十六話 おじさん、選抜戦に挑む⑭
ルリが落とされた瞬間、シンラはその光景を目撃する。
絶対的なエース、自分を率いる存在が、首を断たれるのを瞬間を前にして、シンラは冷静さを失いかけた。
マーラから逃げ、ルリの援護のために河川敷に訪れたシンラであったが、彼女は自身の到着と共に落とされたことを目の当たりにした。
冷静さを欠き、感情のまま走り出しそうな足をグッと止める。自分のパーティの勝ち筋、それを潰さないために、シンラは沸騰した頭を一度、冷まそうと深呼吸する。
(こりゃアカんわ。俺以外全滅。ま、1人は俺が点取られん様に落としたやが。このままだと、負ける。後、1人、そんでもって、俺が生存で合計5点。これが最低条件。はぁー、俺には荷が重いわ)
足利ルリの率いるパーティの残りは1名、水谷シンラ。彼は自身のパーティの勝ち筋を掴み取るために、その身を隠す。
一方、河川敷付近の市街地にて、那須野・アルディーニとジェームズパーティのメンバーの1人、早坂充が対峙していた。
「ダメでしょ、あの間に入るのは」
アルディーニはそう言いながら手に魔弾を生み出し、それを捏ね出した。
(嘘、だろ? この一瞬で魔弾を【合成】、してる、だと。俺が必死に練習しても2分近く掛かった物を、この数秒で? こんなの、勝てるわけが)
無い、そう思った時点で、充は完全に勝機を失った。
充の2分、それを数秒で完成させるアルディーニ。
才能が努力を凌駕する瞬間、人は立ち尽くしてしまい、無意識のうちに思考を停止してしまう。
捏ねるのは魔弾である弾丸と曲芸弾、そして、生み出すのはアルディーニが最も得意とした1つ。
「【合成】、追尾弾 × 水魔法IV」
弾丸と曲芸弾を【合成】し、生み出す魔弾、名を追尾弾。
天候の悪い中、その弾丸が幾つもの軌道を描きながら、充へと放たれる。
追尾弾はその特性上、自身で軌道をある程度決めることが可能。
描く軌道は複雑にすることで、相手にその射線を読ませにくくさせることが出来る。
だが、それは射手に依存し、射手の魔弾への理解、練度と精度、それらによって、追尾弾は魔弾の中でもトップレベルの緻密な操が必要とされている。
それがアルディーニでであればどうでなのか?
答えは簡単。
水の追尾弾は幾つもの弾が準備されており、それらは線を描きながら充の目の前に現れる。
「映画にこう言うのあったよな。俺好きなんだよ」
アルディーニはそう呟き、充を包み込むと彼の放つ追尾弾は檻の中の獲物の肉体を一瞬にして細切れにした。
鮮やかな迄の手つきと容赦のなさ、それら全てをアルディーニは見せつける。
「那須野・アルディーニ選手、鮮やかな決着! 那須野選手所属パーティに2ポイント! 個人に5ポイント!!!!」
卓越した技術を持って、着実にパーティを勝利へと導くアルディーニ、そんな彼に対して、アルベールは評するために口を開く。
「間違いなく、この選抜戦で活躍を見せているのは那須野選手、彼だね。まだ、こんな【冒険者】が潜んでるなんて、嬉しい限りだ」
顎に手を置きながら、アルベールはアルディーニという異能を称した。
「アルベールさん的に、那須野選手は一味違うと言った認識ですか?」
「一味、いや、そんな安い言葉で称するのは勿体無い。彼は異能と呼ぶに相応しい領分へと足を踏み入れてる。アレだけのことをしておきながら、平然としてる彼が俺は恐ろしいよ」
アルベールの眼は他人よりも少し物体の構造を読み解ける眼を有している。
それが捉えたアルディーニの技術は再現不可能。
万物の王を持ってしても解明不可能な技術を会得しているアルディーニ、彼が次に打つ手は1つ。
それはレンジと春の決闘に邪魔を入れさせないこと。
仲間であればレンジの味方をするべきであろう。
それは正論、間違いない。
だが、それではアルディーニの目標には届き得ない。
充が落とされた直後、続々と河川敷に役者が集い始めており、アルディーニは彼らを前にして、声を上げる。
「彼らの戦いを邪魔したいなら俺を倒していけ」
アルディーニの目標はただ1つ。
自分以外の英雄を生み出すこと。
それだけであり、それこそが全てである。
アルディーニが期待するレンジと春は刃を重ね、火花を散らす。
「無明一刀流、番!」
一回の抜刀で2つの斬撃、物理法則を無視した攻撃を春は両手に握る剣と【魔具】陽炎を使い、簡単に対処する。
斬撃を逸らすや否や、春はレンジとの距離を詰め、既に抜刀の準備を終えている彼の間合いにあえて踏み込んだ。
突如として、踏み込んできた春に対して、レンジは驚くも冷静に彼へと必殺の太刀を刻もうとする。
「無明一刀流、烏」
斬撃が黒く染まり、斬撃が訪れる瞬間を悟らせない、無明一刀流の中でも奇襲に特化した一撃。
春に向けて放つのは初めて。
だが、それであっても彼は知っているかの様な動きで自分の首に刀が迫った直前に陽炎を挟み込んで弾いた。
(烏への対策、凄いな。実践でこれをやってのけるなんてどれほど僕を知り尽くしてるんだ?! 技ごとの間合い全てを覚えて、全てに対処できる様にしてるし、凄いな! 彼!)
一度間違えれば死に直結するやり取りの中、常に最善の一手を繰り出す春に対して、レンジは心の底から尊敬した。
若い世代の活躍、それを目の当たりにして来たからこそレンジはそんな彼らと渡り合い、この歳でも高め合えていることに感激していた。
だからと言ってレンジが勝ちを譲る気はサラサラ無い。
全力で撃ち込み、確実に春の動きを削いでこようとする。
その時、1つの転機が訪れた。
習得により、得ていたはずの経験、それは実践を持ってして飛躍を遂げる。
何度も目の前で見て来た無明一刀流、そして、地麝流居合。
習得の過程で染みついた間合いと動作、手つき、息づかい、発動条件。
ブレンドされていた彼らの技を目に焼き付けた。
(今なら、出来る気がする。俺の【魔力】が、何故かそう言ってる)
その【配信】の視聴者達の認知が変わる。
春という人間への評価、万能という認知が変化し、作り替えられる。
『やれ! 春! レンジに負けるな!』
『勝てるぞ! いけ!』
『頑張れ! 春! 万能のその先へ!』
コメントは溢れんばかりの応援コメントに染まるとその瞬間、川上春の肉体に宿る【魔力】が変質する。
レンジは目の前で起きた変化に一瞬で気付き、春が新たな領域に立とうとしていることを感じ取った。
「決着つけさせてもらう!」
間合いは既に必殺の中。
「無明一刀流、流星」
レンジの最高速へと達する直前、春の【魔力】は蛹を破る。
「【ユニークスキル】解放」
突如として、春の視界に四角いホログラムが表示され、そこに刻まれた言葉を叫んだ。
「【ユニークスキル】、完全なる偽者、起動!」
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