二十四話 おじさん、選抜戦に挑む㉒
***
ビルの中を松風は必死に逃げていた。
ノートPCを使用し、張り巡らせた罠を駆使して、追跡者を振り払おうと走る。
だが、追跡者はそれを気にせずに松風を追って来た。
(クソ! ここまでか!?)
松風の逃走虚しく、いつの間にか、彼はビルの屋上まで追い詰められており、追跡者であるローブで顔を隠した李 黒は拳を前にした。
「はぁー、クソ。今回は無理そうだ。勇剣」
松風はそう呟き、目を瞑る。
そして、ドンという踏み込み音と共に、自分の敗北を受け入れた。
「な、何という事でしょう!? 松風選手に襲い掛かった李 黒選手が突如として、爆散? しました?! な、何が起きてるんだ?!」
突如として流れたカナの実況、それはカメラが映した光景をそのまま述べている。
松風へと迫る黒は突然、空に浮くとそれは何かに握りつぶされた様に一瞬にしてぺちゃんこになっていた。
「は? え? な?」
松風は目の前で起きた異常現象に戸惑うもその眼は以前は見えていなかった者が見えた。
「貸し1だから。キビキビ勇剣のために働きなさい」
怪物から一瞬にして、少女の姿に戻った何かは松風に対して、そう言うと姿を消した。
それを目にした松風は唖然としながら、呟いた。
「勇剣、アイツ、あんなのとずっと一緒に居るのかよ」
***
蘆原勇剣は追い詰められていた。
腕を落とされ、得物を失った。
【魔力】はジャバジャバと溢れ出て、その底が漸く見え始める。
残りこの試合、最後までに保つかどうか。
蘆原勇剣に迫る敗北という危機。
だが、視聴者達が感じていた危機感は、その場で、本人を見ている人間からすれば全く逆である。
(これまで割れてなかった【魔力】の底も割れて、腕も、得物も失った筈なのに。何で、傷をつけた私の方が、一歩引いたの? 手負いで今なら倒せるはずなのに、引かざる得ないと感じさせる、この【魔力】は何!?)
アルファは目の前にいる、勇剣との距離を無意識のうちに取っていた。
腕から溢れる【魔力】は抑えれず、その操作が雑な勇剣にとって、今、落とされるかは時間の問題であった。
(何て、何て不幸なんだ! 僕が遊びたかったのは勇剣だったのに! でも、幸福にも出会えた! 彼女達が思ったよりも強い! 僕からしたらどっちにしてもhappy! 今回は本気で戦いそびれたけど、また、次の機会に。って、アレ、何だ?)
刃は萎んでいく勇剣の【魔力】を見て、本気での死合いは出来そうに無いから次の機会にと割り切ろうとした。
だが、そんな彼の目には【魔力】の塊、いや、【魔力】という物質そのものが少女の形を成した何かが勇剣の横に立っているのが見えた。
「勇剣、私の助け、必要?」
太陽の様に眩しい微笑みなのに、その囁きは悪魔の様な誘惑が込められており、少女が出してはならない妖艶さを纏わせながら、マナカは勇剣に尋ねた。
(本当は見せるつもり無かったし、僕の力なら全員倒せると思ってた。けれど、ここに至るまでに必死に努力をして来て、踠いて来た人達が弱い筈が無い。なら、ここで僕がやる事は1つ)
勇剣はマナカに向けて、優しく微笑んだ。
アルファから見たその光景は異様としか評せないほどに不気味であった。ぼんやりと見えている【魔力】の塊に向けて優しい笑みを浮かべる勇剣の姿に恐ろしさと困惑が混じった表情を浮かべる。
「ああ、そうだね。マナカ。君の力が必要だ」
勇剣の言葉に呼応して、マナカは先程よりも嬉しそうに笑った。
「ほらね! やっぱりそうだ! どれくらい必要?」
「全部だ」
「え! 全部! もう、勇剣ったら! なら、早く嵌めて。私と貴方を繋げる指輪を」
言い終えると同時に、マナカはその幼き姿を、複数の漆黒の翼を幾つも重ね合わせた肉体に、狼のような鋭い牙と口を兼ね備えた化物としか形容し得ない何かへと変貌を遂げさせた。
其は【魔力】の塊に在らず。
其は愛しき君に在らず。
其は【魔王】の魂の混ざり物。
「【ユニークスキル】、指輪が2人を繋ぐ迄、宣誓」
だが、そんな歪な君でも愛そう。
それが蘆原勇剣の罪故に。
それこそが彼の罰故に。
勇剣の左手の指には、【ユニークスキル】の発動と共に残った腕の薬指に嵌められていた。
「あははは!!!! 勇剣~? 腕大丈夫? 治そうか?」
マナカは大声を上げるとその姿を前にした、Q104の3人は困惑し、刃は笑顔を見せた。
マナカの今の姿は、彼らにも見えており、その怪物の横に平然と立っている勇剣という存在が異常でしか無かった。
(さっき迄、萎んでたはずの【魔力】が急に立ち上り始めた?! それに加えて、あの横の怪物は何?! もうわけ分からん!?)
