10話 初めての夜
「でも、へたりこんでいる場合ではないわ!」
私は両手で自分の頬をパチパチとたたき、気合を入れる。
最後まで嘘を貫き通すのよ!
しばらくすると、バスローブを着たラディーが、バスルームから出てきた。
黒髪からしたたり落ちる水をタオルで拭き、胸がはだけた姿のラディーは妙に色っぽい。
その姿にドキッとして、カッと顔が熱くなる。
夫婦なのに今更赤くなるなんて、変に思われるわ。
「じゃあ、私も入りますね」
私は顔を見られないように、急いでバスルームに逃げ込んだ。
ゆったりとお湯に浸かって、疲れをとりたくても、この後のことを考えると、緊張でかえって身体が硬くなる。
私は、お風呂から出ると、バスルームで寝着に着替えてから部屋に戻った。
部屋の中では、ラディーも寝着に着替えていて、ベッドに腰を掛けて、私が出るのを待っていた。
ドキンッ!
ラディーが私をじっと見ている……。
私は自分の顔が赤くなっているのが、見なくてもわかった。
お風呂上りだと言うこともあるだろうけど、さっきから顔がほてって仕方がない。
「リリア、髪が濡れているね。僕が拭いてあげよう。椅子に座って」
「えっ……、は、はい」
私がドレッサーの椅子に座ると、ラディーはタオルを使って丁寧に長い銀髪を拭き始めた。
「僕は、毎日こんなことをしていたのかな?」
「も、もちろんよ。あなたはとっても優しいもの」
「ごめんね。まったく覚えてなくて……」
悲しそうに言うラディーの顔を鏡越しに見て、私の胸はチクリと痛んだ。
ごめんなさい。嘘ばっかりで……。
「さあ、だいたいは乾いたよ。ところでリリア、僕たちは夫婦なんだから、夜の営みもしてるんだよね」
「えっ? ええ。も、もちろんよ」
とうとう来た! 夜の営み……
「夫婦なんだもん。当り前じゃない」
「ごめん。そんな大事なことも、僕はどうしても思い出せないんだ。僕たちはどれくらいの頻度でそういうことをしていたの?」
「そ、それは……、あ、愛しあってるんだから、ま、毎日よ!」
「そうか……。じゃあ、君を抱いたら、思い出せるかもしれないね」
ドキンッ!!! 心臓の音が激しく鳴った。
ううっ、く、苦しい……。
「あ、あのね。私、とってもあのときの声が大きいの。だから旅の途中では、しないでおこうって、約束してたのよ。ほら、お隣の部屋の人に迷惑でしょ? ねっ?」
「そ、そんなに大きいの……?」
「そ、そうなの。だから、ボレアリスに着くまで、お預けよ。約束通り、お互いに我慢しましょうね」
「ああ、わかった。約束は守らないとね」
ラディーが、超がつくほど真面目な人で良かった……。
私はほっと胸をなでおろした。
「じゃあ、寝ようか」
「はい」
私たちは一つのベッドで横になった。
隣にいるラディーのことを考えると、さっきから心臓が高鳴って、眠れそうにない。
そっとラディーに目を向けると、ラディーはもう眠っているようだった。
今日はあまりにも慌ただしくて、いろんなことが目まぐるしくおこって、きっと疲れているわよね。
婚約破棄、自殺未遂、服毒自殺、そして記憶喪失……
記憶を失くしたと言っても、その精神的な苦痛は計り知れないものがあったことだろう。
ねえ、ラディー、私はあなたに後悔して欲しくない。
私が妻で良かったと思ってもらえるように頑張るわね。
愛しているわ。私のラディー。




