8話 密談
キャロル様の部屋のソファーにグリックは座っていたのだが、なんとも腹立たしいことに、キャロル様はグリックの膝の上に座り、二人はイチャイチャとおさわりをしながら夢中になって密談している。
「グリック、ああ、いいわ。好きよ。ああん、もっと……」
「キャロル様、あなたの滑らかな肌に触れるなんて、私は国一番の幸せ者です。どうですか? 気持ち良いですか?」
「ああん、気持ち良いわ。ねえ、私、アスラスよりも、あなたと結婚したいわ」
「ああ、何と言う幸せなのでしょう。キャロル様にそのようなことを言ってもらえるなんて……。私だって、キャロル様と結婚したい。ですが、私は王配教育を受けているわけではありませんし、公務についてもよく知らないのです。そんな私が、王配になどなれるのでしょうか」
「それなのよね。お父様がアスラスを王配に選んだのは、天才的な頭脳を王家のために使って欲しいと思ったから。現に今も私の公務を難なくこなしているわ。そうだ、いいことを思いついたわ!」
「キャロル様、いいこととは? 私はキャロル様の王配になれるのですか?」
「ふふふっ、アスラスを王配補佐にすれば良いのよ。王配補佐なんて言う役職はないけれど、作れば良いのよね。そうすれば、アスラスは王家の役に立つからお父様も反対しないはず……。そして私たちも、公務をアスラスに任せて楽しく遊んで暮らせるわ」
「さすがキャロル様、なんて賢いのでしょう。是非そうしましょう。キャロル様、愛しています」
「ああ、グリック、私もよ」
二人は熱い抱擁とキスを重ね、もつれるようにベッドへと移動した……。
ひどい、ひどいわ、あんまりよ!
なんて可哀そうなアスラス様。
キャロル様のためにしていることが、仇になって返されて、その上、裏切られているなんて……。
私は翌日、アスラス様にお茶をお出しした際に、どうしても我慢ができずに聞いてみた。
「アスラス様、失礼ですが、どうしてもお聞きしたいことがございますが、よろしいでしょうか?」
「どうしたんだい? あらたまって……。メリーには、いつも世話になっているからね。僕に答えられることならなんでも答えよう。いったい何を聞きたいのかな?」
ああ、アスラス様は、身分の低い私の不躾な願いすらも、真摯に答えようとしてくれる。
こんなに優しい人なのに、あの王女は……。
メラメラと、キャロル様に対して憎しみが燃え上がってくる。
「失礼ですが、キャロル様との政略結婚を、どのようにお考えなのかお聞きしたかったのです」
「ああ、そのことですか。僕たちの間には恋愛のような愛がないことは承知しています。ですが、国王陛下が自ら僕に、王配になって欲しいと頼まれたのです。これほど名誉なことがあるでしょうか。それに、没落寸前だった我が伯爵家が、僕が王配になることが決まって盛り返して来たのです。兄には苦労を掛けましたが、今はとても喜んでくれています。僕は、愛はなくても、お互いを尊敬しあい、思いやりのある態度で接すれば、夫婦としてやっていけると信じています」
「アスラス様は、思いやりいっぱいでキャロル様のお仕事を引き受けていらっしゃいますが、キャロル様はそれに胡坐をかいて、アスラス様にすべての公務を丸投げしているだけではありませんか」
「そのことについても、結局は僕を信頼してくれているからだと思うのです」
「はあ、アスラス様は人がよすぎます」
この三ヶ月後、キャロル様の19歳の誕生日パーティーで、アスラス様は婚約破棄を言い渡されたのである。




