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元伝説の迷宮踏破者、今は過疎配信おじさん ――魔王が幼女に転生して来たので、再び迷宮の最深部へ  作者:
二章 おじさん、魔王に挑む

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二十九話 おじさん、選抜戦に挑む㉗

 【魔王】討伐選抜戦最終週。

 1ヶ月に及ぶ【冒険者】同士の戦いはいよいよ大詰め。


 三つ巴の頂上決戦、その幕が上がろうとしていた。


「3週間にわたる【魔王】討伐選抜戦も最終週。多くのドラマと激闘を生んできたこの企画もいよいよ、フィナーレ直前。我々スタッフも視聴者と共に最高潮を迎えるための準備は既に済んでおります! 実況は早乙女(サオトメ)カナ! WAA公式がお送りします、【魔王】討伐選抜戦! コレまでにないド級のエンタメをお届け致すことを約束します!! それでは今回の豪華ゲスト最後の実況を共に飾るのはこの方!」


 カナの言葉に合わせて、カメラのレンズが一斉にその男に向いた。


「やぁ、やぁ、やぁ! 視聴者諸君! こんばんは!!!! 今回は私がこの席に来た!」


 そこに居たのは黒スーツからも分かるほどの筋肉を身に纏い、髭を生やした大柄の快男児、歌島徳茂(ウタシマトクシゲ)


 手を振りながら現れたその男はカメラに映り慣れているのか、一切動じることなく堂々とした態度で歩く。


 WAA理事長であり、【魔王】討伐選抜戦の主催者である男、それはドスンと音を立てて、カナの横に座った。


「今回はWAA創設者である歌島徳茂(ウタシマトクシゲ)さんに来て頂きました!!!!」


 カナが手を向けるとコメント欄に一気に動く。


「オイオイ、盛り上がってるねぇ! この【配信】! 視聴者の興奮、熱狂、全てが伝わって来る! これぞ僕が求めたエンタメ! 極上だねぇ!!!」


歌島(ウタシマ)さん! はじめまして! 実況の」


 カナが徳茂(トクシゲ)に自己紹介をしようとすると彼はそれを手で止めた。


「初めまして、じゃないよ、カナちゃん。僕は、君のことを常に見ていた。この【配信】を盛り上げてくれる、君に対して、ね!」


 その言葉に嘘はない。

 歌島徳茂(ウタシマトクシゲ)と言う男は計算高く、【魔王】としての狡猾さもある。


 だが、それと同時に、エンターテイメントという物にとことん真摯であった。


 それに炎を燃やす者、それを盛り上げさせようという者、それら全てに敬意を示し、リスペクトする。


 心の底からカナという人間を尊敬して、その台詞(セリフ)を放っていた。


「ありがとうございます!!!! そう言ってもらえると実況者冥利に尽きます!!!! ですが、私はあくまでも実況者。この舞台を真の意味で盛り上げてくれたのは【冒険者】の皆様です! さてさて! 歌島(ウタシマ)さん! 既に会場の熱は上がり切っております! 我々に必要なのは何なのか、分かり切っておりますよね!」


「そりゃあ! 勿論! ここまで来たら御託は要らない! 熱い決着着けようぜ!」


 カナと徳茂(トクシゲ)は視聴者達が今か今かと待ち侘びている言葉を知っており、それに応える様に2人同時に声を上げた。


「「 転送開始(転送開始)!!!!」」


***


 【魔王】討伐選抜戦最終戦。

 舞台は天候晴天、辺りの視界は良好。

 レンジが飛ばされた視線の先に映るのは大小の家屋が立ち並ぶ市街地。


(とりあえず、アルディーニとマーラと合流しよう。今回の戦いは()()()()で勝つ)


 レンジはつい先日、取得した【魔力感知スキル】を使い、辺りを索敵する。


 【魔力感知】は、感知できる距離(レンジ)は人それぞれ違っている。

 レンジの【魔力感知】の距離は凡そ半径50メートルに及び、S級と比べても遜色ない。


 だが、その【魔力感知】という行動が逆にレンジを追い詰めることになる。


 レンジが捉えたのは2つの気配。

 1つはマーラの物、もう1つは、他の者。

 それはレンジのいる方向を向き、ニコリと微笑んだ。


(不味い、逆に探知された?!)


