十五話 おじさん、選抜戦に挑む⑬
ドカンと音が鳴り響く。
轟轟と吹き荒れる風の中、彼らの沈黙を破る切り裂く様な爆発音。
それを始まりの合図にするには、あまりにも当てはまり、見つめ合う3人はそれを契機に一斉に動き出す。
レンジは春を。
春はルリを。
ルリはレンジを。
全員が各自、別のエースを仕留めようと間合いに入った瞬間に、得物を振るう。
「無明一刀流、星!」
「地麝流居合! 木枯らし!」
「【合成】、鉄魔法IV×斬撃V」
レンジの放つ光速の逆手抜刀、春は彼の間合い、それを習得した通りに読み、大盾によって防御を行う。
最高速に達する直前に盾を前にすることで、強制的に加速を止め、レンジの抜刀の勢いを削いだ。
それを行いながら春は、ルリへと自身の剣の刃より、【スキル】、斬撃に鉄魔法を【合成】した一撃を放つ。
レンジは大盾によって間合いを潰されるもそれ如きで止まる考えはなく、大盾諸共ぶった斬ってしまおうと全身に力を込める。
知を捨てた必死の一撃、それを押し通すことでルリの居合を回避する事を決めた。
そんなレンジの背中目掛けて、ルリは彼を仕留めるために容赦無く刃を叩き込むと共に迫り来る春からの斬撃に対して、自身の肉体一つで回避しようとした。
足利ルリは獣化【スキル】を持っている。
それは猫の獣化【スキル】であり、そのおかげで持ち前のしなやかな筋肉に加えて、軽やかな肉体を得ており、居合を放ちながら飛び跳ね、宙返りをした。
三者三様、人の常識の範囲から掛け離れ、優に超えた動きをしながらも一切、不備なく、それが行えてしまう。
自身の肉体に対しての信頼。
それを持って映し出される殺陣は【配信】で視聴者達を一気に盛り上げ、沸かせ続ける。
3人のやり取りは一瞬、彼らの位置は狙った相手の場所に立っており、全員が相手から目を離さない。
レンジは大盾の上の端を切り落とし、春の首の薄皮を傷をつける。
ルリはレンジの背中に浅いが傷をつけ、春からの攻撃を受けずに避け切っていた。
(やっぱり、俺がこの中で一番弱い。幾ら習得しようが、それを実践は上回る。だが、それがどうした。それが俺が負けていい理由にならない。俺はジェパードと充を勝たせたい。そのためには、俺がこの人たちに勝ち切る。習得のその先、俺だけが出来る戦い方を、見せろ)
己の心を薪に焚べ、炎を燃やす。
川上春が万能と呼ばれる所以、それは彼の持つ特異体質にある。
超記憶症候群、見たもの全てを記憶し、過去の些細なことを鮮明に覚えている超人的な記憶力。
春は人間の動きや、そこにある癖、どころか、対象の持つ得意不得意、技の間合い、弱点、それら全てを分析し、習得が可能であった。
だからこそ、その特異体質を器用に使いこなし、万能と呼ばれるまで、その身に技能を宿させた。
そして、今、春はかつてないほどに闘争心を燃やしていた。
究極の器用貧乏と呼ばれた春、感情の起伏のない、彼が見せる勝利への渇望。
それは何なのか?
