三十二話 おじさん、選抜戦に挑む㉚
「マナカ、マナカ!!!!」
勇剣は自身がマナカと分断されたこと、そして、マーラが何かを仕掛けたことに気付き、大きな声で叫んだ。
マーラが生み出した結界のようなもの、それはマナカと彼女を包み込み、外からは見れない様に黒い幕のようなもので覆われている。
勇剣が取り乱している中、そんな彼に向けて、レンジは容赦無く刃を向けた。
「無明一刀流、流!」
逆手の抜刀術で容赦無く切り掛かると勇剣はそんなレンジを直ぐにでも退けようと口を開く。
「そこを、退け!」
「嫌だ。僕は君と正々堂々戦いたいからね」
「何が、正々堂々だ! そんな物、どうでも良い!」
勇剣はそう言うと自身の影に手を置き、そこから一振りの刀を取り出した。
(マナカの影からしか【魔具】は取り出せないと思ってたけど、違うのか?!)
レンジのその読みは間違っていない。
勇剣の【魔具】は、全てマナカの中に仕舞われており、取り出すには彼女の力が必要である。
ただ、それは少し前の勇剣であればの話。
マーラによって分断されたものの数十秒、その間に、勇剣の元より兼ね備えていた潜在能力が覚醒する。
マナカと繋がることで割かれていた才能という資源が、30秒にも満たない間であるにも関わらず、溢れ出し、不可能を可能とした。
「滅しろ、殲滅大君」
その手に握られたのは【魔力】を滅する【権能】を注ぎ込まれた白い刃を備えた魔剣、殲滅大君。
勇剣がマナカを救い出さんとするために取り出した魔剣は以前とはまた、違う使い方でその猛威を振るう。
今、最も敵視するのはレンジではなく、マナカを閉じ込めたマーラの結界。
勇剣は剣を向け、その刃に【魔力】を一気に注ぎ込んだ。
そして、ものの数秒で準備を終えたのか、勇剣は相手を迎え撃つのではなく、相手を屠るために刃に込めた【魔力】を解き放つ。
「殲滅の新星」
アカシャの【権能】を使いこなすことで放たれるのは凡ゆる【魔力】を消し去る殲滅の輝き。
レンジには目もくれず、その光をマーラを生み出した結界目掛けて、振り下ろした。
「無明一刀流、 火之迦具土神!」
一方で、レンジはそれを拒むために、光と結界の間に入り込み、己が抜刀術を見せつける。
鞘を捻り、黒雷より、蒼炎へと変え、鞘より、溢れんばかりの炎を黒き刃に纏わせた。
【魔力】を滅する光に対するは、【魔力】を燃やす蒼炎。
蒼き焔が燃え上がり、互いの異能が打ち消し合う。
(頼むぞ、マーラ。お前のやることに手を貸すなんて、なりたくないんだけど。自分なら、マナカと勇剣を救えるって言い切ったんだ。ちゃんと、役割をこなせよ!)
勇剣とマナカの接続が切れるまで、残り5分。
譲れない物を互いに背負い、レンジと勇剣は火花を散らす。
***
マーラがマナカを結界に包み込む、2分前。
刃がアルディーニとの戦闘を開始した直後。
「【合成】、弾丸×貫通弾× 雷魔法IV」
電撃弾と呼ばれる高速の魔弾、そこに雷の【スキル】を混ぜることで更なる加速した物をアルディーニは一気に数十個生み出し、刃へと放った。
(口だけ、ではないね。僕を止めるためにこれまで見せて来なかった技術を存分に使って見せて来てくれる)
アルディーニは間違いなく英雄の原石であり、魔弾の扱いに関してはS級【冒険者】すら凌ぐ力を持っている。
だが、それで止まる様な李 刃ではない。
曲がることを知らずに放たれた電撃弾に対して、刃はそれら全てを目で追いながら龍真鉄棍で簡単に叩き落とした。
「はは、マジかよ」
最も簡単に魔弾を撃ち落とす、その光景を目の当たりにすると、普段、冷静な流石のアルディーニも冷や汗をかくも直ぐに次の一手を打つ。
「【合成】、追尾弾 × 鉄魔法IV」
弾丸と曲芸弾を【合成】し、生み出した追尾弾。
電撃弾とは違い軌道を読ませまいと四方八方から刃を覆い囲うように放つ。
鉄が軌道を描きながら、それら全てが魔弾であり、触れれば最後、相手を貫く威力を持つ。
筈であった。
刃はそれらを龍真鉄棍の形を三節棍に変形させ、自身の背中にある光を1つ、棒先に纏わせた。
「龍真鉄棍、豪華水宴」
棒先に集めた【魔力】の水を圧縮し、刃の様に纏わせるとそれらを振り回しながら、鉄を切断し、追尾弾 の攻撃全てを無へと返した。
そして、刃は首をコキコキと鳴らし、アルディーニへと喋りかけた。
「君さー、たしかに僕を楽しませる実力はあるよ。でもさー、今、僕は熱に浮かされてるんだよ。レンジに、勇剣、目の前に最高の晩餐が用意されてるのにおあずけ。それはないだろう」
刃の目にはレンジと勇剣しか映っておらず、アルディーニという存在は眼中になかった。
「そうだな。本当だったら、アンタをあそこに招いて戦わせたい。俺は英雄なり得る人間を見届けたいし、アンタもその1人だ。だけどな、レンジとカーマの2人には策があって、それのためにはアンタがいたら実行出来ないらしいんだよ」
レンジとカーマの2人が言い切った、蘆原勇剣と真の意味で打つかり合いたいという言葉。
今の勇剣ではなく、英雄としての覚醒を遂げた彼が見れる。
そうとなれば自分が目指した英雄が飽和し、【冒険者】が伸び伸びと過ごせる世界に大きな一歩になと考え、その案に了承した。
アルディーニがレンジ達と組んだのは英雄を掘り起こすのに最も適しているのが彼らであると思ったから。
その手を利用しない筈はなく、彼らもまた、アルディーニという【冒険者】を取り入れない理由がない。
それら全てを踏まえて、刃の言い分を全て飲み込み、理解した上で、アルディーニは再び両手に魔弾を生み出し、構えた。
「アンタの相手は俺だ。師匠、俺は今からアンタの目指した者になる。李 刃、今からが本番。これから見せるのは俺の覚悟であり、英雄としての第一歩。舐めてたら、土手っ腹に風穴空けんぞ」
アルディーニはそう言うと先ほどよりも大量の魔弾を生み出すと両手を前にし、声を上げた。
「【ユニークスキル】、魔弾の射手、開演」
アルディーニの覚悟と刃に向けた敬意の現し。
魔弾の射手、魔弾に全てを費やした【冒険者】が奏でる驚天動地の演奏会。
いざ、開演の時。
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