三十七話 おじさん、選抜戦に挑む㉟
「退け、肋屋レンジ!!!!」
マナカがマーラの結界に閉じ込められて2分30秒が経過した頃、勇剣とレンジの戦いは死闘を極めていた。
勇剣は本来であれば取り出せるはずのなかった【魔具】を自身の影から持ち出せる様になっていた。それどころか、地面の至る所に彼の【魔具】がそこら中に溢れ出しており、無数の手数でレンジを追い詰める。
一方、レンジはそれら全てに冷静に対処しながら、マーラの結界が破壊されない様に撃ち合っていた。
(あの数の【魔具】を納めながら肉体に一切、不備を与えないなんて、底知れない許容量だ。マーラ、頼むよ。これ以上は僕の方も限界が来るぞ!)
勇剣には、S級になり得る才能があった。それをアカシャに紐づけられてしまっているマナカを抑え込むために才能を割いてしまっており、今、その繋がりが弱まったことで成長の曲線の波が一気に押し寄せており、蘆原勇剣というダイアモンドの原石が突如として輝き出した。
残り30秒。
勇剣はレンジを押し除けようと適した【魔具】を取り出す。
「纏われ、蛇深鞭」
指示に従い、至る所に刺さっている【魔具】の中から、勇剣が指示した物を彼の影から自動で現れる。
右手に殲滅大君、もう片手に蛇深鞭。
得物を握りしめ、勇剣はレンジへと距離を詰めた。
2つの【魔具】を勢いよく振るう勇剣に対して、レンジは逆手抜刀による防御で、簡単に弾き返す。
「括れ」
勇剣は蛇深鞭を握っていた片腕を前に向けるとレンジの地面から魔法陣が幾つも浮かび上がり、そこから【魔力】で生まれた蛇が彼を拘束した。
レンジは拘束されかけるもすぐに、得物を抜き、一瞬で蛇を真っ二つにするも勇剣はその隙を狙って、一気にマーラの結界へと駆けた。
「やら、せない!」
残り20秒。
遅れを取ったレンジであったが、すぐに無明一刀流の構えを取るとダンと勢いよく踏み込み、黒い雷と共に疾走する。
「無明一刀流、雷」
結界と勇剣の間に、レンジはギリギリ入り込み、黒い刃と白い刃が重なり合った。
「殲滅の陽光」
互いの刃が火花を散らす中、勇剣は【魔力】を滅する光を集め、解き放つ。それを逸らさんとレンジは勇剣の得物を弾き、鞘に【夜叉】を納め、すぐに【魔力】を変え、切り返した。
「無明一刀流、飛龍星!」
【魔力】を燃やす蒼炎と【魔力】を滅する光が互いに鬩ぎ合いながら、鮮やかな閃光を生み出す。
残り10秒。
マーラがアカシャの魂を落とし、儀式が完遂するまで最後の攻防。
レンジを中々押し切ることが出来ない勇剣は、痺れを切らしたのか、彼の作り出した秘奥の【魔具】を取り出すために撃ち合っている腕とは違う方の手を、自身の影に翳した。
すると、そこから剣身が少し太めの片手剣が現れ、それを握るとレンジ、いや、結界ごとをぶった斬ることを決めた。
「別て、天断」
勇剣が取り出したのは、彼が生み出した得物の中でも殲滅大君に追随する性能を持った一振、【魔具】天断。
それに能力は無い。
無い代わりに【魔力】を注ぎ込むことで一振りの威力を跳ね上げ、一太刀で使用者によっては凡ゆる物を断ち切る魔剣と化す。
|単純こと最強《Simple is best》、その言葉の体現である。
それを勇剣は容赦無く振るうと【魔力】を帯びた斬撃がレンジとその背後にある結界ごと断ち切ろうと襲い掛かる。
(このデカさ、防ぎきれない?! どうする?! 飛龍の蒼炎を巻き上げて、ギリギリまで抑え込むか? 勇剣の体がガラ空きだし、そこを突いて意識を遠ざけるか? クソ!? どうする?! 考えろ考えろ! 肋屋レンジ! 振り絞れ! 今ある手段を!)
