二十一話 おじさん、選抜戦に挑む⑲
勇剣は転送されたと同時に目を開くとそこは真っ白な雪原が広がっていた。
今回の舞台は雪の降るビル街。
辺りにはシンシンと雪が降り積もり、その気温すらも再現されている。
「松風さん、僕の居場所わかります?」
耳につけていた無線から松風に喋りかけるとすぐに応答があった。
「発見した。ドローン送るからちょっと待ってろ。あー、いや、すぐにそこから離れるかしろ。来るぞ、いきなり刃が」
松風の言葉が終えると同時、勇剣の背後に巨大な【魔力】を立ち延ばしながらドォンと音を立てて着地をした1人の青年がいた。
「你好! 蘆原勇剣!」
手には六角形の太めの棒、それを握り締めて空より現れたのは李 刃。
「初めまして、刃さん」
「丁寧な挨拶謝謝! 勇剣! 初めましてだけど、何だか仲良く出来そうだ!」
「あはは、面白い人ですね。動画で見たよりもずっといい人そうだ。それで、刃さん、僕に何か用かな?」
あえて煽る様に勇剣は刃に喋りかけた。
「うんうん! 良いねえ! 僕、君大好き! 用事は1つ、雪の積もる良い日にやること言えば、そう! 死合いだね! じゃあ、やろうか! 死合い!」
「じゃあ、そうしましょう。僕も貴方には本気を出さなきゃならないですからね。最初から全力で行きますよ」
勇剣は腰に差していた刀を取り出し、それを握りしめて、刃を向ける。
刃は嬉しそうに笑顔を浮かべ、自身の得物である棒を構えた。
「互いに思い合い、そして、殺し合う! 何だか、カップルみたいだねえ!」
「それは違いますよ、刃さん。生憎、僕にはもう居るんで」
その言葉を終えた瞬間、2人は踏み込み、得物を振るった。
互いに【魔力】が込められた一撃は、ぶつかることなく、風を巻き起こし、周囲の建物のガラスにヒビを入れる。
「いきなり、李選手と蘆原選手がぶつかり合う! と言うか、武器がぶつかってないのに何が起きてるんですか?!」
刃と勇剣の一撃はお互いの得物が何か壁のような物に阻まれており、2人の得物は重なり合っていない。
それにも関わらず、その衝撃でビルのガラスにヒビが入っており、カナはそれに目を見開いた。
「アレは【魔力】が多い物同士がぶつかり合った際に偶に起きる現象だよ」
驚くカナに対して、アルベールは間髪入れずに説明を入れる。
「莫大な【魔力】に対して、同量の【魔力】をぶつけれると互いに拮抗し合うんだ。そうすると今見てる様な光景が映ることがある」
開幕早々、刃と勇剣が火花を散らす中、別の場所でも続々と戦闘が開始していた。
「うわぁぁぁぁん! た、たすけて!」
オレンジのツインテールを揺らしながら、有栖坂アルファは逃げ惑う。
背中を追撃するのは第三試合二位の戦績であった久保パーティのメンバーの1人、久保和徳であった。
「逃さねえよ! 嬢ちゃん!」
久保は魔弾を使い、アルファの背中を狙い撃ちするが、彼女が勘が良いのか、ギリギリのところで攻撃を避けていた。
「チサトちゃん! モナカちゃん! 何処~~!!!?」
アルファはビル外を走り回り、チサトとモナカの2人を探す。だが、その道を久保パーティの別のメンバーが遮った。
「わ、え、あ、な、何で!?」
「【魔力感知】が疎かになるなんて、とんだど素人だな?」
男はそう言うと魔弾を構え、アルファの前に立った。
彼を追っていた久保が来るのを待っており、挟み撃ちにしてアルファを逃さまいとした。
だが、何故かアルファを追っていた久保が到着しない。
「あー! もう良いわ! 俺1人で仕留めんぞ!」
男は久保の到着が待てなくなったのか、手に留めていた魔弾を構え、アルファへと放とうとする。
もうダメだと目を瞑ったその時、アルファの前に、2つの影が現れた。
「随分とまぁ、ウチのアルファをいじめてくれたな、オッサン」
「そうだぞー、Q104の可愛い担当を虐めた責任、有馬チサトが取ってかかるぞー」
モナカとチサトの2人は、アルファの目の前に立ちながら、男を睨みつけた。
チサトの睨みに、背筋を指でなぞられた様なゾアリとした感覚が襲って来ると形成が一気に逆転したと感じ、一度、撤退して、仲間と合流する判断を下した。
すると、手に持っていた魔弾を地面に放つとQ104の3人に背を向ける。
(チッ! 後ちょっとだったのに! おい! 久保の奴は何してんだよ!?)
本来であれば挟み撃ちをして仕留めるはずの予定が完全に崩れ、久保からの連絡は取れなくなってしまっており、男はその場から立ち去ろうとした。
「アルファ、やっちゃいな、私達が見張ってるから」
「え、その、良いの?」
「いいんじゃなーい? アルファちゃんなら出来るよ」
先程まで怯えていたはずのアルファの震えは止まっており、2人と合流してからはその素振りを一切見せなくなっていた。
「わ、分かった! 2人がそう言うなら!」
アルファは自身の手に持っていた2つの手斧を強く握り締めると男の逃げて行く方向へと向かって行く。
「ほーんと、アルファはウチらが居ないとビビりで困るわ」
「まぁ、そんなこと言ってるけど、僕達の中で一番強いのアルファちゃんだし。次点で私」
「あ? 私だろうが」
他チームからの強襲があるかも知れないのに、そんなことお構い無しにと歪み合うQ104のチサトとモナカ。
それを気にせず、アルファは自分を仕留めようとした【冒険者】を追う。
「久保はやられたっぽいし、他のメンバーと合流してって、ん? オイオイ、さっきまで仲間と一緒だったのに1人で俺を追って来たのか?」
【魔力感知】を怠らずにいた男は背後を振り向くとそこには手斧を握りしめたアルファが現れた。
「1人で来るとは馬鹿な嬢ちゃんだ」
男は簡単に仕留められると判断した獲物を前にして、呟く。
「私は出来る。私は出来る。チサトちゃんも、モナカちゃんもそう言ってくれた。なら、出来る。だって、私はQ104だから」
アルファは2人が自分を見つけてくれたと言う安堵からか、先程まで見せていた頼りなさの様な物が消えていた。
(雰囲気が変わったな。チッ、トットと仕留めてやる)
魔弾を手に構え、男はそれをアルファに向けて放つ。
だが、それをアルファは手斧の1つで弾き落とした。
爆発音が鳴り響き、煙の中からアルファは男に一歩ずつ近づいていく。
「魔弾弾くって何者だよ!」
男は諦めずに何度も魔弾を放つがアルファはそれを器用に手斧で弾き飛ばし続け、いつの間にか、彼らの距離は互いの手を伸ばせば触れらる様な近さになっていた。
「こ」
「フン!」
自爆覚悟の巨大な魔弾を生み出し、放とうとした瞬間、アルファは両腕を空高くに上げて、地面を振り下ろした。
「の!?」
男の体が3枚に割れ、アルファは地面に突き刺さった手斧を取り上げる。
「第八試合、Q104が2人の【冒険者】を撃破し、ポイント獲得! 有馬チサト選手、有栖坂アルファ選手所属パーティに2ポイント! 個人に5ポイント!!!!」
Q104、それは三位一体の【冒険者】兼アイドルの強者達。
初得点の狼煙を上げ、幸先の良いスタートを切った。
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