二十話 おじさん、選抜戦に挑む⑱
第六、第七試合終了後の翌日。
第八試合当日の蘆原勇剣率いるパーティは作戦室にて、第八試合の準備をしていた。
今日の試合の選出されるパーティは第二、第四、第五試合の一位、第三試合二位の4パーティであった。
「勇剣、今回使う装備だ。色々【配信】用に準備したヤツだが、今回の戦いで使うのが良さそうだから持って来ておいた」
松風はドローンや、インカムを取り出し、それを勇剣へと手渡した。
「ありがとう、ございます」
「んだよ、そのキョトンとした顔は。この後試合だぞ? 大丈夫か?」
「あ、いえ、大丈夫です。ただ、松風さん、先週まで選抜戦、乗り気じゃなかったですよね?」
松風が突然、選抜戦に積極的になった事に勇剣は違和感を覚え、それを本人に問いた。
勇剣の問いに対して、松風は首を捻り、少し時間をかけて、自身の考えを整理して、答えた。
「別にやる気はねえよ。ただ、お前の戦う姿に少し浮かされちまっただけだ」
「僕の戦う様子、ですか。なるほど? 僕の戦いってつまらないと思うんですが」
「ん? 戦い方じゃねえよ。お前さ、なんか必死さが伝わってくるんだよな。別に俺と組まなくても肋屋レンジのパーティや、今日やる李 刃のパーティ以外なら横にいる恋人を使わなくても勝てるだろう。だけど、お前は最善を尽くすために、俺にパーティを組んでくれと頭を下げた。やる気は今もねえよ。早くいつもの【配信】に戻りたい。だけど、それ以上にお前の出す熱を感じ取った。それだけだよ」
そう言うと松風はドローンの動きを調整し始めた。
勇剣自身は知らない彼の素顔。
それは常に必死で、何かに追いつこうと走り続ける熱さ。
それに松風は心が動かされた。
「あー、後、強い奴に頼られて、それに応えるってのは案外悪くねえんだわ」
ニッと微笑む松風に対して、勇剣は少しだけ心が温かな気持ちになった。
「この男みる目あるわね、気に入ったわ。一回だけ守ってあげる」
「ふふ、そうだね、マナカ。僕も何だか嬉しいや。さぁ、この試合も点数を稼いで一位になろう」
松風にはマナカは見えない。
だから、彼の目からは今の会話は勇剣が1人で勝手に呟いている様に写っている。
(そこにいる何かってのは俺には分からんが、まぁ、野暮なことは聞くのはやめとくか)
松風と勇剣、奇妙な関係であるが、彼らは互いに信頼し、その背中を預けながら勝利を目指す。
***
有馬パーティ作戦室。
第八試合開始の1時間前でありながら、彼女達は準備などはせずに作戦室にて、【配信】を行っていた。
泣く泣くさん 10000D
『今日の試合楽しみにしてるよ! Q104!』
「お! はいはい~! 泣く泣くさん~! スパチャ感謝~! 今日の試合も気張って行くよ~!」
試合前にも関わらず、彼女達3人はそれを気にすることなく、笑顔で撮影機器へと手を振った。
『今日、選抜戦だけど大丈夫?』
『蘆原いるけど大丈夫?』
『拳術馬鹿いけるど大丈夫?』
コメント欄には、普段通りの活動を行う彼女達へ向けた心配のメッセージが届く。それに対して、翠の長髪の頭上から猫耳を生やし、黒を基調に白が混在するゴスロリ衣装を動きやすそうに改造したものに身を包んだ少女が、それを吹き飛ばす様な元気で答えた。
「あったり前! これまでどれくらい準備してきたと思ってんの! 私達、Q104が今回の試合も一位取って、第四試合で一位だったのはまぐれじゃないこと、証明しちゃうから見ててね!」
Q104、それは有馬チサト、時雨モナカ、有栖坂アルファ、3人で活動しているA級【冒険者】でありながらアイドル活動をしている少女達。
「チサー、アンタまーた、大口叩いて、これで負けたら洒落ならんよー?」
青い髪をストレートに伸ばし、チサト同様のコンセプトでありながらショートパンツを履いて、スラッとしたスタイルを魅せる時雨モナカは彼女の腰に手を当て、グイッと自分の方に近づけた。
