三十八話 おじさん、選抜戦に挑む㊱
***
「レンジ、今回の選抜戦。俺がマナカの相手をする」
レンジの部屋の中で、マーラは彼に向けて宣言した。
「お前、この前、あれだけ喧嘩腰でマナカに絡んでるの知ってるんだぞ? 僕がそれを良しとすると」
「アイツはアカシャだ」
「アカシャ?」
聞いたこともない言葉に、レンジは首を傾けるとマーラは嫌々ながらも答えた。
「俺が殺して来た【魔王】の1人。ソイツの魂が交わってる」
「待て待て、【魔王】を殺した? どういうことだ? 【魔王】は6体だけって言ってたよな? 7体目がいるのか?」
「これ以上は言えない。何れ話すが今は待て。ただ、今のマナカってのは、危険な状態だ。いつかアレは【魔王】に取って変わり、蘆原勇剣の身を食い尽くす。だから、その前に俺が処理する。それの代わりにお前と【契約】してやる」
マーラの言葉に疑問はあれど、彼女が誰かを害そうという雰囲気ではないことをレンジは感じ取り、ため息を吐いた。
「はぁー、分かった。お前がそこまで言うんだ。いつか話してくれるんなら、その時じっくり聞くさ。それよりも何で【契約】なんだ?」
「俺とアカシャがやる代わりだ。交換条件で【契約】する。何でもいいぞ。俺に食器洗い毎日させるとかでもな」
マーラ的にはそれはただの交換条件であり、レンジを自分がアカシャと戦っている間の護衛として扱うための物であった。
「アカシャを殺した後、マナカはどうなるんだ?」
「あ? そりゃ、消滅するしかねえだろ。元より死んだ人間、それも魂なんてもんを、縛れるのなんてよっぽどデカい【魔力】を持った人間だけだ。アカシャと切り離されれば死あるのみ」
「そうか。勇剣について、調べたんだが、かつて、砂上愛歌っていう恋人が居たらしいんだ」
レンジの言葉で何となく彼が要求したいことを理解するもマーラはそれに対して、否定的な態度を示した。
「俺の力でその愛歌の魂を現世に留まらせるってのは無理だぞ」
「【魔王】なのにか?」
「【魔王】でもだ」
ハッキリと無理だと答えたマーラに、レンジは追い打ちをかける様に口を開く。
「じゃあ、何でお前はこの世界に魂だけで、居座れたんだ?」
「そりゃ、お前の【魔力】に縛る禁術を。…、チッ。お前そう言うことかよ」
レンジの目論見を理解し、マーラは露骨に嫌な顔を浮かべたが、逆に彼は得意げな表情で彼女の眼を見た。
「僕の【魔力】で事足りたんだ。勇剣なら、問題無いだろう。マーラ、これが僕との【契約】だ。お前がアカシャとやらを倒す間、僕が勇剣を食い止める。代わりに、マナカの魂を救ってくれ」
***
そして、成立した【契約】は成され、勇剣の【魔力】に愛歌の魂を紐付ける事に成功した。
結果、勇剣はかつて無いほどに満ち足りており、そんな彼へとレンジは自身の全力をぶつける。
「無明一刀流、 迦具土神!」
「別て、天断」
蒼炎が舞い、それを【魔力】の斬撃によって弾く。
【魔力】を薪に燃やし尽くすはずの蒼炎の真価を、勇剣の底無しの【魔力】によって放たれる斬撃が十分に発揮させない。
不条理と言わんばかりの力を見せつけられる撃ち合いの最中、レンジは勇剣の強さを噛みしめていた。
(凄いな! さっきまでは【魔力】を燃やせたはずなのに、今はそれが出来ない! これが勇剣本来の強み。無制限に溢れ出す【魔力】とそれに伴う、圧倒的な【魔力】出力! そして、どんな状況にも適応可能な【魔具】の数々。気を抜けば、一瞬で!獲られる!)
そんなレンジを詰めるために、天断を地面に落とすともう片方の手を開けた。
「愛歌、アレ」
「人使い荒くない?! 私、目覚ましたばっか!」
勇剣の近くで浮いていた愛歌であったが、文句を言いながらも、その指示に沿う様に、自身の影に手を置き、新たな【魔具】を取って、それを彼に手渡した。
「ありがとう。それじゃあ、行こうか。廻せ、宵輪」
愛歌が手渡した4つの車輪に、棘の様な物が生えた【魔具】を勇剣は投げると、それらが空中で回転し始め、レンジへと自動で襲い掛かる。
宵輪は、勇剣の生み出した【魔具】であり、【魔力】を帯びる事で、ルートを決めて、空中を旋回する。
「無明一刀流、飛龍!」
逆手抜刀から放たれる蒼炎によって、宵輪を切り落とされた。
だが、勇剣が、レンジへとそれを放ったのは、道筋を定めるため。誘い出されたレンジの目の前に映ったのは、愛歌に手渡された拳銃を握りしめた、勇剣の姿であった。
「空けろ、明翼」
真っ黒な拳銃はグロック17をベースに作られた【魔具】であり、それもまた、勇剣の生み出した物。
引き金が引かれた瞬間、【魔力】によって弾丸が生成されるとそれは火力を増強させ、炎の柱が銃口より、放たれた。
横に避けるには時間が足りず、正面より、それを受けるしか無い状況であるレンジであったが、既に【夜叉】は鞘に納め、次の一手を打っていた。
鞘を捻り、【夜叉】の能力を切り替え、抜刀する。
「無明一刀流、結」
漆黒の刃が姿を現すや否や、主人の命に従い、その場には一瞬にして巨大な氷山を生み出すと炎の柱からレンジを守り切った。
そして、2人は、視界を遮られた中、間違いなく真正面にいるであろう、お互いに集中し、真っ直ぐ前を向きながら、呼吸を整える。
(勇剣の手札はまだまだ、尽きない。けれど、こっちの手札はもう殆ど残ってない。困ったな、どうしようもなくピンチなのに、笑ってしまう。よし、残りの【魔力】と全部を使って、仕留めよう。彼に僕の全身全霊をぶつけて、正面から勝ちを取る!)
レンジは考えはまとめ切ると大きく深呼吸をしながら、【夜叉】の鞘を握りしめた。
一方、勇剣と愛歌は、見えなくなっているレンジが何を仕掛けて来るかを話していた。
「愛歌、僕は次、どうすれば良いかな」
「私に聞かれても分かんない。けれど、おじさんの【魔力】の浮き沈みが無くなってる。アレは間違いなく、次の撃ち合いで決めて来る気だよ」
「そっか。なら、僕もそれに応えないとね。愛歌、見てて。僕の全身全霊を」
勇剣はそう言うと持っていた明翼を地面に落とし、両手で殲滅大君を握り、その刃を前にした。
「もうここまで来たら小細工は要らない。全力でレンジさんを迎え撃つ。見てて、愛歌。僕の全身全霊を!」
勇剣は殲滅大君を構え、その刃に【魔力】を全力で注ぎ込む。
氷山を隔てて見つめ合うレンジと勇剣。
頂を目指した2人の剣士は、互いに互いへ想いを馳せ、両者共に前だけを見る。
興奮はある。
だが、それ以上に相手に向けるのは敬意と絶対に勝つと言う信念があった。
それが自分を落ち着け、決着間際の手の震えを沈める。
「レンジさん」
「勇剣」
見えないのにも関わらず、彼らは互いに相手の名を呼び、そして、同じ台詞を叫ぶ。
「決着と行こうか!!!!」
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