十四話 おじさん、選抜戦に挑む⑫
マーラの意識外から2つの魔弾が迫る。
シンラに目を奪われ、その興味を彼のみに注いだ結果起きた事態。
(俺がコイツだけを見て、他に視線を逸させない様にするために自らを囮にした。あははは!!!! 面白い、面白いな! 人間! 俺が知らない技術もそうだが、この愚直なまでの策に【魔王】を嵌める小賢しさ。素晴らしい! 素晴らしいなぁ!)
だが、マーラは自身に迫るピンチで笑う。
マーラへ魔弾が放たれると同時、シンラは既にその場から離れており、彼女を仕留め切った確信を持って、その様子を眺めていた。
だが、邪悪なまでの微笑み、マーラが浮かべたその笑顔をシンラは目撃した瞬間、底知れない恐怖を理解感じ取った。
「【波旬】守れ」
全自動防御の命をつけていた【魔王】の不可視の愛器、波旬】はマーラの言葉に呼応して、魔弾の1つを弾き落とす。
カチンと地面に弾かれた魔弾は風の込められたもので、アスファルトを簡単に砕いた。
それと同時に、マーラは駆ける。
魔弾を放った1人、冲宗一の元へと向かって行く。
もう1発残った魔弾を前にして、マーラは彼らの策を称し、左腕を前にした。
「俺の奢りだ。ちゃんと、受け取れよ」
ドォォォンと爆発音が鳴り響き、マーラは自身の左腕が吹き飛ばされる。
だが、その代償により生まれた煙から突如として、マーラは真っ直ぐに冲宗一の目の前に現れた。
「嘘やろ、そんなんかありか」
片手を失いながらも微笑む姿は悪魔の様。
【魔王】の振るう紅いの太刀、それから放たれる真っ直ぐな一撃は、宗一の首を簡単に切り落とした。
「な、何だ!? 絶体絶命の中を掻い潜り、肋屋カーマ選手! まさかのポイント獲得だ!」
実況席でマーラの動きを写した映像を見て、カナは理解が追いついていないがそれでも実況をしようと口を動かす。
一連の流れを全て見ていながら、理解出来たのはS級含めて数人のみ。
普通の人間であれば諦める程の絶望を前にして、一切、動じず寧ろ、それに挑み打ち砕く姿勢。
シンラも同様に目の前で起きたマーラの異常性、それを見て、思わず声を漏らしてしまう。
「あんなん、どう対処すればええや」
シンラが声を漏らしたと同時、マーラは次の得物へと視線を向けた。
それは冲宗一から少し離れた位置にいた足利パーティの1人、大久保アラタ。
「次」
マーラはすぐさま、それに狙いを定め、浮遊術を使い、距離を詰める。
この間、凡そ10秒。
10秒の間に、シンラはそのマーラの狙いを理解した上で決断する。
「【合成】、貫通弾×雷魔法V」
マーラはシンラなら、自分の動きを見て、咄嗟の判断が出来ると読んでいた。完全でないにしても【魔王】の【魔力感知】から逃れられる程の繊細な【魔力】コントロールと自分をも嵌める策士であるシンラに向けて、マーラは一種の信頼を向けており、仲間が追い詰められたこの状況であれば、彼は自分を狙って弾丸を放つであろうと踏んだ。
雷の込められた魔弾、それは作られると同時に真っ直ぐに狙いに向かって走る。
マーラは自分を狙った魔弾を弾こうと【波旬】を不可視の状態で全自動防御を命じていた。
(さぁ! お前の考え、真っ向から否定してやる!)
マーラはシンラという天才を出し抜こうと大久保アラタとの距離を詰め様とした。
だが、マーラの獲物は予想外の結末を辿ることになる。
シンラの放った魔弾、それはマーラが狙ったアラタ頭蓋側面を貫いた。
「な、はぁ?!」
マーラは動揺で声を上げた。
何が起きたのかさっぱり不明。
(コイツ?! 仲間を撃ち殺した?! 何でだ?! 何で、俺ではなく、仲間を撃ち殺した?! 何が理由が?! いや、そうか! コイツ、思ったよりも試合を見据えてやがる!)
