十三話 おじさん、選抜戦に挑む⑪
川上春、彼は万能である。
凡ゆる分野で平均以上、常に優秀と称される男。
だが、突き詰めることはしなかった。
いや、突き詰めると言うことが出来なかった。
一言で称するならば、究極までの器用貧乏。
彼は何かを極めることは出来ない。
しかし、極めないことで、凡ゆる手段を兼ね備える万能手と成れる。
そして、それが最も発揮されるのが【冒険者】という職であった。
駆けるレンジが放つのは無明一刀流、基本の型であり、最速を目指した一撃。
「無明一刀流、流」
レンジの放つ光速の逆手抜刀、刃が鞘から獲物の首へと走り去る。それに対して春はあえて彼の抜刀術を真っ向から受けて立った。
「【合成】、鉄魔法IV× 防壁IV」
レンジが放つ抜刀に対して、鉄製の壁が4つ地面より生えるもそれらを一瞬にして、真っ二つにする。
だが、肝心の春本人までに届いておらず、【夜叉の漆黒の刃は彼の分厚い大盾を切るにに至らない。
レンジの無明一刀流が、人間に初めて真っ向から防がれた。
(防がれた。盾くらい切り落とすつもりで放ったのに僕の剣に間に合わせるようにピンポイントで【スキル】を使ったね。でも、少し合い過ぎてる。まるで僕のことを知り尽くしたかの様なタイミング)
レンジはその防御から感じ取った違和感に気づくも断ち切れなかった大盾によって視界を遮られた状態から春は次なる一手を取ってきた。
「【合成】、鉄魔法IV× 曲芸弾」
大盾の背後より、襲い掛かるは鉄の弾丸。
それらは弧を描き、レンジへと放たれる。
一個一個は小さいが当たれば動きに支障を来たすのが分かる魔弾に対して、レンジは刀を抜かずに春から遠ざかる様に避けた。
後ろへと避ける中、そんな彼に向けて、その背後より、1人の剣士が迫る。
「2人纏めて、ぶった斬ったるわ!」
先程までレンジへと遠距離居合を放っていた筈の足利ルリ、彼女がレンジの背後に浮遊【スキル】を使って、現れると腰に差した鞘から一気に刀を抜く。
「地麝流居合! 花信風!」
レンジとその前にいる春、彼ら2人を巻き込む様にルリの居合は放たれた。
川辺の三つ巴の戦いが加速する一方、他の面々も徐々に戦闘へ突入する。
川辺から離れた市街地にて、マーラと敵対するのは鈴木・ジェームズ・ジェパードと第二試合2位の戦績でこの試合への参加が決まった桂パーティの1人、高田シオンであった。
マーラはジェームズを見た瞬間、彼と戦うよりも初めに浮く駒を狩りに行こうと動き出す。
「ひっ!」
シオンは襲い掛かって来たマーラが放つ一撃を手に握る剣でなんとか防ぐ。
彼女もまた、A級【冒険者】と言う高みに至るために死に物狂いの努力をしてきた。だからこそ、体が咄嗟に反応に最悪の状態で最高の判断を下せた。
だが、その一撃に【権能】を込めると斬撃から空気の刃が生まれ、防御を無視して、彼女の体を切り裂く。
筈であった。
街の中、マーラの視界の真横、雨風が見えにくなっている中、1人の【冒険者】が彼女達へ向けて1発の魔弾が放たれる。
「【合成】、電撃弾×雷魔法V」
電撃弾、それは魔弾同士の【合成】によって生むことが出来る魔弾の中でも最も早い弾。
弾速は放ってから加速するのではなく、最初から最高速であり、弾を目で追うことが不可能である程。そこに重ねて雷魔法の【スキル】を合わせたことでその速度は音速をゆうに超えていた。
しかし、魔弾の【合成】には難点がある。
それは1人を除いて、【合成】するのに時間がかかると言うもの。
容量がよく、器用な人間であれば1分ほどで可能だが、普通の人間であれば1つ作るのに3分は要する必要がある。
