45話 作戦のシナリオ
美味いワインを一口飲むと、兄ボガードが口を開いた。
「アピウムからの情報だが、捕まった奴らは、聞かれたことに素直に答えているそうだ。だが、グリックと王女の主張が平行線のままだ。グリックは王女に頼まれたからだと言い、王女はグリックに言われたことに従っただけで、殺すとまでは思っていなかったと言っている。おそらく、二人の主張が嚙み合うことはないだろう」
この二人が平行線のままなら、キャロルの罪は裁判の判決が答えとなるのだろう。
「それから、メイドの証言だが、グリックは、自分に協力してくれたら、いつまでもそばに置いてやると言ったらしい。メイドは本気で惚れていて、王女のスケジュールから警備兵の動きまで、言われるままに情報を横流しにしていたそうだ。今回の件で目が覚めたと言っている」
兄の言葉を聞いて、グリックの手練手管を使った人心掌握術の恐ろしさを知り、少し身震いがした。
今回の婚約白紙大作戦は、皆の協力のもと、シナリオ通りに進んだ。
そもそもこの作戦は、舞踏会の夜に、私がキャロルとグリックの逢引き現場を見たことから始まった。
私が見る限り、会場で二人が接触することはなかった。
それなのに二人が迷うことなく庭で会えたのは、情報提供者がいるからだと睨んだ。
庭の地図を事前に渡し、舞踏会当日に、グリックから預かった手紙をキャロルに渡せる人物。
おそらくそれは、メイドの誰かだろう。
グリックがキャロルの私室に忍び込めたのも、情報を提供している誰かがいて、しかも秘密の抜け道を通って出入りしているのだと考えた。
だから、それを利用することにした。
猫を使って運命の出会いを演出した後、劇場で運命をさらに印象付けた。
そしてキャロルに招かれたお茶会で、高価な虹の女神を贈った。
一つは身に着けるため、もう一つは願い事をすることで、部屋の中に置かせるため。
贈る際には、その場にキャロルのメイド5人全員を控えさせ、虹の女神がよく見えるようにした。
キャロルをロウタス侯爵邸に招いた時間、メイド長アンナの指示で、一人ずつ時間差をつけてキャロルの部屋の仕事をさせた。
虹の女神を盗むチャンスを与えたのだ。
金に困っているグリックのために、盗むであろうと想定してのことである。
ジェニファは天井裏でメイドの動きを監視し、虹の女神を盗んだメイドを特定した。
一方、グリックの監視はステイクにお願いした。
お蔭で抜け道を通って城外に出たメイドが、グリックに虹の女神を渡す現場を確認する
ことができた。
それから、ロウタス侯爵邸のメイドの中にも情報提供者がいる。
ベリードに変装した私と兄は、今後の予定を部屋に控えたメイド全員に聞こえるように話した。
いつ宝石店に行くのか、婚約の条件は何なのかも。
それはしっかりグリックに伝わり、誰が提供者だったのか特定できた。
このメイドも、グリックの術中にのめり込み、すっかり彼の虜になっていた。
今は、地下牢ですごしてもらっているが……。
ばれていることも知らずに、グリックは予定通りに宝石店にやって来て妨害しようとし、それが不成功に終わったら、次は賊に襲わせた。
賊に襲われた際は、上げ底ブーツが災いして一瞬ヒヤッとしたが、グリックの監視を続けていたステイクのお陰で難を逃れることができた。
ステイクには本当に感謝だ。
最後の仕上げは、兄を通じてアピウムに頼むことにした。
アピウムは、混凝土事業の視察でロウタス侯爵領を訪れていて、兄ととても気が合ったそうだ。
酒の席でも話が盛り上がり、アスラス様の婚約破棄の話になると、キャロルとグリックに対して激しく憤慨していたらしい。
それを見込んで、すべての情報をアピウムに伝えたら、彼は迅速に動いてくれて、速やかにグリックを捕まえることができたのだ。
目標が達成できたのは、皆の協力のお陰である。
私は皆に改めて礼を言った。
「リリア、初めの計画通り、王女を王太女の身分から引きずり落し、婚約も白紙に戻った。グリックの罪を暴くこともしかり。だが、もう一つ、アスラスの奪還がまだなのだが、それはどうするのだ?」
父の言葉が重く響いた。
皆が私に注目する。
私は一息ついてから、口を開いた。