その意図を読み取るにマーラは数秒を用いてしまう。
実況席もものの数十秒で事態が動いたことで反応が遅れるも何とか追いつこうとカナは口を開く。
「ま、まさかの味方を撃つなんて!? こ、これはどうなるんですか?! 総則にこんなのは無いので、これは後ほど判定が入ります!」
「やっぱり、上手いね、水谷選手。あの状況でも試合の勝ち筋を見出してる」
焦るカナとは裏腹にアルベールは自体を冷静に見極めていた。
「と、と言うと? ど、どう言うことですか?!」
「カーマ選手に点数を取らせないためにワザと仲間を撃ったんだ。あの場であの判断を下すなんて、彼、相当盤面を見れるタイプだ」
シンラが仲間であるアラタを自身の手で殺したい理由、それはこれ以上、マーラにポイントを与えないため。
相手にリードを渡さない、現状維持を保たせるための判断をシンラは咄嗟に下した。
マーラはその判断を理解したと同時、自分を出し抜いたシンラに向けて、更なる興味を抱く。
市街地での一悶着、それと同時にレンジ達、エース3人の三つ巴の決闘も佳境へと入っていた。
「地麝流居合! 花信風!」
レンジの背中、それ越しに見える春、2人に向けてルリは必殺の居合を放つ。
刃は既に何度もレンジと技を放ったことで、斬撃は最長となっており、長さから生まれる破壊力を持って、彼らを切り裂こうとした。
レンジはその居合を背後を向かずに、大気にある【魔力】を蹴り上げることで横に飛んで回避するとルリの一撃は春1人へと襲い掛かる。
それに対して、春は突然、レンジが浮遊【スキル】も使わずに飛んだことに驚くも迫り来る居合には、冷静に判断をした。
「鉄魔法IV」
大盾に鋼を纏わせ、風の居合を弾くと3パーティのエースが邂逅を果たす。
嵐の中、剣豪、侍、万能手、役者3人揃い踏み。
雨で視界がボヤけるも彼ら自身が視線を交えて得物を構えるその様は、言葉など一切不要、無粋な物は何もなく、ただひたすらに己の武を打つけるのみ、そんな気持ちの現れ。
「春さん。俺はアンタだけに背負わせる気はない」
だが、このそんな彼らを狙う1つの影。
鈴木パーティ所属、春のパーティメンバーの1人である早坂充は彼だけに重責を背負わせまいとここぞと言う時に使おうと生み出した砲弾を構えた。
弾丸同士を【合成】して生み出した砲弾、充の技術ではここに【スキル】を加えるのは難しかったので、そのままそれを3人がいる場所へと向けた。
先週の試合、自分が隙を突かれ、それを庇う形で春がやられてしまったことを充は悔いていた。
だからこそ、密かに練習した魔弾の【合成】。
時間はかかるが今、誰もがその視線の先を相手にだけ向けているこの瞬間を狙って、巨大な魔物を1発で屠る砲撃を放つ。
「行けえ! 砲弾!」
彼らの間合いギリギリから放つ、充の渾身の一撃。
真っ直ぐに放たれた砲撃は残り、20メートルで彼らに着弾する。
否。
「【合成】、弾丸×貫通弾× 鉄魔法IV」
1分かかるとされた魔弾同士の【合成】、それを一行程で行い、充の放つ砲弾を貫き破壊する。
「は? え?」
自分が数分をかけて生み出した一撃を最も容易く通り越し、追い越す存在に充は困惑を隠せなかった。
「ダメでしょ、あの間に入るのは」
そう気さくに荒れた天気の中、空より喋りかけたのは那須野・アルディーニ。
そして、その破壊音と共にエース3人は一切にその得物を振り抜いた。
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