理由は至ってシンプル。
2人のエースを目の前にして、自分も彼らに追い付きたい、いや、追い越したいと感じたから。
まだ、他人のために頑張ると言う建前を建てている。
だが、それでは隠しきれないほどに、川上春は今、初めて戦いに悦びを感じていた。
(まだ、舞える。俺はまだ、出し切ってない)
静かに燻っていた彼の闘争の炎に、2人の強者が着火させる。
これにより、春もレンジとルリへと気持ちが追い付いた結果、三者三様、120%の潜在能力を引き出すに至る。
3人が睨み合う中、最初に動いたのは春であった。
レンジに切られた大盾をレンジ目掛けて投げつけるとルリに向かって走り出す。
「私を狙うとはええ度胸してるわ! ぶった斬ったる!」
迎え撃つは名家の剣術を継ぐ者、足利ルリ。天才と呼ばれた剣士は己を分析し尽くした
一方、彼らの戦いに入り込もうとレンジは投げつけられた大盾を何事もなかったかの様に、平然と切り裂く。
「何だ、あれ」
盾を切り落とした直後、レンジの目の前に映ったのは春の戦い方の変化であった。
大盾の後ろに隠したもう一つの得物。
春が取り出したのは【魔具】と呼ばれる物であり、彼がこの戦いのために、甘乃目マウラに作成してもらった一品。
その名を
「揺らせ、陽炎」
刃の無い柄のみの一振り。
丸い鍔と柄のみの異様とも言える武器、それを目にした足利ルリは一気に緊張を高めた。
(何やあれ。得物に刃がない? 何かを放つんか? いや、考えすぎてもあかんわ。叩き込め、私の剣を)
ルリの選択、それは迷わずに己の剣を信じるのみ。
足利ルリは自身の持って、ここに立ってきた。
「地麝流居合、春一番」
放つのは相手の間合いの虚を突く一撃。
振るわれる瞬間に巻き起こる風と伸びる斬撃は相手を真っ二つにしようと放たれる。
タイミングがズレれば一撃で自分の敗北が確定する攻撃を前にして、春は習得によって完成させた自分だけの二刀流をルリへと披露する。
「【合成】 、風魔法IV× 強化IV」
吹き荒れる風を切り裂く様に、春は疾る。
それは第一試合、八十ジュウゾーが見せた高速移動、それに加え、【魔具】陽炎を使った【魔力】による加速。
陽炎、それは無刃の剣であり、刃が無いのではなく、あえて無くすことでその先に【魔力】による変幻自在の刃を宿すことが出来ると言う物。
その刃先を背後に向けることで【魔力】を一気に放出させ、ジェット噴射の様に使い、自身の速度を加速されると居合が春を切り裂くよりも早く、彼はルリの間合いに踏み込んだ。
抜刀と共に刀を抜き切った直後、目の前に現れた春に対して、ルリはほんの一瞬だけ、判断が遅れた。
春は間合いを詰めることで、ルリの斬撃の最大加速地点を潰しており、それによって、速度は普段よりも落ちてしまう。
(コイツ、私の間合いを完全に読んどった。ミリ単位の隙、それを狙ったんか?!)
その判断の遅れ、それが春とルリの明暗を分ける事になる。
ルリは居合を放ち切った。
だが、それと同時に春が彼女の背後に立っていた。
ゴドン、何かが落ちる音がする。
地面に落ちたのはルリの刀を抜いていたのとは別の腕。
春は今、万能からその先に至る。
「ようやく、あんた達に追い付いた」
春の呟きはルリに届いたのか、それを聞き、敵ながらも讃えた。
「天晴れや」
ルリはその一言を残し、春を讃えながらも片腕で剣を抜こうとする。
最後までその闘争心を絶やさなかったルリに対して、春もまた、敬意を払い、彼女の首を断った。
「三つ巴の決戦、その一角! ついに落ちた! 川上春選手、まさかの大金星! 足利ルリ選手を落としたぁ!!!! 川上選手所属パーティに2ポイント! 個人に5ポイント!!!!」
実況の盛り上がりは最高潮、そして、それと同様に春の気持ちも昂り、かつて無いほどにボルテージが上がり切っていた。
「次はアンタだ、肋屋さん」
春は先程まで、起伏のなかった顔から見せたこともない喜びの笑顔と手に握る得物の先をレンジに向けた。
三つ巴の一角が落ちた中、2人となった決戦は仕切り直し。
第六試合、佳境へと入る。