そして、顔を近づけ、モナカはチサトの唇に手を置く。
モナカに突然、抱き寄せられ、顔を近づけられたチサトは顔を真っ赤にして、恥ずかしくなったのか、顔を隠し、声を上げた。
「な、何だよ!? モナ!? ひ、人前だぞ?!」
「何? 人前だと、ダメ、なの?」
2人が映された映像は一気に視聴者達を惹きつけ、コメント欄は一瞬にして、盛り上がる。
『感謝』
『本気感謝』
『神』
『いけません、いけません!』
『ふわぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 尊死』
そんな2人を眺めていた熊耳を生やし、オレンジ髪をツインテールにして、白を基調にした黒のゴスロリ衣装に身を包んだ有栖坂アルファもまた、チサト同様に顔を隠し、彼女達を直視出来なくなっていた。
「はわ、はわわわ!!!! ふ、2人とも! だ、ダメだよ!? こ、こんなこところで、そんなことしちゃぁ!!?」
その瞬間、【配信】終了の2文字が突然、現れる。
「あ、BANされちった」
モナカは「テヘッ」とベロを出し、頭を片手で抑えると抱き抱えていたチサトから手を離した。
同時に、チサトは顔を隠していたせいで、反応が遅れ、そのまま地面にドンと音を立てて、尻餅をついた。
「オイ! モナ! お前!」
「おうおう、怒るなチサ。アルファからもなんか言ってあげてって、ありゃま、アルファが落ちてら」
チサトに問い詰められたモナカはアルファに助けを求めるもの過激な映像を見たせいか、彼女は思考が停止し、鼻血を出しながら放心していた。
第四試合一位のQ104、彼女達の勝負の行方は如何に。
***
第五試合一位、李パーティ作戦室、3人の【冒険者】は蘆原勇剣の戦いを眺めていた。
「うんうん! 素晴らしい! 彼は僕がやるから、その他のメンバーはお願いね~。僕と彼が戦う舞台を邪魔させない様してくれ」
水色の長く伸ばした髪を三つ編みで一本にまとめ上げた筋骨隆々で黒い 長袍に身を包んだ男、李 刃がそう言うとその映像を眺めていた2人はすぐに返事をした。
「 知道了」
「うんうん! 良き良き返事! 流石、僕の弟子達だ! 頼りにしてるよ!」
第五試合一位の戦績、李 刃の率いるパーティ、その点の10割が刃1人で獲得したものである。
第五試合の参加パーティは4パーティ、ジェームズ率いるパーティが3人を何とか落としたことで二位の戦績を収めるもそれ以外のメンバーは全てこの男、李 刃に落とされた。
【魔王】討伐選抜戦第一週個人ポイント獲得1位であり、ポイントだけで言えば、蘆原勇剣を上回る怪物。
求めるのは強い者との勝負のみ。
戦闘中毒が、選抜戦を掻き乱す。
***
WAA公式チャンネル、その【生配信】の欄に、動画が流れ始めると眼鏡をかけ、スーツを着た早乙女カナが声を上げる。
「|紳士淑女の皆様方《Ladies and gentlemen》! WAA本部所属、オペレーター兼解説役の早乙女カナです! 【魔王】討伐選抜戦第二週! 昨日の試合は大盛況!
かつてないほどの盛り上がりに、私も熱冷め止まぬまま、精一杯励んでまいります! 今日の豪華ゲストもアルベールさんにお越しになってもらっております!」
「よろしくお願いします」
アルベールが軽く挨拶を済ませるとカナは今日は既に準備が出来ていたのか、彼と会話を交えず、早く試合を見たいのか、興奮気味に口を開く。
「今日は先週強烈な衝撃を残した蘆原選手と李選手の激戦が予想されます! 既に各陣営、既に準備は完了! 今日も大いに盛り上げて参ります! それでは【魔王】討伐選抜戦第八試合! 転送開始!」
分水嶺の第八試合、その火蓋が切って下される。
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