十九話 おじさん、選抜戦に挑む⑰
2人の剣士は互いに全く同じ構えを取っていた。
1人はこれまで築き上げて来た技を持って。もう1人はその積み上げて来た全てを模倣した物を持って。
ある種、対照的な2人は睨み合う。
どちらが仕掛けるか、どちらが踏み出すか、判断を見誤った方の首が落ちる。
轟轟と鳴り響く雷と降り止まぬ雨粒は彼らの邪魔をするが、それら一切を気にしない。
極限までに研ぎ澄ました集中力は雑音を意にも留めず、互いの一挙手一投足を捉えた。
そして、そんな中、彼らはお互い同時に踏み込んだ。
全く同じ、一糸乱れぬ動きのまま、2人は疾り、距離を詰める。
このまま行けば正面衝突、それを制する為に一手を加えたのは川上春であった。
彼は陽炎の刃を見せずに疾走するとレンジとぶつかる直前に声を上げる。
「【合成】、鉄魔法IV× 防壁IV」
防御のための【スキル】、それは今、この瞬間に使用する。
鉄の盾を地面より生やす【スキル】をこの土壇場で使用した意味、レンジはそれを思考するよりも春の首を断とうとした。
だが、その鉄の盾は思わぬ使われ方をされた。
レンジの踏み込む地面より、盾が盾に生えてくるとそれを四つ重ねて突如として彼を空に追い上げた。
「なっ?!」
突如として、空中に追い上げられたレンジであったが、すぐに自分を押し上げた盾の側面から、足場を確保するとそんな彼に向けて、春は万全の状態で空へと飛んだ。
「「無明一刀流、流星」」
互いに放つのは最速の剣であり、飛んでくる春に対して、レンジは彼を迎え撃つ形で【夜叉】を振るう。
空中で互いの刃が交えると思った直前、春は手に握る陽炎へと自身の【魔力】を注ぎ込み刃を伸ばした。
全く同じ剣術であれば、最後の決定打を生み出すのに必要なのは何なのか?
それは突き詰める手が最善であるか否か。
春はそれを求め続けた。
そして、それが今、レンジに対する決定打に成り得た。
「地麝流居合、颯!」
無明一刀流に載せるのは伸びる疾風の居合、地麝流居合。
ここに来て春は持ち前の器用さによる万能を披露する。
刃が重なり合うよりも早く、レンジへと剣は振り抜かれると彼の刀を握っていたのとは別の腕が切り落とされた。
「俺は、アンタに勝つぞ! レンジさん!」
春は叫びながら再びレンジの目の前で、無明一刀流の構えを取る。
一方で、左腕は落とされ、鞘を握る事が出来なくなったレンジは切り裂かれた箇所から溢れる【魔力】を見て、この場に立っていられるのは残り数十秒であることを理解していた。
絶体絶命、今、このまま行けば間違いなく敗北を喫するのは自分。
敗北の二文字が脳裏を過る中、肋屋レンジは冷静に春のいる方向を見た。
かつて、その男はひたすら実戦の中で、腕を磨き続けた。
【魔王】の臣下に殺されぬために、仲間の仇を討つために、【魔王】を殺すために。
男の剣の原点は生存という名の強迫観念。
強豪だらけの戦場は、男の根底にある闘争心を、眠っていた本能を湧き上がらせる。
「無明一刀流、流星!」
最後の一撃を、消え行くレンジの肉体へと叩き込むために、春は盾の上で一歩を踏み出す。
だが、そんな春を一瞬にして横切り、次の瞬間には彼の首が空から転がり落ちた。
「なん」
落下する最中、その首が捉えたのは鬼の背中。
「だと?」
首のまま思わず呟いてしまった春はレンジが片腕で逆手抜刀をしている光景を目にした。
眠りし鬼神の才能は死の直前にて、主人の元へと帰還する。
肋屋レンジは【夜叉】の鞘を口で齧り、無理矢理抜くや否や、逆手での抜刀術を放ち、春の首に刻んだ。
そして、限界を迎えたのか、鞘と共に落下し、レンジは地面に叩きつけられた。
レンジと春、2人の行き着く先は一緒。
