二十五話 おじさん、選抜戦に挑む㉓
勇剣はその場にいる全員に向けて、宣言する。
最終ラウンド、と。
(アルファは腕を失ってるし、完全に熱が冷め始めてる。風向きが蘆原勇剣に向いてるせいで【魔力】出力が落ちて来てる。モナが踊ってくれてるおかげで、なんとか持ち堪えてるけど、このままだと確実に負ける)
チサトは横たわるアルファから、勇剣に視線を向けた。
勇剣はいつの間にか失っていた右腕に【魔具】を装着しており、それの動きを確かめるために手をグーパーと動かした。
その装着をマナカは巨大な手を使って、器用に手伝い、影より他の【魔具】を取り出すとそれを勇剣へと手渡す。
両手には片刃の刃に噴射機の様な物が着いた剣と勇剣の腰ほどまでの長さの剣を握りしめた。
「マナカ、僕に合わせて」
「当たり前!」
勇剣とマナカは【魔力】が落ち始めているQ104へと襲い掛かろうとする。
だが、その横から1人の武闘家が姿を現す。
先程、勇剣の一撃を食い、吹き飛ばされていたはずの李 刃が龍真鉄棍を使い、彼らの間に立った。
「まだまだ! これからだろう! 龍真鉄棍、土涛!」
今度は土の龍を生み出し、それをマナカへと放つ。
マナカはそれを拳一振りで破壊するもその瞬間に、彼女の体に土の龍は絡まり着いた。
「何だ? コレ!」
絡まりつく土龍をマナカは何度も破壊する中、刃は勇剣へと挑んだ。
「刃剛! 粉砕撃!」
龍真鉄棍の先に【魔力】を集中させ、それを勇剣へとぶつけた。だが、彼はそれを冷静に見極め、右腕に握る【魔具】を使って、撃ち落とす。
「飛ばせ、竜墜」
【魔具】の刃先に着いた噴射機から勇剣の【魔力】を変換させて、ジェット噴射の様に炎が噴出されるとそれを使って、刃の攻撃を弾き飛ばした。
「いい! ね! 龍真鉄棍、木燐!」
上半身が捻じ曲がりそうな程の威力の反撃を受けるも刃は何とか持ち前の筋力で持ち堪えると地面に龍真鉄棍を突き刺した。
すると勇剣の下から木で出来た龍が現れると彼の手足を拘束する。
「龍真鉄棍》、金錮!」
地面に突き刺した龍真鉄棍を手に持ち、勇剣へとその棒先を向けるとそれは突如として巨大化し、彼目掛けて伸び出した。
「断ち切れ、禍罪」
左手に握る身幅が少し太めの刀をぶつけ、その一撃を簡単にいなす。そして、刃との距離を詰めて剣を振るう。
振るうと同時に、刃の肉体に突如として、切り跡が生まれ、彼の溝へと蹴りを入れた。
溝を打たれ、吹き飛ばされそうになる刃であったが両足を地面に突き刺す勢いで力を込め、何とか耐えたと思った次の瞬間、彼へと影が迫る。
刃が前を向いた時には既に龍真鉄棍の拘束を振り解いたマナカがおり、彼女は彼に向けて拳を振り抜いた。
「お返し!!!!」
その一撃を受け、刃の体は雪の街中を一瞬で駆け、ビルの1つに打ち付けられた。
肉体には負荷が掛かり、動かし方を間違えれば、【魔力】で生み出した擬似身体は今にも崩れてしまいそうになる。
そんな中で、刃はまだ、闘争心を激らせる。
(上手い! 技術! 【魔力】! それら全てにおいて、僕を超えて行く! 堪らない、この死合い! 僕もこのままじゃ負ける。なら、出すか! 奥の手を!)
