これは団体戦! 俺は試合でアンタに」
しかし、アルディーニの叫び声は刃に届くことなく、無情に消し飛ばされ、彼の拳が最後の魔弾を打ち消した。
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