36話 劇場
私は予約した貴賓席に案内されると、キャロルの姿を探した。
遠くからでも目立つキャロルはすぐに見つかったが、キャロルは、付き人とのおしゃべりに夢中で、こちらにはまったく気がついていない。
貴賓席に座っているキャロルは、相変わらず派手なドレスを着て、ジャラジャラと宝石で身を飾っている。
今日のドレスの色は金色で、いったい外見にいくら金を使えば気が済むのだろう。
こんなところも、アスラス様とは大違いだ。
今回の芝居の内容は、キャロルが好きそうな運命の出会い系のお話。
運命の出会いをした二人が、様々な困難に立ち向かい、やがては結婚するという内容。
劇が終わると、キャロルは満足した笑みを浮かべて、席を立った。
貴賓席を利用したキャロルは、一般席とは違うルートで劇場の外に出る。
それは私も同じで、外に出る前に、私は偶然を装ってキャロルと出会ったフリをした。
「おや、あなたは、あの時のお嬢さん。こんなところでお会いするとは、偶然ですね」
「まあ、あのときは、助けていただきありがとうございました。ここでお会いできるなんて……、運命的なものを感じますわ」
出たよ、運命的な出会い!
「僕も同じことを感じました。まさしく、僕たちは運命的な出会いをしたのですね。猫に感謝したくなります」
「まあ、そのような……。あの、お名前を伺ってもよろしいですか?」
「これは失礼いたしました。僕は隣国シュレイン王国の大公の嫡男、ベリード・オレラケアと申します。よろしければ、あなたのお名前を伺っても?」
「ま、まあ、シュレイン王国の大公のご嫡男でいらっしゃいますのね。お見かけしないお顔だと思っておりましたが、納得いたしましたわ。私はこの国の王女、キャロル・ヴェリタと申します」
「なんと、王女様でいらっしゃいましたか。存じ上げず、誠に失礼いたしました。あなたのように美しい姫にお会いできたこと、運命の神に心から感謝をしたい思いです。僕は今、旧知の友であるロウタス侯爵家のボガードの邸宅にて宿泊しております。またお会いできることを楽しみにしております」
「また会えるのかしら?」
「はい。王女様さえよろしければ、僕はいつでも馳せ参じましょう。では、これにて」
私は背中に熱い視線を感じながら外に出て、ロウタス侯爵家の馬車に乗って帰った。
それからしばらくすると、兄ボガード宛に王女から手紙が届いた。
「来た来た。こうも順調にコトが運ぶと、怖いくらいだね」
「お兄様、それだけ、今までの諜報活動が実を結んだと言うことですよ」
敵を攻略するには、敵の性格、行動範囲、あらゆることを調査し、そこから答えを導き出すのが鉄則である。
一年間、キャロルの専属メイドをして観察を続けてきたのだから、私ほどの適任者はいないだろうと思われる。
手紙は、お茶会の誘いであり、ボガードと一緒にベリードも参加するようにと書かれていた。
本当はベリード一人を誘いたかったのだろうが、婚約者がいる身であることを考えて、男性と一対一で会うことは避けたのだろう。
私と兄は、三日後の指定された時間に王宮へと赴いた。
「王女様、本日はお招き誠にありがとうございます」
「招待状に僕の名前も連ねていただき、誠にありがとうございます。王女様にお会いできる喜びは、天上にも勝る思いでございます」
兄に続いて私も挨拶をした。
「堅苦しい挨拶はおしまいにして、どうぞお座りになって」
キャロルの言葉で、私と兄はテーブルを挟みキャロルと向かい合って座った。
「本日はベリード様のお話を聞きたかったのですわ」
「麗しい王女様、何なりとご質問ください」
「ベリード様は、どうして我が国を訪問なさったの?」
「それはですね。僕とボガードは、古くからの友人でして……」私はにこやかに、キャロルの問いに答えていく。
話は弾んでいたが、もうそろそろ頃合いだと思って、私は美しく装飾された箱を目の前に差し出した。




