7話 キャロルの恋人
「何かお手伝いできることはありますか?」
私はアスラス様のことが気の毒に思えて、お手伝いをしたくなったのだが……
「うん、そうだね。ちょっと待ってね」
アスラス様は、あっという間に書類の山を読み終えて、届ける部署別に分類した。
「では、これは行政部に、これは人事部に、これは、財務部に、それからこれはキャロル様のサインが必要だから、サインをもらったら持ち帰って欲しい」
私が頼まれた仕事をして執務室に戻ると、アスラス様はねぎらいの言葉をかけてくれた。
「メリー、手間をとらせたね。ありがとう」
ああ、なんて優しいアスラス様……。
それからも、キャロル様は毎日のようにやって来ては、自分の仕事を丸投げしていたのだが、とうとう、自分で執務室まで足を運ぶことをせず、侍女に書類運びを任せるようになった。
アスラス様の仕事の量はますます増えて、夜遅くまで執務室に残っていることも度々あったが、文句ひとつ言うことはなく、黙々と仕事をこなしていた。
私は、昼間はアスラス様の専属メイドとして働いているが、夜は天井裏に忍び込んで諜報活動をしている。
活動できるように、寝室は一人部屋にしてもらっているのだが、メイド長がお父様の配下なので、こういうところはとても融通が利く。
キャロル様が、アスラス様の執務室に来なくなった頃から、キャロル様の私室に、伯爵家の次男のグリック・ブラカリアが出入りするようになった。
と言っても、結婚前の王女の私室に堂々と入ってくるわけではなく、窓からのお忍び密会である。
グリックは、金髪に緑の瞳の超美形の令息で、口を開けば、キャロル様が喜ぶような甘い言葉を吐き続けるような男である。
前々から、キャロル様は超美形の令息がお好みなのだと知っていたが、これほど頻繁に私室に招き入れることはなかった。
それなのに、グリックに対しては明らかに違っている。
コンコンコン
窓を軽くノックする音がした。
「まあ、グリック、来てくれたのね。待っていたわ」
キャロル様が喜び勇んで窓を開けて、グリックの手を引き、椅子に座らせる。
「キャロル様、あなたのためなら、たとえ燃え盛る炎の中であろうとも、冷たく深い水の中であろうとも、どこへだって行けるのです」
「ああ、グリック、あなたに会えて、私は幸せよ。私の気持ちをわかってくれるのは、あなただけだわ」
「ああ、天の女神の如くお美しいキャロル様、ええ、私こそがキャロル様の運命の相手であり、良き理解者でございます」
「ええ、そうよ。あなたこそが私の運命の相手。アスラスなんて、父が勝手に決めただけよ。いっしょにいても、ちっとも面白くないの。好きなことは何?って聞いたら、読書って答えるのよ。私が目の前にいるのに、ひどいと思わない?」
「アスラスなど、所詮、木偶の坊と同じ。キャロル様の美しさも素晴らしさもわからないのでしょう」
「じゃあ、グリックが好きなことって何?」
「それはもちろん、キャロル様に喜んでいただけることでございます。キャロル様の喜びが私の喜びでもあるのです」
「そうよね。やっぱり、そうでなくっちゃ! うふふ、グリック、あなたって最高だわ!」
天井裏でこの二人の会話を聞いていて、虫唾が走った。
キャロル様が自分の仕事もせずに、他の男性とイチャつけるのは、彼女の仕事をアスラス様がすべて肩代わりしているからなのだ。
それを知っているだけに、許せないと思った。
それにしても、窓から簡単に王女の部屋に侵入できるなんて、この城の警備、どうなってるの?
平和ボケしすぎてるんじゃない?
また別の日に、天井裏からキャロル様の部屋を覗いていると、とんでもない密談を目撃してしまった。




