44話 グリックの罪
「それは、ここにいるグリック・ブラカリア伯爵令息でございます」
「はあ? 何を言っている?」
グリックが、鬼のような形相でアピウムを睨んだ。
ついさっきまで、勝利の笑みを浮かべていたのに、天と地がひっくり返るとはこのことなのだろう。
アピウムは懐から金銀で装飾された小箱を取り出した。
「これが、その虹の女神でございます。たった今、ブラカリア伯爵邸から押収してまいりました。目撃者がいたので、すでに共犯者も捕えております」
騎士が縄で縛られた女を連れて来て、国王の前に跪かせた。
ブルブルと震えている女は、キャロルの専属メイドの一人で、疑われた際に一番に身体検査を願い出たメイドである。
あの時の威勢の良さは、今はまったく見られず、まるで別人のように小さくなっている。
「だが、メイドは城から出ていないはずだが、どうやって渡したのだ?」
「この女が言いますには、グリックに秘密の抜け道を教えてもらっていたので、城を出て連絡を取り合う際には、それを使っていたそうです」
「な、何を言う? 私はそんな女など知らない」
グリックは必死に否定したが、それはメイドの心を激しく抉った。
「グリック様、なんてひどいことを! 陛下、も、申し訳ございません。どうか、お許しください。私はグリック様に唆されてしまったのです」
メイドはボロボロと涙を流して救いを求めた。
「グリックの罪はこれだけではありません」
「まだあるのか?」
「あの者たちをこれへ」
アピウムの指示で、騎士たちが縄でつながれた男たちを連れてきた。
男の数は12人。そのうちの10人は包帯をグルグル巻きにしている。
騎士の「座れ」の声で、男たちが一斉に跪いた。
「こちらの2人は、アスラス様と、専属メイドを殺害しようとした者たちです。それから、残りの10人は、ベリード様を襲った者たちです。皆、グリックに頼まれたと証言しております」
アピウムは、淡々と陛下に聞き取った事実を伝える。
「まさか、ここまでするとは……。グリック、何か申し開きはあるのか?」
「ううっ、ですが、アスラスとメイドのことは、キャロル様に頼まれてしたことなのです。ですから、私だけの罪ではございません」
「な、なんですって?」
グリックの言葉に、キャロルが激しく反応した。
「お父様、私はメイドに買い物に行かせましたが、それはグリックに言われたからそうしたまでのこと。まさか殺害するつもりだったなんて思いもしませんでした。ですから、私に罪などございません」
陛下は二人のやり取りに頭を抱えていた。
「はあ、もう良い。取り調べの際に自身のことを証言しなさい。皆の者、この者らを、牢屋に連れて行きなさい」
「お父様、私は違いますよね」
「キャロル、お前もだ。取り調べを受けなさい」
「お、お父様!」
騎士たちは、グリック、キャロル、メイド、そして男たちを連れて謁見の間を出て行った。
残された者は、ただ息を飲むばかりで、騒がしかった部屋に、しんと静寂が訪れた。
「ベリード大公子、まったく、恥ずかしいところを見せてしまった。そなたの命も狙うとは。このお詫びはまた後日にさせてもらおう」
「いえ、私は無傷でしたし、盗まれた虹の女神も取り返すことができました。お気持ちだけ受け取ることにいたしましょう。では、私はこれにて失礼いたします」
その夜、婚約白紙大作戦に関わった6人がロウタス侯爵邸に集まり、作戦の成功を祝って祝杯を挙げた。