 レンジが感知した【魔力】より、彼は1人の【冒険者】、いや、武闘家を引き寄せてしまう。


 それは【魔力感知】からレンジの居場所を逆探知し、最短距離で突っ走る。


你好(ニーハオ)! 肋屋レンジ!!!! 【魔力感知(ラブコール)】なんて! 迂闊だねぇ!」


 家を破壊して、現れたのは李 刃(リ・ジン)


 手に握るのは、龍真鉄棍(リュウシンテッコン)であり、三節棍の形に変形させながら、レンジへとそれを振り回す。


 レンジは三節棍の動きを目で追いながら避けると急に(ジン)から距離を取り、自身の得物を前にした。


「あはは!!!! 見せてみてよ! あんたの秘剣! 僕が本気を出すに値する物なのかを!」


 (ジン)のテンションの高さとは逆に、レンジはかつて無いほどに落ち着いている。


 起伏は無く、静けさすら感じるその気配に対して、(ジン)は今までに無いタイプとの戦いに心を躍らせた。


(なんで静かで、無風の殺気! 何をしてくるのかさっぱり読めないな! でも、それが良い! これが老兵(ロートル)? バカ言え! まだまだ現役! 楽しくなってきた!)


 一挙手一投足、全てに眼を配り、レンジの動きを逃さまいと瞬き1つしない(ジン)


 それに対するレンジの応えは。


「無明一刀流、(イカズチ)


 黒き(いかずち)纏いた(やいば)による速攻である。


 瞬き一切せずにいた(ジン)ですら、自分の間合いに入り込んだこと、自身の首元に刃が置かれたことに気付くのに数秒かかった不可避の逆手抜刀。


 薄皮に刃が到達した瞬間に、龍真鉄棍(リュウシンテッコン)を無理矢理挟み込むも抜刀の勢いを抑えきれず、(ジン)の体が吹き飛んだ。


 これまでの【魔王】討伐選抜戦にて、レンジは黒刀・【夜叉(ヤシャ)】の【権能】の使用を禁じていた。


 理由は単純(シンプル)

 勇剣(ユウキ)に自身の技を種類(レパートリー)を見せたくなかったのと、無明一刀流と真剣に向き合うため。


 3回に及ぶ強き若人達との鎬の削り合い、それによってレンジは真の意味で黒刀・【夜叉(ヤシャ)】を無明一刀流へと慣らしを済ませた。


 今のレンジは以前よりも研ぎ澄まされており、最高の状態(パーフォーマンス)で最終戦に臨んでいる。


「黒い雷! 首を【魔力】で覆っても尚、僕の体に傷が付いた! 【魔王】殺しの剣とは言われていたけど、それは嘘偽りのない真実(チェンシー)! ふふふ!!!! あはは!!!! 勇剣(ユウキ)だけじゃ、腹八分だった。まだ、満腹にならない! アンタなら、僕の飢えを満たしてくれそうだ!」


 吹き飛ばされ、家の幾つかの壁を破壊して止まった(ジン)であったが、体の関節が正常に動くのを確認した後、直ぐにレンジの下へ戻ろうとした。


「オイ、オイオイオイオイ、勇剣(ユウキ)。それは()()! ()()()()!!!! まだ、始まったばかりだっていうのに! それはあまりにも気前が良過ぎるだろう!!!!」


 (ジン)が感じ取ったのは、【魔力】の権化、その顕現の気配。


 【魔王】討伐選抜戦最終戦、それは10分の間に全ての決着が着く。


 そして、その【配信】を目撃した視聴者達は挙って全員が口を揃えてこう語った。


 |10分間の死闘《Ten minute Desperate》、と。


「来い、マナカ。全部だ」

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