今、その弾丸を放った主は1分を切る形で魔弾を【合成】し、放っており、雷の電撃弾はマーラの獲物を奪い取る形で功をなした。
マーラの目の前でシオンの首が弾け飛ぶとその直後に彼女の【権能】の空気の斬撃が体を切り裂く。
「あ?」
マーラは試合開始直後より、【魔力感知】を怠っていない。巨大で小さなマス目の網を広げていたにも関わらず、それから逃げ出し、自分の獲物を奪い取った者へと殺気を向けた。
(うわ、ありゃ、あかんわ。まともにやり合ったら死ぬ。まだまだ掻き乱す必要あんねんこっちはとりあえず退散しましょか)
視線の先にいたのは足利パーティ所属、水谷シンラであり、彼はマーラの放つ殺気に気圧され、すぐに逃走の一手を取っていた。
「第六試合、最初のポイント獲得は足利パーティ所属、水谷シンラ選手! 水谷選手所属パーティに2ポイント! そして、個人に5ポイント追加!」
突如としてポイントを掻っ攫っていったシンラに対して、カナは急いで実況を入れる。
「まさかの展開! 横取り掻っ攫い! しかし、これもまた面白い流れ! アルベールさん、予想外でワクワクしますね!」
「そうだね。魔弾の【合成】と言う珍しい物も見れたし、勉強になった」
「魔弾の【合成】、これは難しいことなんですか?」
カナの質問に対して、アルベールは再びホワイトボードを取り出し、図を描きながら説明を始めた。
「難しいと言うよりも感覚的に得手不得手があるって感じかな。【合成】は足し算。1+1は誰もが簡単に使い熟せるだろう? だけど、魔弾の【合成】は左右で違う物同士を混ぜ合わせる実験みたいな物。混ぜ方によっては失敗するし、結果を出すには時間がかかる。そこに【スキル】の足し算をするとなると正直、脳でやることは決めててもやってみたら成功しない状況の方が多いんじゃないかな」
「分かりやすい解説ありがとうございます! それを水谷選手はやってのけていたってことですね!」
「それと彼がすごいのは、【魔力感知】を潜り抜けながらやってのけたことかな。本当に微粒なレベルでの【魔力】操作を行いながら【合成】して、奇襲を成功させる。水谷選手、相当実力を隠してるね」
アルベールから称賛される一方、当の本人ははマーラから逃れようと一目散に街中を駆けていた。
「死ぬ死ぬ! ありゃあかんって!」
獲物を横取りされた怒りと自分をも出し抜いた【冒険者】への興味からマーラはシンラを追いかけ回す。
(コイツ、俺の間合いギリギリで移動しやがる。自分の出せる速度をそれで調整しながら俺を誘ってやがるな? 良いぜ、乗ってやるよ)
マーラは浮遊術を使い、一気に加速すると一瞬にして、シンラの目の前に現れた。
「俺の獲物を奪うとはいい度胸だ、一撃で死ね」
マーラはそう言うと【我射髑髏】を空に翳した。
「すまんな、嬢ちゃん。これも俺らが勝つためや」
シンラは既に得物を構えたマーラに対して、目の前で魔弾の生成を始めるもそれよりも早く、彼女は【我射髑髏】を振り下ろした。
「今や、全員攻撃」
その声と共に、マーラ目掛けて2人の【冒険者】の影が伸びる。
「【合成】、炎魔法IV× 貫通弾」
「【合成】、風魔法IV× 貫通弾」
彼らは足利パーティの大久保アラタと冲宗一。
シンラはこの展開を作り出すためにマーラの怒りを自身に向けさせた。
盤面を見る天才、それこそが水谷シンラであり、この状況を生み出すために自分を危険に晒す覚悟のできた男である。
炎と風の魔弾は左右より、放たれるとそれらは無防備に晒されたマーラへと襲い掛かった。
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