9話 夫婦の部屋
ラディーと名前を変えたアスラス様と私が乗った馬車は、ロウタス侯爵領へと向かっているのだが、途中で九夜、宿に泊まらなければならない。
実は、これに関して、私は大いに悩んでいた。
深く愛し合っている夫婦だと話した以上、夜の営みはあって当然のことである。
だけど……、私はまだ男性経験がない。
いたって清い乙女なのだ。
ラディ―に、私が処女であることがばれてはいけない……。
いろいろ言い訳を考えているうちに、馬車は宿に到着した。
領地へ行く際にいつも使っている宿は、侯爵家の名に恥じないような立派なホテルである。
重厚な門構えを抜け、フロントに入ると、スタッフが迎えてくれた。
「リリア様でございますね。ご夫婦様のお部屋にご案内いたします。御者様はこちらに」
私たちが到着する前に、父が出した早馬で、宿泊予約は既に完了している。
どうしてこんなにも父が協力的なのかと言うと、これは私と父の約束ごとだったからである。
10歳の誕生日に、私は政略結婚を選ばず、闇ギルドの一員になることを選んだ。
これにより、父は私の結婚に対して、一切手を出さないことを約束した。
つまり、結婚相手は自分で捕まえてこい!と言うことなのだ。
そして私が選んだ結婚相手が、ロウタス家にとって有能な人物である場合、侯爵領の北部にある領主代理の屋敷をもらえることになっている。
だが、無能であると判断されたら、二人一緒に追い出される。
父は、私の結婚相手が有能か無能かを判断できるようになるまでは、反対せずに協力しようと約束した。
だけど、私はずっとラディーを見てきたから確信している。
彼の頭脳は、絶対にロウタス家にとって助けになると……。
ホテルのスタッフが、私とラディーを夫婦の部屋に案内した。
「お二人のお部屋はこちらでございます。どうぞごゆっくりおくつろぎください」
部屋に入ると、どんと置かれた大きなベッドが目に飛び込んできた。
ああ、わかってはいたけど、やっぱり……。
部屋に置かれているベッドは一つ。そして、シーツは白い。
もし、ことに及んでしまったら、私たちが夫婦でないことがばれてしまう……。
「あ、あの……、まずは夕食をいただきに行きましょう」
部屋にいることがいたたまれなくて、私はラディーを一階のレストランに誘った。
「ああ、どれも美味しいね。おや、リリア、食が進まないようだね」
「え、ええ。ちょっと疲れたみたいで……」
せっかく出された美味しそうな料理も、緊張で食べた気がしなかった。
結局、早々に食べ終わって、また部屋に戻ることになった。
「ラディー、先にお風呂に入ってね」
「ああ、わかった。では、先に入らせてもらうよ。だが、僕たちは夫婦なんだから、一緒に入ったりしなかったのか?」
「えっ? ええ、とっても愛し合ってるから、もちろん入るわよ。でもね、旅の途中だと、疲れてるから……。別々に入りましょう」
「ああ、それもそうだね」
納得したようで、ラディーはバスルームに一人で入った。
はあ……、会話の一つ一つに緊張する……。
私はその場にへたり込んでしまった。