この間、凡そ0.2秒。
一手遅れれば、その時点で儀式が終える前に結界が破られる。
迫り来る選択の中、レンジが1つの判断を下す。
「【夜叉】! 燃やせ! 僕の【魔力】を燃やし尽きるまで!!!!」
黒刀・【夜叉】へと下した命は、指向性を前方のみ、結界を除いて、自分すらも巻き込み、その周辺の【魔力】を燃やし尽くすという物。
蒼炎は無制限に燃え広がり、レンジと勇剣を巻き込んで轟轟と焼く。
「うおおおおおおおおおおォォォォ!!!!!!!!」
勇剣の振るう一太刀は一瞬ではあるが、その威力が抑えられ、結界とレンジ両者を切り裂くのに数秒の猶予が生まれた。
だが、抑え込んだからと言って、その全てを消すことは出来ない。
数秒の猶予は消え、結界の外殻に魔剣の一太刀が打つかる。
(どっちだ?! マーラの結界が制限時間で崩壊したのか?! それとも勇剣の剣が当たって外殻が切られたのか?!)
残り0秒。
レンジの作った時間の猶予、3分に及ぶ、防衛戦の結果は…。
外殻は、勇剣の魔剣の一撃とマーラの【ユニークスキル】の制限時間により、同時に崩壊する。
黒い幕に覆われていた結界が崩れ、中の様子がようやく明らかになるとマーラの目の前には、白い光の様な物が浮いており、彼女は笑顔を浮かべた。
「肋屋、カァァァーーマァァァァァァァァ!!!!」
その笑みを前にして、蘆原勇剣は悟る。
マーラの目の前に輝く光がマナカであり、彼女に何かをされて、姿を保てなくなってしまった事を。
「あははは! キレてやんの。後は任せたぞ、レンジ」
マーラはそう言うとレンジの背を無理矢理引っ張り、彼を体を逸らさせた。
「カーマ?! 何を!?」
レンジが呟いた次の瞬間、激情に駆られた咆哮と共に、天断を振るわれ、その刃から、見たことの無い巨大な斬撃が放たれるとマーラの首を一瞬にして、断ち切られた。
「【魔王】討伐選抜戦最終試合! 式神と離されたのにも関わらず、その強さは健在! 肋屋カーマ選手への奇襲を成功させ、激戦を制したのは、蘆原勇剣選手!!!! 所属パーティに2ポイント! 個人に5ポイント!!!!」
カナの実況により、視聴者が盛り上がる中、勇剣の目には地獄が広がった。
目に映る物が全てどうでもよくなり、今の自分もどうでもよく、虚だけが今の自分を包み込んだ。
(マナカ、マナカは、死んだ、のか。僕が、僕がこれに巻き込んだから。また、僕が巻き込んだんだ。あの時も、僕が迷宮にある稀少な鉱物を取りに行ったから、マナカが死んで、そうか、全部、僕の)
「コラ! 勇剣、前を向きなさい!」
暗闇が頭を支配していた勇剣に、声が聞こえてきた。
「マナ、カ?」
前を向くと、そこには先程までマーラの目の前にあった魂であり、それが愛歌本来の姿を成して、勇剣へと喋りかけていた。
「何よ。幽霊でも見たみたいな顔」
勇剣のキョトンとした顔に、愛歌は少し腹を立てながら、顔をジッと見つめるとそれに対して、彼は再び口を開く。
「本当に、本当に愛歌なのかい?」
「ええ、私よ。でも、今やるべきことは違うでしょ。積もる話もあるんだから、とっとと目の前のおじさん倒しちゃって」
マナカはレンジの方向を指差すと、彼は既に勇剣のことを待ち構えていた。
「ふー、成功したみたいだね。カーマのヤツにヒヤヒヤさせられた」
レンジは勇剣に和やかに喋りかけるとそれに対して、彼は真っ直ぐと前を向いたまま尋ねた。
「あなた達は何が目的なんだ」
勇剣の眼は以前とは違う、光の様な物が差しており、それを見て、レンジは笑いながら答えた。
「君の全力をぶつけて欲しかっただけ。それにこれでようやくフェアだ。これは、この前の強盗を捕まえてくれたお礼。僕からのささやかながらのプレゼントと思って」
レンジの言葉を聞き、勇剣は頬を伝っていた涙を拭きながら、両手に握る得物を構える。
「そうか。なら、これからが本番だ。今まで見せたことの無い全力疾走。これからあなたに見せつける。だから、全力でそれに答えてくれ」
レンジと勇剣、その言葉を皮切りに最後の攻防へと突入する。
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