48話 訪問
馬車からまだ降りていないのに、ドアをドンドンと叩いて「大変だ!」と騒ぎ立てている父と兄。
「どうしたのですか? そんなに慌てて」
僕が馬車から降りると、父が震える手で手紙を差し出した。
「お、お前に縁談が来ているのだよ。な、なんとあの、ロウタス侯爵家との縁談だ」
顔を真っ赤にして、父は興奮した口調で言った。
「お前、ロウタス侯爵家のリリア様と知り合いだったのか?」
兄もかなり興奮している。
「いえ、知り合いとは言えないと思います。先日行われた舞踏会で、一度ダンスを踊っただけですから」
僕はあのとき初めて見たリリア様のことを思い出した。
輝く銀髪に、知的な光を宿す金色の瞳、薄水色のドレスを身にまとう姿は、まるで湖から抜け出てきた妖精のようだと思った。
それだけじゃない。
彼女と一緒に踊っていると、何故だかすごく懐かしい気持ちになった。
暖かくふわりとした幸せな気持ちに。
うっかりメイドのメリーと声が似ているからなんて言ってしまったけれど、彼女は怒らずに、気にしてないと言ってくれた。
でも、なんだかとても寂しそうに感じたのは気のせいだろうか?
「先方は、お前の予定が合えば、一週間後にここに来るそうなのだが、大丈夫か?」
「はい。何故僕なのか、よくわかりませんが、お断りするのは失礼でしょう。その日で良いとお返事してください」
「よしわかった。すぐに返事を出しておくぞ」
父は鼻息荒く書斎へと走って行った。
アスラス様が王宮から離れて一週間、私は王宮で相変わらず諜報活動を続けていたが、昨夜にロウタス邸に戻って、準備のために時間を費やした。
本日は待ちに待ったメイズ伯爵邸を訪問する日なのである。
事前に手紙で訪問の目的は知らせている。
服装に乱れはないか、出かける前に鏡の前で、入念にチェックした。
ふわりと膨らむスカートが愛らしい淡いピンクのドレス、胸元には真珠とオパールをあしらった派手過ぎない上品なネックレス。
そして流れる銀髪を飾るのは、ラディーに買ってもらった真珠とオパールの髪飾り。
鏡の中の私は、ロウタス侯爵家の娘として、どこに出しても恥ずかしくない気品を漂わせている。
本日の訪問は、私と父の二人である。
私一人でも良かったのだが、それは父が反対した。
貴族の結婚は、家同士の結びつきが第一であるから、娘一人で行っては舐められる。
こちらの本気を見せるためにも、親が同行するべきだと、父の主張はもっともなものだった。
父もアスラス様に戻って来てほしいと、切実に思っているのだ。
私と父が馬車を下りると、メイズ伯爵とアスラス様のお兄様、そしてアスラス様自身が出迎えてくれた。
簡単な挨拶を交わしたけれど、メイズ伯爵とお兄様は声が上ずり、すごく緊張している。
三人の中で落ち着いているのは、アスラス様だけみたい。
挨拶を交わした後、私たちは応接間へと案内された。
テーブルを挟んで、私と父、アスラス様のご家族三人が向かい合って座った。




