42話 謁見
「国王陛下、手紙にてお知らせした通り、本日はキャロル様との婚約を許していただくために参りました」
「ベリード大公子、王女も婚約を望んでいるので、私は許すつもりであるのだが、本当にそれで良いのだな?」
「はい。もちろんでございます。キャロル様の美しさも清い身体も、大公家に相応しく、条件を満たしております。私の心を形に表したく、本日は指輪をお持ちいたしました。どうぞお受け取りください」
私は懐から箱を取り出し、パカッと蓋を開けてキャロルの前に差し出した。
「まあ、美しい。ベリード様の瞳の色ですわね」
大粒のサファイヤも周りの三重のダイヤモンドもキラキラと煌めき、その輝きをキャロルはうっとりと眺めた。
「キャロル、再度確認するが、お前は本当に王位継承権を放棄するのだな」
「はい。私は他国に嫁ぐので、弟のサミュエルに王位を譲ります」
「では、ここにサインをしなさい。一度サインをしてしまうと、もう元には戻れない。それで良いのだな」
「お父様、しつこいですわよ。私は国王よりも大公家の妻の方が、性に合っているのです」
キャロルは嬉しそうに書類にサインをした。
「これにて、キャロルは正式に王太女の身分を失い、本日をもってサミュエルを王太子とする。そして、王配として婚約していたアスラスとの婚約を解消するものとする」
そう宣言した国王の声が、何だか嬉しそうに聞こえる。
次期国王の不安が解消されたからだと思うのは、私の気のせい?
「国王陛下、ありがとうございます。では、私は本国に帰って婚約の準備をいたします」
これにて謁見が終了したと思われたそのとき、入り口のあたりが急に騒がしくなった。
「通してくれ!」
「お待ちください。許可なく入ることはできません」
「今、私を通さなければ、国際問題に発展するぞ!」
「何を根拠に?」
「ベリード様は、キャロル様がいる場所で、私の話を聞きたいと仰ったのだ!」
押し問答で叫んでいるのはグリックだった。
キャロルは声を聞いた瞬間、ビクッと震え、笑みが消え、青ざめた表情になった。
国王陛下はうんざりした顔をしていたが、私に視線を移して問うた。
「あの者が、ああ言っているが、それは誠か?」
「はい。少し前に、キャロル様のことで私に話があると言ってきたので、どうせよからぬことを言うのだと思い、話したいのならキャロル様がいるときにせよと、申したのです」
「そうか。では、グリックを中に入れなさい」
国王のそばに控えていた侍従が動き、グリックを国王の前に連れてきた。
「陛下、私を中に入れていただき、感謝申し上げます」
「ベリード大公子との約束があったようなので入れたまでだ。して、話したいことがあれば、手短に言いなさい」
「では、私の話を聞いてください。私は、キャロル様がご公務で孤児院の視察をしている最中に、偶然出会いました。子どもとぶつかり倒れそうになったキャロル様を、たまたま通りがかった私がお救いしたのです。キャロル様と私は、これぞ運命の出会いだと思いました」
出たよ! キャロルが好きな運命の出会いが。
おそらくこれも、グリックが仕組んだのだろうけど……。
「私たちはすぐに意気投合し、お互いを運命の相手だと思い、愛を育んでまいりました」
キャロルを見たら、顔面蒼白で、拳を握りしめてブルブルと震えているのだが、グリックはキャロルを見ずにそのまま語り続ける。
「そして私たちは、身も心も愛し合うように…」
「や、やめて!こんなこと、嘘よ。ベリード様、この男は嘘を言ってるのです。お信じにならないでください!」
キャロルはキンキンと声を張り上げて、グリックを必死に止めようとした。