チサトの眼が捉えていた【魔力】の色の正体。
それはマナカであり、彼女の【魔力】の割合が大きくなればなるほど、勇剣の纏う【魔力】は異常な色へと変わって行く。
「いや、良いよ。僕は良いから今日は久々に色々使いたいや」
「良いよー。勇剣、【魔具】作るのも使うのも好きだもんね!」
マナカは自身の影に手を置くと、そこから幾つもの形の違う武器が現れ、勇剣はそのうちの1つを手に取った。
指輪が2人を繋ぐ迄、それは蘆原勇剣の【ユニークスキル】であり、【魔王】の魂と砂上愛華の魂が混ざって生まれた何かマナカの完全顕現と接続を可能とする能力。
その力の一端、それは
「穿て、槍月」
勇剣が手に握るのは一本槍、それをアルファへと向けて突きを放つ。
アルファへと放たれた槍の一突きは先程まで勇剣が見せていた魔弾とは比べ物にならないほどの大きさの攻撃が飛んでくると彼女はそれを前にして、両手に握る得物に【魔力】を注ぎ込んだ。
【魔力】同士が打つかり合い、爆発するとアルファは飛ばされてしまうといつの間にか、彼女達の踊っていた舞台まで吹き飛んでいた。
「アルファ!」
刃をお構い無しにとチサトは吹き飛んだアルファを起こすと彼女の腕は木っ端微塵に吹き飛んでおり、その箇所から【魔力】が溢れ出した。
「良いなぁ! 蘆原勇剣!」
アルファの心配をして、隙だらけになったチサトを狙わず、刃は明らかに先ほどは全く別の領域に達した勇剣に向かって距離を詰める。
「マナカ」
「はいはい」
向かってくる刃に対するのは完全顕現を遂げたマナカ。
マナカは拳を翳し、刃へと容赦無く一撃を見舞う。
「良い! おも、さ!」
「レディーに重いとか失礼ね」
上から押しつぶす様な一撃を食らわせるも、刃はそれを耐え凌いだ。
だが、その横から勇剣が現れると彼の体目掛けて左腕に装備した別の【魔具】を使い、腹部へと強烈なパンチを食らわせる。
「吹き飛ばせ、拳王」
次の瞬間、ノーガードの刃の腹部にパンチが入ると彼は右横にゴム毬の様に吹き飛んだ。
【ユニークスキル】発動後、マナカと指輪と接続することで、勇剣は彼女の力を使用できる。
1つは無制限の【魔力】の供給
もう1つは勇剣が自身で作り出した【魔具】の取り出し。
接続可能時間は10分。
10分が過ぎれば勇剣は【魔力】が尽き、戦闘不能となる。
それは正しく10分間に及ぶ蘆原勇剣の全力疾走。
これこそが蘆原勇剣を最もS級【冒険者】に近いと称する理由。
「さぁ、最終ラウンドだ」
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