刃を吹き飛ばし、その場に万全な状態で立っているのは蘆原勇剣のみ。
Q104と刃をたった1人で払い除けた勇剣を見て、その映像を盛り上げるためにカナは声を上げる。
「圧倒! 逆境であった状態をまさかまさかの大逆転! これがA級最強の名は伊達じゃない!」
勇剣に向けた実況に視聴者達も湧き踊る。
今、間違いなくその視線はただ1人に注がれ、Q104の【ユニークスキル】の妄想多数派が有する必要がある熱が冷めつつあった。
誰もが勇剣以外の勝利は絶望的だと思ったその時、舞台の上で有馬チサトが声を上げる。
「まだ、これからだろうが! 何、盛り下げてんだ!」
その咆哮は目の前に立つ敵、勇剣と刃、そして、自分達に視線を注いでいた信仰者に向けた物。
有馬チサトは理解していた。
今の状況をひっくり返すほどの余力も【魔力】も残っていないことを。
だが、そんなのは関係ない。
ガムシャラに走り抜けて来たチサトにとって、いや、Q104にとって、その逆境は常に自分達が乗り越えて来たが故に。
それに応える様にモナカもまた、前を向く。
「そうだね、チサ。僕達はいつもこれからだ。アルファちゃん! 立って! まだ、ライブは終わってない! ラストスパートだ!」
両腕を破壊されたことで【魔力】を失い満身創痍となっていたアルファであったが、チサトとモナカの2人に鼓舞されたのか、覚束ない足取りでありながらもしっかりと立ち上がる。
そして、そんなQ104を目撃した視聴者達は、視線の先を彼女達へと向けた。
人間が向ける熱い視線、それに応える様に妄想多数派の能力に再び火を灯す。
Q104は踊り始める。
迫り来る勇剣を気にせずに、自分達の舞台を彩りながら、視聴者の視線を一瞬にして集めた。
一瞬にして爆ぜた熱を受け取り、チサトは自身の指に【魔力】を集約させる。
(この一撃で、仕留める!)
有馬チサトはもう1つの【ユニークスキル】を持っている。
名は天の眼。
それによって他者よりも【魔力】の流れ、動き、色をハッキリと見通すことができる。
指先に集めるのは今、自分達が持てる【魔力】全て。
「「「これで最後だ!」」」
クルリと回転し、3人は一糸乱れぬ動きで、止まった。
最後の決めポーズは人間を撃ち抜く為の指を銃の形。
「ラストソング! 無料生歌、大サービスだぞ! 聞いてけよ! 蘆原勇剣 ! 鮮烈なる終極!」
チサトの向けた指鉄砲より、螺旋を描き、放たれるのは【魔力】の奔流。
相手を焼き払うためだけの指向性の一切、投げ捨てた全力投球。
勇剣へと打ち勝つ為の必死に一撃を防ぐことは不可能。
(すごいな。僕を壊すためにここまでしてくるなんて。なんて、カッコいいんだ。今度、マナカと一緒に彼女達の歌を聞こう)
勇剣はその【魔力】の塊を前にして、マナカへと命ずる。
「マナカ、全部だ。僕の全部を使って、彼女達に全身全霊をぶつけて」
その命に対して、マナカは嬉しそうに応えた。
「あはははは!!!! 容赦がないね! 勇剣! でも、分かった! ここら辺! 一帯全部吹き飛ばす!」
そして、命を受けたマナカは自身の口に【魔力】を一気に集めると同時、それは逆に指向性を極限にまでに絞り込み抽出して、解き放つ。
全てを穿つ【魔力】の光線。
Q104 の鮮烈なる終極とマナカの光線、それらがぶつかり合う中、勇剣は止まることなく疾走する。
それはマナカへの絶対的な信頼であり、彼女達へと選択を余儀なくさせる為のもの。
【魔力】の奔流を徐々に押し除け始めたマナカの光線と共に迫り来る。
「蘆原勇剣 !」
チサトはそう叫ぶと勇剣に向けて、指鉄砲を向けた。
マナカの放つ光線に今際の際にも呑まれそうになり、【魔力】の出力では敵わないと考えたチサトは彼だけでも相打ちに持って行く覚悟を決め、その判断を下した。
「すごいね、君」
だが、それよりも早く、勇剣はチサトの首を断つ。
刃に宿した【魔力】を飛ばすだけ。
勇剣の最も得意とした斬撃がチサトが照準を定めるよりも早く放たれる。
そして、その一閃がチサトの首を断ち、次の瞬間、彼女の擬似身体は崩れ落ちた。
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