三十話 おじさん、選抜戦に挑む㉘
刃の吹き飛ばされた先、その家の屋根の上空、そこに勇剣は浮上していた。
そして、【魔力】の塊が、少女の幼き姿を、複数の漆黒の翼を幾つも重ね合わせた肉体と狼のような鋭い牙と口を兼ね備えた化物としか形容し得ない何かへと変貌を遂げさせ、主人はその言葉を呟く。
「【ユニークスキル】、指輪が2人を繋ぐ迄、宣誓」
【ユニークスキル】の起動と同時、左手の薬指に指輪が嵌められると勇剣は真下にいる刃に向けて、マナカの体が取り出した【魔具】によって攻撃を行った。
「吹き飛ばせ、破流」
手に握られていたのはハンマーの形状をした【魔具】であり、それを振り下ろした瞬間、刃のいる家の上に巨大な手の様なモノが浮かび上がり、それが勢いよく落とされた。
刃はそれを避けるために、家から外に出るや否や、その瞬間を狙い、レンジが彼に切り掛かる。
「無明一刀流、流」
背後には勇剣、前にはレンジ。
強者に挟まれ刃は絶体絶命の状況、その中ですら愉しみを見出していた。
「刃剛、天下無双!」
三節棍となっていた龍真鉄棍を一瞬にして、一本にするとその棒先に【魔力】を込めて、打つける。
レンジの【魔力】と刃の【魔力】、互いに相殺し合った。
得物はぶつかり合うことなく、衝撃波のみで、周囲の建物のガラスにヒビを入れると刃は嬉しそうに声を上げた。
「大いに結構! 皆が皆、全員強者! 遅れは取らない! 今、僕もアンタらに追い付くさ! 【ユニークスキル】! 十命・壊陣! 発動!」
刃が【ユニークスキル】を起動させた直後、その上空より、マナカと勇剣が強襲する。
「潰れちゃえ!!!!」
刃を暴れ回らせる気はないという目的の現れなのか、マナカは彼の頭を目掛けて拳を何度も振り下ろした。
"ドォゴン"という鈍い音が鳴り響き、マナカの鉄槌により、刃を容赦無く擦り潰す。
「あまりボコスカ殴るなよ!」
だが、その攻撃で倒れる様な刃ではない。
マナカの蓮撃を受けながらも身体には、一切の傷なく、肌の色をドス黒い赤へと変色させ、その背後には7つの光が彼を照らさせていた。
「刃剛、破壊乃掌!!!!」
光の1つを腕に宿し、地面へ勢いよく張り手を放つと次の瞬間、衝撃波が勇剣とレンジに襲い掛かる。
地面が割れるほどの防御不可の衝撃波に対して、レンジはそれを避けるために空気中にある【魔力】を蹴り上げ、空へと退避した。だが、その瞬間を狙っていたのか、刃は空に浮いたレンジ目掛けて距離を詰める。
「速攻!」
急接近したレンジ目掛けて放つのは、回し蹴り。
受ける間を無くした蹴りに対して、レンジは鞘で防御を図る。
だが、刃の蹴りは防御の手前で止まり、レンジが纏っていた【魔力】を使い、無理矢理、彼よりも高い位置へと飛んだ。
「刃剛、天下斧武!!!!」
光の1つを足に纏い、放つのは踵落とし。
その威力は計り知れず、レンジを一撃で仕留めることも可能であった。
振り下ろされた踵落としに対して、レンジは鞘を捻り、【夜叉】の【魔力】を変化させる。
それは先ほど見せた黒雷に在らず。
蒼炎沸る刃を刃の必殺に打つけた。
「無明一刀流、飛龍星」
鞘から溢れる蒼炎は、【魔力】を焼却する焔。
刃の放つ一撃に纏う【魔力】を焼き払い、その足を容赦なく切り落とさんとする。
(ワオ! 【魔力】が焼かれた! このまま行けば足を切り落とされる! なら!)
黒い刃が刃の足を切り落とさんとしたその時、彼は腕にもう1つの光を宿す。
そして、それを無理矢理地面に向けて放つとギリギリのところでレンジの斬撃を回避した。
「仕切り直し」
刃が何かを言おうとした瞬間、彼の体が突如として、鉄の鎖の様なモノで拘束された。
「オメエは今回は卓から降りろよ、武闘家野郎」
そう言うとレンジの背後より現れたのはマーラであり、彼女は自身で出した鎖を操りながら、刃をその場から遠ざけようと適当な方向へと放り投げた。
マーラは【権能】を使い、刃を慣性の法則を無視した勢いで放り投げてられており、彼が如何に足掻こうがマーラ達から遠ざけられるのは必然。
(何か違う力で縛られている気がするなぁ! 僕をあの戦いに何としても入れたくないんだろう。ふふふ、そうは行かん。あんな極上の戦いに参加出来ないなんて一生の恥だ!)
マーラ達が戦う場所から凡そ500メートルほど離れた頃、彼女の【権能】がようやく解かれたのか、家の壁に打ち付けられた。
しかし、そんな簡単に遠ざけられるほど李 刃は甘くない。
すぐに壁を蹴り返し、強者集う死地へと駆ける。
そんな刃の目の前に、1つの影が伸びた。
「【合成】、追尾弾 × 水魔法IV」
主人の決められたコースを沿いながら追尾弾、それが刃へと放たれる。
それら全てを三節棍として再び変化させた龍真鉄棍を振り回し、撃ち落とすと追尾弾を飛んで来た方向へと視線を向けた。
「やぁ、やぁ、この魔弾、この所作、この空気。初めましてだね、那須野・アルディーニ」
全ての魔弾を簡単に撃ち落とし、刃はアルディーニへと挨拶をする。
「初めましてだ、李 刃さん。俺の自己紹介は要らねえな」
「ふふ、そうだね。でも、今、僕は君に構っているほど余裕は無い。これから始まる8分間は、【魔王】討伐選抜戦、始まって以来の最高の舞台だ。僕もそこに馳せ参じないと」
刃はアルディーニは目を向けず、すぐにでもレンジ達の下へ急ごうとした。
「俺じゃ、役不足、か。舐められたもんだな」
アルディーニはそう呟くと両腕に大量の魔弾を生み出し、それを構えて、刃の前に立ち塞がる。
(アンタみたいな英雄がアイツらと鎬を削る。俺もそれを望んでる。だが、今回ばかりは俺も本気だ。マーラとレンジさん、アンタらのために命張らせてもらうよ)
刃はアルディーニが邪魔をするのであれば、すぐにでも彼をあしらい、その場を去るつもりであった。
だが、そんな刃の考えをアルディーニは最も簡単にぶち壊す。
「なぁ、刃さん。アンタが強者との戦いに思いを馳せる気持ちは分かる。だが、俺を前にして、戦わない選択肢がアンタにはあるかい?」
【魔力】を纏う空気が変わり、アルディーニはかつて無いほどに殺気を刃にぶつけた。
「ふーん、君が強者なのは理解している。だけど、それでいても尚、僕はアソコに向かう。もう、御託は要らない。存分に、死合おう」
戦闘中毒者の目標がアルディーニへと映り変わる。
魔弾の射手と武闘家の一騎打ち。
彼らもまた譲れないものを持って、戦闘を開始する。
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