三十一話 おじさん、選抜戦に挑む㉙
マーラとレンジ、勇剣とマナカ、四者共に相見える。
「お兄ちゃん! 上げてくぞ!」
「言われなくても」
そう言うとレンジとマーラが仕掛けた。
2人同時に走り出しすと左右に交差しながら、相手を翻弄しようとする。
「行くよ、マナカ」
「はは! 潰すぅ!」
そんなレンジ達に対して、勇剣とマナカは短い言葉だけを交え、互いの役割を瞬時に決めて、対応した。
レンジがマナカの首と断とうと【夜叉】をした瞬間、突如として、レンジとマーラの位置が入れ替わった。
(急に僕とマーラの位置が入れ替わった。これは松風の仕業か)
松風隼人は彼らの試合を家の中、最も遠い場所から観察しており、勇剣に言われたことを徹底した。
頼まれたことは1つだけ。
それは自分とレンジを必ず戦わせて、マナカを傷つけさせない様にして欲しいと言うもの。
勇剣の手には普段の刀と先程のハンマーではなく、身幅が少し太めの得物、禍罪を握りしめており、その2つを力一杯、レンジへとぶつけた。
鞘から得物を抜く前に、レンジへと【魔力】を載せた一撃を打つけ、彼をマナカとマーラから遠ざけようとする。
防御を取れば、致命傷にはならず、ただ、自分達から遠ざけるという一点に特化させた大振り。
それを受けたレンジは、確かに勇剣の思惑通りに一瞬、彼らから遠ざけられた。
「マーラだけを1人にして叩くつもりだね。だけど、そうは行かないよ」
吹き飛ばされながらも体勢を立て直し、家の壁にぶつかる直前、彼は新しくセットした【スキル】を使う。
「【合成】、鉄魔法IV× 防壁IV」
レンジの言葉と指示に従い、鉄製の盾が家の壁に生えるや否や、彼はその上の部分を蹴り上げ、吹き飛ばされた方向へと疾走する。
鉄の盾を幾つも生やし、大気中にある【魔力】を蹴り上げながら加速して行くと、勇剣達の元に一瞬にして、戻って来た。
「無明一刀流、飛龍・慈雨」
そして、直さま、空から蒼炎纏った斬撃の雨を勇剣とマナカにお見舞いし、マーラの横に着地した。
「戻ってくんの遅くねえか? お兄ちゃん」
「うるさいな。集中しろ、カーマ」
軽口を叩きながらも視線は一切逸らさずに、レンジとマーラは勇剣達の次の一手を警戒する。
残り7分。
勇剣とマナカの接続が切れるまでの限界が迫る中、彼らが出した答えは。
「マナカ、吹き飛ばして」
勇剣の言葉に呼応して、マナカはその口に【魔力】をかき集めると次の瞬間、光の柱がレンジ達目掛けて放たれる。
「カーマ! 避けろ!」
「言われんでも!」
レンジとマーラは左右に分かれて、それを避けるもすぐに勇剣が距離を詰め、再び1対1の状況を作り出して来た。
レンジに対して、勇剣は真っ向から叩き潰そうとマナカから受け取っていた苦無の様な【魔具】を投げ付ける。
それらを軽く弾き落とし、レンジが【夜叉】を構えたタイミング、それを狙った様に勇剣は自らの【魔力】を宿した刀を打つけ、技の発動を阻止する。
レンジを防戦一方に追い込みながらも勇剣は攻める手を一切緩めない。
「繋げ、伍亡星」
投げ付けていた苦無の【魔具】、伍亡星。
5つの苦無の線上に刃を築き、それらが一瞬にして相手を襲う。
線が刃となり、レンジを刻もうとするが彼はそれに何となく気付くと鞘を捻り、【夜叉】を抜いた。
「無明一刀流、轟雷」
抜刀と共に幾つもの雷撃が辺りを駆け巡り、作り出した刃を破壊するとレンジと勇剣は互いに睨み合いながら、一気に距離を詰め、得物を重ねる。
その一方、マナカとの距離を詰めたマーラはその手に握る【我射髑髏】を振り回し、彼女の腕に一撃を入れた。
「久しいなぁ! アカシャ!」
マーラの言葉に対して、マナカは何を言われたのかサッパリ分からず、苛立ちながら応えた。
「この前も、言ってたなぁ! それ!」
マナカは自身の巨腕を振り回し、飛び回る羽虫を叩き潰そうとする。だが、マーラはそれを軽やかに避け、煽る様に再び口を開く。
「何だ? お前。自分が何者なのか気付いてないのか?」
「私は~! 勇剣の幼馴染で~! 勇剣の恋人ぉ~! ただ、それだけだぁ!」
マーラの言葉がいちいち癪に触る様な物言いばかりをするからか、マナカは無尽蔵に湧き出る【魔力】を両腕と翼に纏わせ、彼女を轢き潰そうとする。
「狂える陽光!」
マナカは【魔力】の塊という器に、【魔王】アカシャと砂上愛華の魂が混ざり合った物が入った存在。
故に、その【魔力】は勇剣とは別の外付けの何かであり、彼とは別の術式大系を備えている。
無尽蔵の【魔力】によって生まれた光、それをマーラだけではなく、レンジ、いや、その場にいる全員に向けて、解き放つ。
短い光線が機関銃の様に乱れ撃たれ、家や壁を吹き飛ばす。その結果、煙と砂埃が舞い、全員の視界が悪くなった。
「何処だ! 肋屋カーマ!!!!」
マナカは依然として怒りが収まらず、叫び声を上げるとその時、彼女の体が鉄の鎖で拘束された。
「【合成】、鉄魔法IV× 鎖IV」
煙の中、マーラだけは【魔力】を感知しており、一歩二歩とマナカに近付くと彼女の前に現れ、笑みを溢す。
その微笑みには様々な意図と含みが含まれているが、決して良い物でないことだけは確か。
「アカシャ、お前が思い出せないなら、俺が掘り起こしてやる。お前という【魔王】の魂、その根本を」
煙は未だにレンジと勇剣の視界を遮る。
それは彼らに、いや、カメラと視聴者に、自分の本当の姿を曝け出させないためにマーラが操っており、マナカだけが自分の姿を見ていい様に孤立させた。
「この世界じゃ、ポンポン力を出すと疑われるらしいからな。この世界に則って、こう言うんだっけな」
マーラの手には筺があった。
四角い立方体、【魔力】によって構成された彼女が【魔王】と呼ばれる所以を形にした物。
それを詠唱を口ずさみながら無邪気に、邪悪に地面へと落とす。
かつて、その【魔王】は殆どの力を失っていた。
己が肉体をバラされ、それを頼りに他の【魔王】が顕現するための楔として扱われた結果、少女の体に残ったのは僅かな【魔力】と不自由となった権能だけ。
だが、第五、第四の【魔王】から奪い返した肉体と共に全盛の3分の1の力を取り戻した。
「【ユニークスキル】、天衣無法、開」
【第六天魔王】の【権能】は2つの肉体と共に主人の元へと回帰していた。
マーラを中心として、マナカの周りを黒い球体が包み込む。
これより始まる3分間。
マーラが、マナカを誘うのは【第六天魔王】の心象風景。
かつて、【魔王】を殺戮し、人類の4分の1を殺したとされ、地獄の絶対王政である。
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