泥の印
山から戻った荷運びの若者が、谷の水の図面を持ち帰った。紙の端に黒い指跡があり、読み取れない場所がある。エダは怒りかけたが、若者は吹雪を避けた時に手袋を濡らし、紙を取り落としたと説明した。大切な書類だったことは理解していた。
ミラはもう一枚写しが谷に残っているか尋ねた。幸い使者は同じ図を木板にも刻んでいた。ただし縮尺が違うため、細部をそのまま比べられない。谷の村へ確認を頼むと決まり、若者は自分で謝りの手紙を書きたいと言った。
書類を包む布の試験には、雨水を上から落とす役と中の紙を見る役が必要になった。ルークは水を勢いよく掛けたが、フェルンは峠の雨の強さを再現したことにはならないと告げた。水の量や時間をそろえて少しずつ比べる。縫い目から湿りが入ると、レアは糸の種類を替えた。結局、完全に濡れない包みは作れず、急な豪雨なら別の避難が必要だと確認した。ミラは試作品へ「防水」と書くことを許さなかった。
紙を包む油布を買おうという案も出たが、村の書類すべてに使えば高く付く。レアは端切れを縫い合わせ、濡らしても開けられる包みを数個作った。防水を保証するものではない。どの程度の雨に耐えるか、庭で試してから峠へ出すことにした。
包みの角へ小さな吊り紐を付け、荷袋の底で水に浸からないよう工夫した。
若者は完成した包みを受け取り、「紙を運ぶ仕事を軽く見ていた」と話した。フェルンは荷の軽さと責任の軽さは同じではないと答えた。ミラは失敗の跡が残る図面をしまった。黒い指跡は消せなかったが、何を直せば次の伝言が届くかは、少し見えるようになった。