彼らは地面に打つかると同時に、【魔力】が限界を迎え、擬似身体の崩壊を持って、第六試合の 決着が着いた。
「激闘! まさかの相打ち! 三つ巴を最後に制する者は居らず! 第六試合! 桂パーティのみの生存のため、終了!!!! 肋屋選手、川上選手の2人のお互いの所属パーティに2ポイント! 個人に5ポイント!!!! そして、桂パーティは3人が生存のため所属パーティに1点追加です! 激動の第六試合の結果はこの通りになります!」
【魔王】討伐選抜戦第六試合
一位 肋屋パーティ 8ポイント
二位 足利パーティ 6ポイント
二位 鈴木パーティ 6ポイント
四位 桂パーティ 3ポイント
個人
一位 水谷シンラ 15ポイント
二位 川上春 10ポイント
二位 肋屋カーマ 10ポイント
四位 鈴木・ジェームズ・ジェパード 5ポイント
四位 那須野・アルディーニ 5ポイント
四位 肋屋レンジ 5ポイント
映し出された集計にカナは興奮気味に声を上げた。
「いやいや! 素晴らしい激戦! 過去最高の盛り上がりでしたね! アルベールさん!」
「お世辞抜きで良い物が見れた。俺でもこの盛り上がりを作れるかは分からない。それほどに良い試合だった。個人的には、水谷シンラ選手、彼を知れたのが1番の収穫かな」
そう語るアルベールの様子をレンジは作戦会議室で眺めていた。
エースと称された自分が今回、ほとんど点を取れず、あまつさえ、春に敗北しかけた。
若者の活躍や、自分に追い越す後世が多くいた事を喜ばしく感じたのと同時、彼らの成長が羨ましくもあった。
「今回は、ごめん。僕が点を取れなかったから思う様にパーティの点が伸びなかった」
頭を下げるレンジを見て、マーラは行儀悪くお菓子を食べながら口を開く。
「はぁー? 何言ってんだお前」
「ええ、謝ったらキレたられた?!」
マーラの突然の怒りにレンジは困惑するもそれにアルディーニは首を縦に振りながら同意の意を示した。
「そうだぜ、レンジさん。今回は俺も同意見だ」
「何で?!」
「だって、レンジさんは確かに点を取れなかったが、あの2人を1人で一箇所で止めてくれていた。これだけでも大きな仕事だ。役割をこなしてるのにそんな風に謝るのはお門違いだよ」
アルディーニは今回の試合、むしろ活躍出来なかったのは自分の方であったと内心思っていた。
ジェームズを落とせず、最終的には彼に落とされた。
師から習っていたはずの油断、慢心を捨てよという教えを破った結果、この事態を招いたことを言葉にしてはいないが悔いていた。
「まぁ、勝ちは勝ちだ。俺も今回で分かった。せっかくだ、【スキル】の調整を行う」
マーラは今回の戦いにて、【魔王】を欺く人間を前にし、その策略にハマったことで普段の彼女からあり得ないほどのやる気に漲っていた。
「? カーマさん普通に飛んでたじゃん、あれは【スキル】じゃないの?」
「ん、あー、そうか。そうだ、オイ、お兄ちゃん、言い訳考えろ」
「ええ?! えーと、アルディーニ、その、カーマは【冒険者】成り立てなんだけど、あ、【ユニークスキル】! それを持ってたんだ! それが空を普通に飛べた理由だよ!」
苦し紛れの文句を並べ、アルディーニを誤魔化すも、彼は何となく彼らにも事情があることを察し、深く言及しなかった。
「なるほどな。それじゃあ、次の試合までに【スキル】の構成を考えようぜ! 」
多くの経験を積み重ね、レンジ達は様々な学びを得ることで第六試合は幕を閉じた。
そして、訪れる第八試合、芦原勇剣の参加する試合。
そこでレンジは知る事になる。
蘆原勇剣、その真なる実力を。
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